魔導士は薬草を採取する
カイはバハル、ニライ、ルリエルの三人と東の森、輝く星の森に来ていた。
独自の調合をする為、調合用の薬草が足りなくなったためである。
森はその名の通り、マナの光が夜空の星のようにキラキラと輝いている。木々の葉が風にゆれながら所々光り明るく辺りを照らしていた。
「バハルさんとニライさんは付近を警戒をお願いします。ルリエルさんは薬草の採取をお願いします。」
「了解。それとあたしのことはバハルでいいよ。」
「私の方もニライでいいです。」
そしてルリエルはコクリとうなずいた。
「しかし、回復薬を調合するのに材料の採取をする人間は初めてだよ。いつも店で買うと思っていたんだけどね。」
「私は“必ず採集する”というわけではないのです。ただ、質の良い回復薬を作る為には新鮮な物が必要なのです。その為、自分で採集するのですよ。」
通常品質の回復薬を作るのであるなら市販の薬草でも十分である。ただ市販の薬草は古い物も多く普通品か粗悪品(失敗作)しか作れない。
カイは高品質品を作る為に新鮮な薬草を欲しているのだ。
「へぇ~。そうなのか。あたしはその辺に詳しく無くてね。仲間のアイリスなら知っているかもね。
魔法使いだし。」
「今日はその魔法使い殿は留守番ですか・・・。」
「あの子は何か月間から留守番だよ。だってこれだしね」
バハルはそう言うと手でおなかが大きいというジェスチャーをした。
「アイリスさんもディンカさんの奥さんなんですか!?」
「ハハハハハ、まさか!アイリスはスタンの嫁だよ。」
話を聞いてみると、彼らは同じゴラウズ村の出身でパーティを組んでいるのだそうだ。 名前の”ゴラウズ”はその村の出身であると言う事を表している。
スタンやディンカは魔法使いのアイリスが身重になった為、貿易商人に雇われているとのこと。
「スタンさんのねぇ・・・まてよ、赤ん坊が生まれるなら鞄を買う余裕はあるのかな?」
「鞄?」
「ああ。スタンさんは空間収納の付きの鞄を欲しがっていて……。」
「「……」」
バハルとニライはお互い顔を見合わせてカイに詰め寄る。
「「その話をもう少し詳しく!」」
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「なるほど。これはアイリスへの報告の案件ですね。」
と言うのはニライ。
「空間収納は便利だから判るけどねぇ。今はダメね。」
これはバハル。
カイの発言から二人はスタンのへそくりを嗅ぎつけた様だ。
(スタンの空間収納付き鞄が遠くなったかな?)
スタンに対して心の中で少し謝るカイであった。
ザツザツザッ
「うぉおう!」
カイは驚きの声を上げる。
突然、視界に緑色の草の塊が飛び込んできたのだ。ルリエルが一抱えも薬草を持って来た。カイの索敵に薬草の塊は判らない為、驚いてしまった。
「凄い量だな……。質も良いし、それぞれ束ねられている。」
「……助け。お礼……。」
「「ルリエルが長く話している!!」」
そう言われて首をかしげるルリエル。
「・・・言葉、必要?・・・人間、未熟。」
ルリエル曰く、相手の行動を見ていれば予想できる。人間はその洞察力が足りないらしい。
だがそれは人より長く生きるエルフだから出来る洞察力であるともいえる。
カイはルリエルから受け取った薬草を鞄に収納しながらそんなことを考えていた。
その時、カイによる葉法での索敵に何かが引っ掛かる。ゴブリンが三匹である。ことなげに使い魔を通し呪文で殲滅する。
「・・・ゴブリンが三体か。」
「「「!!!」」」
だが、その言葉を聞いた三人の顔に緊張が走る。
バハルやニライ、リリエルがお互いに頷き合うとカイの方へ顔を向ける。
「・・・カイ。いや魔導士カイ殿。」
「え?突然改まって何ですか?」
「緊急事態だ。これからゴブリンがいたと言う場所へ赴かなくてはならない。カイ殿はこの町に来たばかりで知らないかもしれないが、これはリモーデの町に住む冒険者の義務なんだよ。」
「義務?いったい何なのだ?」
「……ダンジョンが発生した。」
 




