魔導士の旅の日常
結局カイは船内の伝達の為に伝送管を敷設することにした。
構造上、精霊石を必要とせず、敷設も容易だからである。“インパルス”とのやり取りは別の方法が必要だ。幸いエルフの国に到着までの時間は沢山ある。
エルフの国までの道程は長い。
通常の道程は陸路であり、陸路は案内人がいた場合で王国の首都から1年かかる。
案内人がいない場合は三倍ほどの時間がかかると言われている。
飛行船は一日で陸路の十倍距離を移動可能だ。
その場合でも十五日ほどかかる。だが飛行船でも直線の道程を選べない。
エルフの国全体に結界が張られており、決まった順番で町や村を移動しないがぎり中心部である首都にはたどり着けないからだ。
空を飛ぶ飛行船であってもその結界を無視することはできなかった。
その為、順番通りに町や村を通る道程となり、その場合だと一月の旅になるのだ。
カイはその一月の間、飛行船に必要な内部の装置を作ることにした。
飛行船内の機関室の一角にカイの工房がある。カイはここで必要な装置の開発に取り組んでいた。
目下、必要とする装置は二つ。
一つは反省会でも出た、“インパルス”と通話する装置。
もう一つが付近の状態、生物を索敵する為の装置である。最初に生物を探索する装置を作ることにした。
カイは使い魔を三羽コントロールすることで半径10kmの索敵を可能としている。
だが、飛行船では船の速度が速すぎる為、使い魔での索敵が使えない。
飛行船と使い魔の飛行速度は同じぐらいである。
しかし、飛行船は疲れることは無いが使い魔は疲れるのだ。
そして速い速度を出すことが出来る生き物ほど持久力はない。
最初の数時間はうまく索敵することが出来た。
だが徐々に使い魔の飛行速度が落ち飛ぶことに集中するあまり索敵が出来なくなってしまったのだ。
その結果、飛竜の存在を見逃すことになってしまった。
それ以外にも索敵がカイだけにしか出来ない仕事となり、他の仕事をすることが不可能になるのも問題だった。
そこでカイは水晶球を利用した魔道具を作ることにする。
水晶球は魔術師では”遠見”の呪文で使うことがあり、視覚系統の魔法の媒体でも優れている。その水晶球を使い付近の生物の位置を索敵しようと考えたのだ。
丁度、索敵装置のプロトタイプを作り上げた時、ルリエルが工房にやってきた。
「エルフ国、町、世界樹」(エルフの国の象徴である世界樹の首都ユグドラシルが見えた)
ルリエルの表情はエルフの国の首都である世界樹の町のすばらしさを様々な表現で語った。
(みんながルリエルの言葉の色を見ることができたら、色々なことを話しているのがわかるのだけどな……。)
一般の人に聞こえるルリエルの話言葉は共通語と言われる言葉である。
だが、ルリエルの場合、共通語の所々にエルフ語の表現が混じる。
エルフ語は単語にマナの動きが加わる。ルリエルが話す共通語にも話すのと同時に様々なマナの動きが伴うのである。
その為、エルフ語がわからないものにとってルリエルは片言でしか話さない人に思われていた。
(マナの色か……そうだ!これを識別に使えないか?)




