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魔導士はスローライフを手に入れた・・・が?

その日、ハロルド・サーバルは王宮のメイドに案内されていた。

弟であるカイの工房を訪ねてやって来たのである。

ハロルドの服装は領内で着用している様な着古した装いではなく、仕立て上ったばかりの新品の服装だった。

オーダーメイドの服装。

以前の彼ならば考えられなかったことだ。


王都でのカイの工房は王城の一角に存在し、工房へ訪れるには城の中を通る必要がある。

その様な場所を通る時に普通の服装で良いわけがない。

まして着古した装いなどはもっての外である。

その為、服装を新たに仕上げる必要があった。


ハロルドは工房の中、奥の部屋の前に案内された。

メイドは扉をノックすると中に声を掛けた。


「カイ工房長、サーバル子爵・・がお見えになりました。」


「判った。入ってくれたまえ。」


「失礼します。」



部屋は10m四方の大きな部屋で

入ってすぐ目の前に大きなテーブルと応接椅子、

両側に天井まである本棚、

奥にはさらに大きな机、

その後ろの壁一面にガラス窓と王宮の庭を一望できるテラスが見えた。

高さのある天井からは照明用のシャンデリアがぶら下がっており、部屋中をくまなく照らしている。


この部屋の主、魔導士カイは奥の大きな机に座っていた。


「失礼します。オールウェイ魔導伯。

本日は御招きいただきありがとうございます。」

ハロルドはカイに対し礼をした。


「王立工房へようこそ、サーバル子爵。どうぞ。」


カイは立ち上がるとハロルドに椅子をすすめた。

そしてメイドの方へ向くと


「紅茶を、それと何か軽い物を。」


「承知しました。」




応接椅子に座りカイとハロルドは束の間の団欒を楽しんでいた。

テーブルの上にはメイドが持ってきたポット、ティーカップ、クッキー類を乗せた皿が置かれていた。


「カイ、・・いやオールウェイ伯爵、工房勤めは上手く行っていますか?」


「兄上、その様な他人行儀な話し方はおやめください。」


「ふっ、そうか。

だが、お前は伯爵、私は陞爵したとは言え子爵。

その辺りの区別はすべきだと思うが?」


「公の場であるなら、そうでしょう。

ですが、ここは私の工房です。

ならばその工房の主の意志に従うべきなのでは?」


「・・・ははははは。

その通りだ。では主の意志に従うとするか。

時にカイよ、王宮勤めはどうだ?」


「そうですね、考えていたよりもずいぶん楽ですね。」

とカイは紅茶を飲みながら答える。


「ほう?それは結構なことだが・・・そんなに楽かね?」


「最初にいたギルドは知っての通り魔導士に理解が無かったので激務で、

リモーデにいた頃は魔導士が私しかいなかったので仕事が少し多かった。

それに比べて王宮勤めは定時に帰れるし天国のような所ですよ。」


ハロルドはカイが仕事を引き受けすぎる要因もあると思っていたが口には出さなかった。


「後、前に王宮に呼ばれた時と違って、走空車グエル飛行船レヴィキア関係が少なくなりました。

そのお陰で楽になっているのかもしれません。

あと、毎週あるのは錬金術や魔法の講義ぐらいで・・・」


「講義?王宮で?相手は騎士か?」

ハロルドは講義と聞いて少し疑問に思った。

王宮に講義を受けなければならない人物はいないはずなのだ。

該当するとしたら、その様な講義を受けることの無かった騎士ぐらいかと考えた。

紅茶を飲みながらその様な事を考えていると・・・


「ああ、三の姫様、マルティナ殿下の講義です。

剣術が得意な方らしく、魔術関係の知識が無いため講義を頼まれました。」


それを聞いたハロルドは思わず口に含んだ紅茶を吹き出しそうになった。


慌てて紅茶を飲み込み、カイを問いただす。


「三の姫?三の姫?あの剣術でも有名な?」

三の姫は剣術の大会でも好成績を残しており、人々の間では“剣の姫つるぎのひめ”と言われていた。


「あ、そうみたいですね。剣術が少し得意と言っておりました。」


「で、その、カイよ。お前はどうなのだ?」


「どう?と言われましても何が?」


「マルティナ殿下のことだよ!!」


「マルティナ殿下ですか?

剣術が得意なだけあって受け答えもはっきりしていますし、物覚えもいいため優秀な方だと思いますよ?」


「・・・・・・・」

ハロルドはその答えを聞いて少し頭が痛くなった。




カイがハロルドと面会していた頃

オールウェイにあるカイの屋敷に近づく二つの影があった。


一人は白銀の鎧を身に纏い、白く長い髪をたなびかせる美丈夫。

もう一人は明るい緑色のロングドレスを纏い輝くような緑の髪をした麗人。

さながらどこかの国の女王と守護騎士と言う出で立ちだが彼らが持つ気配は普通の人間のそれとは異なっていた。


「母上、見えてまいりました。

あれが魔導士カイの屋敷です。」


「ふむ。人の身で造ったにしては趣のある屋敷じゃな。」


麗人はカイの屋敷を見てそう評価する。

彼の屋敷は人族だけでなくドワーフやエルフの監修が入っている。

その為、この国では類を見ない作りになっている。

自然をミニチュア化したような庭やそれを眺める為の部屋。

靴を脱いで上がらなければならない部屋など独特のつくりをしていると言えた。

それが彼らには趣のある様に見えているらしい。


「周りのマナの循環も良い。

良く見つけたグヴィバー、じゃがこの近くに住居を構えた場合、問題になるかもしれぬの。」

麗人は魔導士がどの様な反応をするのかを心配している様だった。


「いいえ、母上。

ここの領主である魔導伯カイは我々に借りがあります。

それゆえに無下にされることは無いでしょう。

多少問題が起きても、かの魔導士ならば対処してくれるはずです。」


「ふむ、そうか。

ならば問題あるまい。」


麗人はそう言うと早足でカイの屋敷に近づいて行った。



ハロルドを見送ってカイは工房内で独り言ちた。


「工房の主任となるとゆっくりと好きな時に好きな様に研究できるし、

ウェスリック・・・じゃなかったオールウェイに帰ってもゆっくりと好きなことが出来る。

正にスローライフと言ったところだな!」

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