帝国紀行 その3
斥候は女将に金粒と銀粒で宿代と食事代を支払う。
「部屋は二階の二号室だよ。
それとも、先に食事にするかい?」
斥候は少し思案し、先に食事を済ませることにする。
「わかった、空いてる席に座っとくれ。
今日の食事は“レンコ”の干物とアラ汁だよ。」
“レンコ”と言うのは魚の一種で、王国と帝国の間にある海で取れる。
白身で味はあっさりとしているが上品な味。
王国では主に焼いて食べる事が多い。
干物にしているのは長期保存の為だろう。
斥候は空いている席に座る。
少し離れた席で噂話をしている商人達の話に耳を傾けた。
「おい、聞いたか?
皇太子様が兵を集めているって言う話。」
「知ってるぜぇ。
なんでもダンジョンを攻略するとかなんとか。」
「皇太子様が?あの人武勇は良いけどなァ
こっちの方が・・・」
商人の一人が頭を指さしくるくる回す。
「ダンジョンか・・・。
でも攻略は皇帝陛下が禁止していなかったか?
資源として利用すべきとかなんとか?」
「ああ、皇帝陛下と皇太子様は仲が悪いからなぁ。
皇帝陛下のやることの反対の事をしたがるんだよ。
加えて武勇自慢の所もある。
皇太子様は気前がいいけどそう言うところがなァ。」
商人達は皇帝や皇太子についての噂話で盛り上がっている。
彼らによると皇太子は武勇に優れているが自尊心が強く、身内に甘い。
だがこれは商人の主観に過ぎない。
この情報の裏付けを取って初めて正しい情報として報告できる。
斥候が今後の方針を考えていると料理がやって来た。
「はいよ。
“レンコ”の干物の塩焼き、アラ汁、それとパン。」
大きな木製の皿の上には20cmほどのレンコ、
木のお椀には数切れの野菜の入った汁物、
小さな木の皿の上にはライ麦パンが載っていた。
この町は海からそう遠くない為か魚中心の料理の様だ。
汁物も魚の出汁が効いて美味い。
塩も豊富にある様だ。
パンも固くない。
食事代も銀貨1枚にしては立派なものだ。
これらの事は帝国内の物の流れがしっかりしている、
つまり、帝国内が平和で安定していることを示していた。
(やはり、帝都まで行く必要があるな。)
帝都まで行く必要があるが、路銀が足りそうにない。
斥候は帝都まで行く方法を考えるが、いい案は浮かばなかった。
そうこう考えていると、
「ギルドへ行ってから帰るわ、みんな、お疲れ!」
手を上げ仲間に挨拶をすると出て行った。
「「「お疲れ。」」」
商人仲間も挨拶を返すが、次に彼らの噂話の標的になったのは、
今出て行った商人だった。
「そう言えばあいつギルドに行くと言っていたが、
ギルドってアレだろう、皇帝陛下肝いりの探索者ギルド。」
「ああ、どこかの王国にある“冒険者ギルド”とやらのマネらしい。
何でも優秀な者を集めてダンジョンでの採集をやらせている。」
「優秀って!
誰でも登録できるのに、優秀は無いだろう。」
「そのおかげで、面倒な薬草取りも安く上がるんだがな、
いかんせん、ガラが悪い。」
どうやらどこの冒険者ギルドは似た様なモノの様だ。
いや、この国では探索者ギルドか・・・。
路銀を手に入れるのに丁度いいかもしれない。
そう考えた斥候は
明日、探索者ギルドへ行くことに決めた。




