魔導士はダンジョンを報告する
リモーデの町に住む冒険者の義務に“ダンジョンの攻略および破壊”がある。これも辺境で安全に暮らすための決まり事なのだ。
「ダンジョンの攻略だけでなく破壊か……。王都では考えられないな。」
カイは辺境と王都との考え方の違いに少し戸惑っていた。軽いカルチャーショックの様な物を
受けていたと言ってもいいだろう。
王都ではダンジョンを攻略しても破壊することは考えられていない。
何故ならば王都はダンジョンが生み出す富、魔法銀やダンジョンモンスターから採れる魔石など、ダンジョンでしか取れない魔法的な物で経済が回っていた。
従って、ダンジョンを一つ破壊する事は王都の経済を揺るがす事になりかねない。
王都のダンジョンは適切に管理され、ダンジョンマスターの様な存在を生み出さない様にしている。これもダンジョンを壊さず長く活用する為の方法なのだ。
「辺境伯から聞いていたが、ダンジョンは出現次第、破壊の対象になるのだな。」
「・・・ダンジョン、放置、森、壊れる。」
ルリエルによるとダンジョンを放置することで森が汚染され生態系が破壊される。ダンジョンは時間が経つにつれ周囲に多くの魔物を輩出するからだ。魔物は存在するだけで付近の生態系をゆがめてしまう存在なのだ。
「ニライ。この前のダンジョンは何時だった?」
バハルがニライに前のダンジョンが出来た日を訊ねる。
「たしか、暁の月の一週目の黒の日。今日が宵の月の四週目の赤の月なので一月と十三日ですね。」
「今回は少し早いね。」
バハルには何か気になることがある様だ。
「兎も角、ダンジョンの位置を確認するよ!」
「「了解!」」
「確認してその後はどうする?」
「調査……と行きたいが、町へ報告に一人やるから無理だね。」
ダンジョン探索はたとえ調査であっても、四人パーティ以上が鉄則である。
一人が報告に言った場合、三人になる為ダンジョンの調査は無理だと言っているのだ。
「そうか、だが町への報告は誰かが行く必要はないだろう。」
カイはそう言うと、使い魔の梟“サスケ”を呼んだ。サスケは黒い翼をはためかせ、カイの肩に留まる。
「そうか!使い魔ね。」
カイの使い魔は数キロ先まで飛ぶことが出来る。使い魔に手紙を託せば問題はない。
「よし!決まりだね。」
そう言うとバハルは三人を集めて手順を説明する。
「まず、ゴブリンの足跡をたどりダンジョンを見つけ出す。発見次第、その場所を記した手紙を使い魔で町へ届ける。その後、補助魔法を使ってからの調査。いいね?」
その言葉にカイ、ニライ、ルリエルの三人は頷いた。
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ゴブリンの足跡が新しかった事と遊撃士のルリエルがいたことが幸いした。探索開始から一時間もかからずダンジョンを発見する。
カイは使い魔の“サスケ”に手紙を持たせ町へ飛ばした。そしてもう1羽の“サイゾウ”を目印としてダンジョン前に待機させる。
「よし、ゴブリンを見つけたとはいえ、ダンジョンモンスターの系列は判らない。みんな、慎重に行くよ!」
そう言うバハルを先頭に、ルリエル、カイ、ニライの順番に進む。ダンジョンは出来てあまりたっていないらしく階層も比較的浅そうだ。
しかし、どんなに浅くても出現するモンスターによって難易度は変わる。
王都の記録によれば、一階層しかないが扉の向こうに赤竜がいた場合もあったそうだ。
カイ達は今一度、気を引き締めるのであった。
補足説明
曜日は1週間5日、黄、緑、赤、白、黒の順番で
一月は6週間。
一年は12月で太陽、一の月、二の月(この世界に月は二つある)、暁、宵、夜、海、山、空、豊穣、狩猟、死となっている。
新年の5日もしくは6日(4年に一回)は光の日と言う新年を祝う週となる。




