迂回航路
リュファスが寝泊まりする部屋は船の最上階に作られ、そこには数々の立派な調度品、伯爵に相応しいとされる物で飾られていた。
部屋の中ほどに金細工が施された大テーブルがあり地図が広げられていた。
地図の上には船の形をしていたコマがあり、そこで艦長のジーンはリュファス達に“ケフェウス”取る航路を説明していた。
「ジーン艦長、この方角は?」
リュファスはスコルナとは違う方向への航路を示すジーンに尋ねた。
それを見た側近のメルケルが
「リュファス様。こちらはイスガルドの方角ですぞ。」
「はい。このままスコルナ領へ戻ろうとしても、現在の状況を考えた場合、サーバル領経由でスコルナ領へ向かうのがよろしいかと思います。」
ジーンは地図の上に置かれたコマを動かし説明を続ける。
「王国の飛行艦以外の走空車はゲインシュタット方面へ回り込んでいます。
我々がゲインシュタットへ到着する前に王国軍の走空車に挟撃されると考えます。」
ゲインシュタット近くに王国軍であろうコマを動かし説明を続ける。
「時間差から考えて、我々よりも先に到着した王国軍はケインシュタット前に布陣すると考えられます。
ゲインシュタットの投石装置は地上に対しては絶大な威力を誇りますが、射程距離は500mから800m。
それ以上の高さを飛ぶ事の出来る走空車には何の効果もありません。
王国軍の動きから見て、王国軍は我々がゲインシュタット経由で逃げるものと考えているでしょう。」
「そこでイスガルド峠経由の航路ならば王国軍を引き離すことが可能ではないかと。
この船で竜牙山脈を越えることも考えましたが、傷ついた状態では難しいかと考えます。」
ジーンの言う通り“ケフェウス”は高度1500mを維持するのがやっとの状態である。
2000m超の山々が連なる竜牙山脈を越えることは不可能に思えた。
「幸いゲインシュタットには我が駐留軍がおり奪還には相当な時間が掛かるものと予想します。
その間にイスガルド峠経由で、サーバル領抜けスコルナへ帰還いたします。」
ジーンは地図に予定航路を書き示した。
「この航路が最も安全にスコルナへ帰還できる航路であると確信しております。」
リュファスはジーンの航路計画を聞き少し思案した。
ジーンの計画には楽観的な個所が多い。
だが、ゲインシュタットを目指しても王国軍に挟撃されるのは疑う余地も無い事だった。
障壁用の魔法陣はまだ健在であるが、王国軍の絶え間ない攻撃に耐えることが出来るとは考えられない。
竜牙山脈を越えるにも、船は傷つきすぎている。
「仕方あるまい。イスガルド峠経由の進路を取れ。」
「「はつ!」」
ジーンとメルケルはリュファスに敬礼をすると急いで部屋から出ていった。
(“ケフェウス”の速度をもってすれば間に合うだろう。
スコルナへ帰り着いた後、どうするか・・・。
やはり、走空車や飛行艦の増強が必要か。
その前に王国軍との一戦だな。
幸い、スコルナには防御用の砲台はある。)
リュファスは一人部屋で到着後の戦略を練っていた。
だが、“スコルナにたどり着くことが出来ない“とは考えてもいなかった。




