世界樹の町 その4
ゆっくりと飛行船が着陸する。
飛行船はまるで誂えたかのようにぴったり収まった。
扉の高さに通路があり、その通路から橋の様な物が扉まで延びる。
「すごいなぴったりと収まったぞ。流石はエルフと言ったところか・・・」
スタン驚いたように言う。
だが、カイは全く別の事を考えていた。
(この船渠を作るのにはこの船の大きさや構造の情報が必要だ。
だが、飛行船であるメルカバが完成したのは二月前。
町の出入りは辺境伯が厳重に管理している。
情報が洩れることは無いはずなのだが・・・。)
(色々考えていても仕方ない。今は情報を収集するしかないか。)
カイはそうしてしばらく考えると
「丁度、扉の向こうに橋が架かった様だ。
降りるとしよう。」
と言って扉を開ける。
通路から延びた橋は飛行船の扉にぴったりと取り付いている。
橋を渡った通路の端に扉があり、外に出ることが出来るようだ。
橋の幅は三人が並んで歩けるほどの幅があり、手摺まで付いている。
カイは橋を渡りながら船渠の設備を見ていた。
壁から腕の様な物が出て船を固定している。
飛行船に延ばされた橋は扉に向けてだけではなく、魔道砲の開放部の位置や加速用の噴射口にも延ばされていた。
「カイさん。何か気になる事でも?」
横を歩くフィリアが船渠を見るカイに尋ねる。
「船の固定装置とか、船の整備の為の橋とか色々考えさせられるなと・・・。」
実際、カイの頭の中にはこの船渠と同じ設備を作るべきだと考えている。
だが何故、エルフがこの設備を作り上げたのかが気になっていた。
少なくとも町の形を見る限り、エルフの建築技術と人間の建築技術に差はない。
つまり、この船渠を作り上げるのに人間では一年かかる。
とすれば、エルフも同じ時間が掛かるはずなのだ。
船の構造が決まったのは完成の一年前。
情報の伝達の差を考えても、飛行船にぴったりの船渠を作ることは出来ない。
だが、現実に存在する以上、別の何かの要因があるはずである。
などと考え橋を渡っていると、扉が開きエルフが一人入って来た。
「ようこそ。エルダートの首都、ユグドラシルへ。
私は“クレタ”様から案内を任されたエクセリオン・グロールスと言う者です。
以後お見知りおきを、魔導士 カイ殿」
丁寧にそして優雅にお辞儀をする。
「案内?」
カイは思わず聞き返した。
「はい。クレタ様からそう伺っています。」
“どうやらクレタ様と会う必要があるらしい。
そして、そのクレタ様と言う人物が疑問に答えられる人物ではないか?“
カイはそう考えていた。
カイ達は そのエルフの案内でクレタの屋敷に行くことになった。
クレタの屋敷は“空のユグドラシル”中央にある白亜の塔だ。
その道中で、ユグドラシルの各町を繋げる空間移動門の横を通る。
空間移動門はその名の通り、巨大な門である。
大きさは王都の城壁にある門と同じぐらいの大きさだ。
「大地のユグドラシル北門、あと五分で出発します。ご利用の方はお急ぎください。」
門の前でエルフが案内をしている。
門の前には巨大な馬車があり、何人かのエルフや人間が乗り込んでいた。
車輪は金属で出来ているらしく、地面には金属で出来た溝があり、車輪はその溝にすっぽりと収まっている。
「エクセリオンさん。あれは?」
カイは案内役のエルフに尋ねてみた。
「空間移動門を通過する為の乗り物ですよ。
ああやって決まった移動しかできないようになっています。
空間移動門を通る時、おかしな方向から突入すると予想外の場所に出ることがある為、安全上あの馬車に乗ってもらっています。」
あの馬車は安全上の役目を担っているとのことだった。
「しかし、空間移動か・・・どうやって再現しているのか。」
カイはぽつりと疑問を呟いた。
「関係するか判りませんが・・・」
とエクセリオンは前置きをする。
「あの空間移動門では空間収納付きの鞄は持ち込めません。
空間移動門が空間収納付きの鞄を弾くのです。」
「鞄が持ち込めない?」
カイはここで空間収納付きについて考えてみる。
空間収納は狭い空間に大きな空間を折りたたんでいる。
折りたたんだ物に折りたたんだ物を入れることは出来ない
従って、“空間収納付きの鞄”に“空間収納付きの鞄”を入れることは不可能なのだ。
以上を考えると、空間移動門は空間収納付きと同じ様に空間を折りたたんでいる事になる。
「なかなか興味深いことを聞けました。」
カイはエクセリオンに礼を言った。
「あと、行き先はマナのパターンによる指定で行っているそうです。」
と、カイが訊ねていないことまで教えてくれる。
カイが疑問に考えているとエクセリオンは
「クレタ様がこの道を通る時にカイ殿が訊ねてくるので、行き先を決める方法も教える様にと・・・」




