エルフの国へ!
辺境伯は窓の外を眺めていた。
その視線の先には白銀の船、飛行船が高く上昇し、エルフの国へ向かおうとしている。
「無事に帰って来てもらいたいものだ。」
小さな声でそう呟く。
「辺境伯、よろしいのですか。」
筆頭執事のガイストが辺境伯に問いかけた。
辺境伯はガイストの言いたいことは理解できた。
もし、旅先で“魔導士カイ”を失うことになればリモーデの損失は計り知れない物になる。
「・・・ガイスト。」
「はい。辺境伯様。」
「魔導士殿がリモーデに来て何年になるかな・・・。」
「かれこれ三年になります。」
「三年か、色々なことがあったが思えばあっという間であったな。」
辺境伯はそう言うと、半月前のカイとの会談を思い出していた。
カイと辺境伯は会談の場になっている貴賓室でテーブルを挟んでいた。
「では、魔導士殿はどうしてもエルフの国に行く必要があると、そう御考えか?」
「はい、辺境伯様。
偉大なる三竜の一人、グウィバーは走空車についてのきっかけを与えてくれました。」
「だが、現状で当初の考えを満たすものだと聞いている。」
「当初の考えである“高高度での安定”は解決しました。
それだけでなく、魔法陣の効率化をも成し遂げることが出来たのです。」
辺境伯は少し考えて
「魔導士殿。それで十分では無いのかね?」
その言葉に対してカイは
「確かに現状では十分であると言えるかもしれません。
ですが、今の性能でやっとエルフの国へ行くことが出来る様になったとも考えられるのです。
わざわざ“グウィバー”がきっかけを与えてくれたのです。
これはエルフの国にも私の知りえない何か必要なものがあると思えてなりません。」
「意志は固いのだな。」
「はい。」
その言葉を辺境伯は思い出していた。
「ガイストよ。あれを見るが良い。」
辺境伯は飛行船の工房の先を指さした。
「あれも魔導士殿が水を引いたおかげですな。」
そこは以前、荒れ果てた地であった。
荒れ地の真ん中を細々とした川が流れ何とか砂漠化を免れていると言った土地であった。
今では、草木の生える緑の大地に変わったのだ。
それも魔導士のカイが細々とした川に輝く星の森から水を引き込んだおかげなのである。
荒れ地は新たな穀倉地となり、リモーデや周辺の領地が飢饉を免れた経緯があった。
「下流にあるウェスリックもその恩恵を受けて、取れる魚介類の量が増えたばかりか、
リザードマン達も住み着いたそうだ。」
「リザードマンですか!それは素晴らしい。」
リザードマンは魚介類を主食とする為、それが多く取れる所に住み着く。
逆に言うと、リザードマンが住み着いている所は魚介類が多く取れる所なのだ。
「そして、リモーデの町では“カシス”をはじめとする様々な物の叩き売り、魔道具の販売、製作などのおかげで人も増えた。
これらは全て魔導士殿のおかげと言える。
だが、それらは魔導士殿の行動から生み出されたものだ。
それを考えると、今回のエルフの国行の件も止めるわけにはいくまい。」
そう言い辺境伯は一息つくと
「私は彼らの旅の無事を願わずにはいられないのだよ。」
と、祈るように言った。




