白亜の試練 その6
カイが使用した呪文は生命探査である。
呪文の効果範囲で発見したのは複数の生命反応。
それも人間の反応である。
「・・・間違いなく人だな。それも三人。」
カイは少し考えて、
「おそらく斥候だろう。ある一定の範囲を動いて・・・」
説明の途中でカイは驚いた顔をした。
「不味い。生命探査だ。
それにこの精度、俺よりも高い魔力を持つ者だ。」
魔術師系の呪文で魔法感知と言う呪文がある。
何かの呪文がかけられた時の為に常に使用しておく呪文の一つなのだ。
(とはいえ即効性のある呪文をかけられた場合対処は難しい。)
カイの使う魔法感知が生命探査の呪文に反応したのだ。
(多分こちらに来るな、撤退するか?
いや、迂闊に動くと不審がられる。
何より相手がどの様な者か、情報が欲しい。)
「アイナリンドさん、ルリエル、前方警戒を。
フィリアは後方待機。
誰かが近づいて来る。」
予想通り呪文の使用者たちはこちらに近づいて来る様だ。
数は三人。
カイ達の警戒の中、草木をかき分け姿を現した。
「・・・冒険者か。」
現れた者の一人はぞんざいな口調で言いはなった。
上質の鎧をわざと汚している。
ただ、その汚し方もいい加減なものでそれだけで冒険者では無いと判断できた。
「エルフと人間・・・一人は魔導士か。
索敵呪文を使ったのもお前だな。」
別の一人、杖を持ったエルフの魔術師がカイに尋ねてきた。
自分が魔法感知使うのであるならば、相手も当然使っている。
カイは隠すのは得策でないと判断した。
「ああ。俺達はギルドの依頼でこの森に来た。
虹色ホロホロ鳥を探すために生命探査の呪文を使っていたのだ。」
「ふむ、嘘は言ってない様だな。」
魔術師は普通の杖やローブを身に着けている様に見せかけている。
かなり魔力が高いのか、カイでは何であるか判別できなかった。
ただ、真意看破を発動できる杖であることは今の言葉で判った。
「ふん、まあいい。
この辺りにはその様な鳥はいない。
他を探すのだな。」
エルフの魔術師は吐き捨てるかのように言う。
去り際にアイナリンドに何かを呟くと、踵を返して行ってしまった。
「ちょ、何ですかあの失礼な魔術師は!!」
「フィリア、ちょっと待ってくれ。」
憤慨するフィリアを制止し、周囲の呪文を探る。
どうやらエルフの魔術師は盗聴系の呪文は使っていない様だ。
「どうやら、元の場所に戻ったみたいだな。」
そう言うとカイはほっと一息を付く。
「だが、あいつは気になることを言っていたな。」
アイナリンドが話を続ける。
「あいつは去り際に“不浄のオーク村に近づくな”と。」
「“不浄”か」
カイはその言葉を聞いて相手が誰であるか理解した。
わざわざ、“不浄”と言う言葉を冒険者や軍隊は使わない。
その様な表現をするのは宗教関係者である。
「帝国か・・・」
おそらく帝国の先遣部隊。
オークの村を襲う為のだから五十人程度だろう。
それが森の奥に潜んでいる。
そしてそれを皮切りに更に大掛かりな軍隊が来ることが予想出来た。
「まさかこれを阻止するのが試練なのか・・・。」
あまりの難易度に眩暈を覚えるカイであった。




