スコルナの胎動
カイがサーバル領へカシオの買出しに出かけていた頃、
リモーデの工房ではある事件が起こっていた。
王専用として造船された飛行船が試験飛行中に行方不明になったのだ。
この件は即座に王都の宰相に報告された。
「なに!王専用の飛行船が行方不明だと!!」
リヒトファラス王国宰相、ルツ・ベルシャザルは驚きの声を上げた。
「墜落か?原因は何だ!場所は?」
報告を行っている伝令兵は声を荒らげるルツに驚いたのかしどろもどろだ。
「つ、墜落したとの情報が・・・場所は・・・いえ、その、いえ、乗組員が・・・」
「・・・つまり、調査中という事か?」
「はい!!であります!!」
「よりによって専用船か・・・」
スコルナからの攻撃に備え飛行船の艦隊としての運用が計画された。
王専用船はその中核を担う船であった。
その艦隊を以ってスコルナへの反撃とする計画であった。
「うむ、艦隊計画の見直しが必要だな・・・。
ディルマ様にこの件を相談せねばなるまい。」
ルツはそう呟くと王国魔導士ディルマ・バダ・カスパールの元に向かうのだった。
魔導士ディルマは王城の一角、塔の中に工房を持っていた。
一日の大半をその塔の中で魔法の研究を行い過ごすことが多い。
今日も新たな呪文の為の巻物を製作している途中だった。
そのディルマの元に年若い魔術師がバタバタと駆け込んできた。
「何じゃ騒々しい。」
「デ、ディルマ様、・・・さ、宰相のルツ殿が、・・・し、至急面会を・・との事で・・す。」
息を絶え絶えに報告する。
「ルツが?」
ディルマは作業を行っていた手を止め、急いで応接室へ向かった。
応接室へ向かうと宰相のルツはディルマが来るのを今か今かと待っていた。
「ルツ、お前がこの工房へ来るのは珍しいな。」
「これはディルマ様、ご機嫌麗しゅう・・・」
ルツは深々とお辞儀をする。
ディルマはルツにとって師と言える存在であった。
公私混同ぜず、公の場ではこのような態度はとらない。
だが今は私的な場であった。
「余計な礼はよい。用件は何だ?」
「師の手を煩わせることになりますが、王専用の飛行船が消息不明になりました。」
「飛行船が?」
ディルマは少し驚いた顔で答えた。
「はい。詳細は目下調査中とのことですが、墜落したとの情報もあります。
それに、王専用船が無いとなると艦隊計画の見直しが必要かと。」
「ふむ、そうじゃな。
だがそれより、飛行船が行方不明になったことが気になるな。」
「と、言いますと?」
「飛行船を見せてもらったが、あれは動力切れで落ちる物ではない。
精霊石の出力が少なくなってくると徐々に高度を落とす作りになっている。
また、試験飛行はリモーデからミストにかけての範囲だ。
報告が出来ないという事は範囲内に墜落した形跡は無いのだろう。
試験飛行には武装の試射も計画されていた。
以上から、墜落も撃墜も考えられない。」
「まさか!
工房の機密は完全です。
前回のスコルナ襲撃後に工房の一斉確認を行いました。
登録されている人員も身元は確実です。」
「前回・・・スコルナのリモーデ襲撃か。
被害はそれほど多くなく、スコルナの走空車のほとんどが墜落して残っていない。
工房を襲う事で最新鋭の走空車と精霊石の奪取を計画したと考えられていたな。」
「はい。
スコルナの走空車は燃費が悪く、防御や攻撃の呪文を使用した場合、すぐに枯渇します。
リモーデ襲撃時、かなりの速度で走空車を動かしていましたし、防御や攻撃の呪文も確認されています。
その為、スコルナ側の走空車は精霊石が枯渇寸前であったと考えられています。」
「考えてみれば稚拙な作戦だ。
飛べるか判らない新型や必要量を手に入れる可能性の低い精霊石の奪取。
ゲインシュタッドを攻略したやり方を考えるとお粗末すぎる。
何か別の目的が・・・・・そうか!」
ディルマはカッと目を見開き叫ぶ。
「それ自体が囮!
本当の目的はリモーデへの潜入と王専用船の奪取か!!
不味いぞ!
スコルナが攻めてくる!!」
その数日後、
リュファス率いるスコルナ軍の艦隊が春を待たずに王国へ侵入した。




