リモーデの危機 その2
ゲインシュタッドから東西へ続く山々はエルサンクと呼ばれ、その頂は牙の様に鋭い。
エルサンクは標高2000mほどの山々が連なっており、魔獣も出没するため山越えをする者はいない。
南の諸侯から旅する者はゲインシュタッド以外では、東のイスガルド峠か西の果てにあるウエストエンドを経由する。
ただどちらも大きく迂回するので王都へ向かう場合、利用される事は無い。
ゲインシュタッドから西へ200kmの場所でスコルナ軍の仮陣が置かれていた。
その天幕の中では指揮官であるジーンが伝令からの報告を受けていた。
「ゲインシュタッドで我が軍と王国軍が戦闘、王国軍を撃退しました。
王国軍は壊滅、数騎の騎士が王都方面へ逃走。
西側に敗走する兵はいません。」
「よし、では偵察用の走空車で確認後、日没を待って進軍する。
目標、穀倉地帯。
例の物に異常は無いか?」
ジーンは大型の走空車に積んである物について尋ねた。
「どちらも異常ありません。
ジーン司令。
このまま運んでも問題ないと担当の錬金術師の言葉です。」
「錬金術師の?
ならば問題あるまい。
総員、作戦開始!」
スコルナの走空車部隊は別方面から王国へ侵入を開始した。
その数、20機。
この20機もゲインシュタッドの時と同じく黒く塗りつぶされ、夜間のみ飛行すると言った徹底ぶりである。
その為、秘密裏に王国への侵入が成し遂げられた。
彼らが次の目標にしたのは、リモーデではなく、穀倉地帯だった。
目標の穀倉地帯までの道程は人目を避けるため、10日ほどかかった。
だが、王国は対策の遅れからスコルナ軍の侵入を許してしまう。
スコルナ軍は穀倉地帯の奥深く、水源となっている沼地に大型の走空車2機を着陸させた。
「ジーン司令、準備が整いました。」
「よし、解放と同時に緊急離脱。
総員遅れて巻き込まれるな。
解放!!」
ジーンの号令のもと、大型の走空車の後部ドアを解放した。
解放と同時に長い首を持つ水牛の様な生物がゆっくりと出てきた。
水牛の様な生物はゆっくりと辺りを見回す。
その視線の先には沼に足を取られ逃げ遅れた兵士が写った。
「ぐがっ!」
兵士は水牛の様な生物と目を合わせるやいなや
体が硬直し、石になっていった。
もう一機の中には怪しく光る直径30cmほどの丸い石が置かれていた。
その石は走空車ごと沼に沈みこむ。
しばらくすると、沈んだその場所が浮き上がり、小さな島ができる。
そして、小さな島の真ん中にポッカリと黒い大穴が開いた。
水牛の様な生物はその中にゆっくりと入っていった。




