魔導士は偽装置を考える
飛行船“メルカバⅡ”を使った体当たりにより、スコルナへの技術流出はなんとか抑えられた。
スコルナ軍の強化を阻止したとも言える。
作業員を取り戻せたのは大きい。
超大型の飛行船も船体の一部が歪んだだけで、その他の部分にまで影響が出るものではなかった。
これは船自体の大きさが十倍近くの差があった為である。
超大型の修理はさほど時間がかからない。
完成が一月伸びる程度だと考えられていた。
だが、リモーデの町自体が負った被害は思いの外大きい。
王国軍とスコルナ軍がリモーデ上空で空中戦を行なった結果、何台かの走空車がリモーデの街中に墜落したのだ。
墜落した走空車はいくつかの建物を壊した。
中には爆発炎上し、付近の民家に類焼したところもあると言う。
その結果、町の五分の一の世帯が焼け出され、中には重傷を負ったものもいる。
幸いなことに死亡者はいないだけマシだとも言えた。
カイはその惨状を見て頭を痛めた。
(何故こうなった?
いや、成るべきして成ったのか?
便利な道具は戦争においても同じと言う事だ。
でも、その機密が簡単に相手の手に渡りそうになるのは不味くないか?)
現在は、走空車の性能差で王国が上回り、スコルナが開発した投石機と組み合わせれば
王国の優位性は間違いない。
その上、魔道砲やマナ吸入装置を備えた飛行船は相手を圧倒できるだろう。
だがそれは、相手に同じ能力がない場合だ。
同じ技術を手にした場合、王国の優位性が失われることになるだろう。
更に対応策やその技術を使った新たな物などが考えられる。
その結果、戦争は膠着状態に陥り、早期解決は望めそうにない。
(それを考えると、魔道砲やマナ吸入装置は搭載すべきではないのか。
超大型の装備には別の装備を考えるべきだな。
必要なものは長距離射程の魔法攻撃と船の加速装置か。
魔法攻撃は通常の魔法に”威力拡大”と”距離延長”の強化を施した魔法陣が必要だな。
船の加速装置は別系統の移動の魔方陣・・・まてよ!
前移動に使っていた強風の魔方陣を流用できないか?)
幸い魔道砲やマナ吸引装置は”メルカバⅡ”にしか搭載されていない。
カイは工房に戻るとディンカ達に緘口令を敷いた。
それ以外にも、”メルカバⅡ”自体をウェスリックの城に隠し、ディンカ達に警備と修理を頼む。
カイ自身は偽装置の開発に着手するのだった。




