魔導士はカシオを集めようとする。
カイはホッと一息ついているヴァニアを横目に
「安心しているところ悪いのだが問題は解決していない。
食糧の増産は半年後の収穫だ。
今年の分は足りないぞ。」
「にゃぬ?」
カイが増産を計画した物は半年後の物であり、今年の不足分は減っていないのだ。
「うみゅ、今年の分が不足しているとどうなるのにゃ?」
カイは少し考えると
「少なくとも、王国民の餓死者が増えないぐらいはある。
だがそれだと、兵糧の分が無い。
今は冬だからスコルナは攻めてこないが、春になるとやって来る。」
スコルナ領との間にはエルサンクと呼ばれる牙の様な山脈がつらなる。
この冬の季節、王国側からスコルナ領へ向かって風が吹く。
湿った風は高さ2000mを越える頂にぶつかり王国に雪をもたらす。
エルサンクを越えた風は逆に乾いた風となり、スコルナ領に若干の温度上昇をもたらす為、雪が降ることは無い。
その為、スコルナ側には雪に対する備えは無いのだ。
「これから雪の季節だからやって来ないが、春になったその時に兵糧が無いと・・・」
「敗北は必至と言ったところかにゃ・・・。」
そう言った途端、ヴァニアは暗い顔になる。
「その為にも代わりとなる食べ物が必要なのだが・・・
ギルド長、ちょっとリモーデへ行ってくるからみんなに連絡しておいてくれ。」
ヴァニアはそう言ってリモーデへ出かけようとするカイを引き留める。
「ちょっと待つにゃ。
リモーデへ何の用事にゃ?」
「ちょっとサウルさんに用事かあるんだ。」
「サウル?ガッダー商会のサウルかにゃ?
それなら、ウェスリックに店を出している。
あやつは頻繁に仕入れに来てるにゃ。」
ヴァニアによると、拡張されたウェスリックに店を構え、魚介類を仕入れている。
それと同時にウェスリックでは手に入りにくい果物や野菜などを売っているとのことだった。
「カイよ。
おぬしは領主である魔道爵なのだからもっと気をつけるにゃ。」
実はカイが辺境伯から領地を下賜された時、爵位ももらっている。
その時、本人は気付いていなかったのだが、王国法では領地を治めることが出来るのは男爵以上の爵位を持つ者だけである。
魔導士で爵位を持つ者で“魔道爵”と呼ばれているが、実際は子爵相当である。
「面目ない。」
申し訳なさそうにそう言うのだった。
カイがサウルの店、ガッダー商会を訪れた時、サウルは部下に指示し魚介類を走空車に積み込むところだった。
「やぁ。サウルさん、久しぶり。」
「これは魔道爵。
何用でございましょうか?」
「そんな畏まった挨拶は良いから、気楽にね?」
「了解。で?如何様で?」
「ああ、サウルの所はサーバルからカシオを仕入れているだろう。」
「確かに。
サーバル男爵からカシオの取引を任されていますよ。」
「量はどれだけだ?
後、カシオはどれだけの量を仕入れることが出来る?」
「それは、やはり王命と関係があるので?」
「王命、知っていたのか。」
「当然。
情報を蔑ろにする様だと商人は出来ませんから。」
サウルによると、サーバル領ではカシオは今年も豊作を見込めるそうだ。
それに増産の計画もある。
「私としてはあまり量を入れすぎると値が下がるので抑えているのですが・・・」
それは商人らしいサウルの言い分であった。
「大丈夫だ。
半年ぐらいはいくら仕入れても値が暴落することは無い。
カシオは足りなくなった食料の代わりになるのではと考えている。」




