世界樹の町 その3
アイナリンドはその場から逃げだしたがすぐに戻ってきた。
流石に職務を放棄するわけにはいかないのだろう。
兜の面覆いを下ろしたままなので表情は見えないが、悔しそうな雰囲気である。
「・・・で、ユグドラシルへの目的は不明と・・・。」
ルリエルの幼馴染とは言え、訪問目的を言うことに躊躇していた。
と言うより、“グウィバーの助言”による訪問が通用するかは判らないからだ。
「しかし困りましたね。
目的が判らない者をユグドラシルへ入れることは出来ません。
それにこんな大きな、しかも空を飛ぶ物とは・・・」
アイナリンドはそう言うと考えこんだ。
「いやいや、お嬢さん。私の目的は決まっている。
それはあなただ。
私はあなたに会う為にこの町へ来たのだ!
これは運命なのですよ!」
とフロームはアイナリンドへ熱心に語りかける。
が、アイナリンドは黙殺した。
「ふふふふ、つれない人だ。
私はカイ氏の様に“グウィバーの助言”で来たわけでは・・・」
「グウィバーだって!!」
フロームの言葉を聞いたアイナリンドは驚き声を上げた。
そしてカイ達へ
「貴方たちの目的は不明ですが、“グウィバー”の言葉でここまで来たのでしょうか?」
と問いかけた。
エルダートの首都、ユグドラシルは大きく分けて三つの町に分類される。
町の名前の由来ともなっている世界樹の根元には大きな湖が広がっており、その周りにある町が“大地のユグドラシル”である。
そして、世界樹の大樹の途中、大樹自体に寄り添うように作られた町、“樹のユグドラシル”
世界樹の天辺に作られた“空のユグドラシル”
この三つの町をまとめてユグドラシルなのである。
警備隊長であるであるアイナリンドの案内の元、町の一つ、“空のユグドラシル”へ向かっていた。
カイとアイナリンドは操縦席の中にいた。
その周りにはスタン、フローム、ルリエル、ニライの四人がいた。
「凄い物ですね、この飛行船と言う物は。
こんなに簡単に“空のユグドラシル”へ行くことが出来るとは・・・。」
アイナリンドは感心した声を上げる。
その傍でフロームが“君は私の太陽だ”とか“私の女神よ”とか賛辞を述べているが黙殺している。
「そうなのか。ルリエル、通常はどの様にして行き来しているのだ?」
カイは疑問に思ったことをルリエルに尋ねてみた。
「空間移動門」
とルリエルは答えた。
「そうなのです。
ユグドラシルは広いため、移動は空間移動門を使った物が多くなります。
空間移動門は各町の東西南北、四か所に設置されています。」
アイナリンドがルリエルの支援をする。
「え?そんなに沢山の空間移動門があるのですか?」
空間移動門は入口と出口の1セットが必要である。
それを、“大地”“樹”“空”の三か所と行き来する為には三つ必要だ。
数が増えると更に必要になる。
「いえいえ、それほど必要はないのです。
それぞれの場所にある門で行き先を切り替えて使っているのですよ。」
アイナリンドの言葉によると、門は各町に四つずつ合計十二個。
一か所の門から他の十一の場所全てに行くことが出来るらしい。
「流石はエルフと言ったところだな。」
カイは心底感心した様だ。
「いえいえ。これも樹の町の住人、ウッドエルフ達の技術のおかげなのですよ。」
「へぇ。ウッドエルフは樹の町に住んでいるのか・・・」
「?何か微妙に違う気がします。」
カイの言葉にアイナリンドは疑問に思った様だ。
「“ウッドエルフが”住んでいるのではなく、樹の町に住んでいるのでウッドエルフなのです。」
すぐにカイの思い違いを訂正する。
「じゃあ、大地の町に住んでいるのは?」
すかさずカイは疑問をなげかける。
「アースエルフ。森に近いからフォレストエルフとも言います。」
「空の町では?」
「ハイエルフ。エアエルフとも言います。」
「「「えっ?!」」」
傍で聞いていた三人が声を上げる。
「あ、そう言えばよく勘違いする人がいますね。
ハイエルフはエルフの上位種ですかと聞く人もいます。
でも上位種って何でしょうか?
同じ種族に上位も下位も無いと思いますが?」
どうやら“ハイエルフ”と言うのは言葉だけを聞いた人間の勝手な誤解が元らしい。
少し恥じ入る三人であった。
そう言っている間に飛行船は世界樹の周りにある雲を抜け、樹上の町、“空のユグドラシル”が見える位置まで上昇した。
「へぇー。こうして見ると王都とあまり変わらないな。」
スタンが町を見た第一声を上げる。
「見ろ!樹上の町なのに湖があるぞ!」
カイが指さす方向を見ると光に輝く湖が見えた。
その湖から幾筋かの川が流れ外周部から下に落ちている。
落ちた水は途中で分散され雲のようになっているのが見えた。
「・・・あそこです。
あの少し窪んだ施設に止めるように言われています。」
アイナリンドが指さす方向を見ると町の近く、湖の傍に四角くくぼんだ施設が見えた。
その形は飛行船を作り上げた工房と似た形をしていた。




