魔導士は試験飛行をする。
新しく作られた一人乗り用の走空車は青く塗装され、今までと違ったスマートな形である。
胴体の下部から橇の足の様な物が二本出ており、それが走空車を支えている様だ。
「ふむ。これが出来たのもワシ等ドワーフ職人の腕じゃな。」
「「「違いない!」」」
「「「「ガハハハハ!!!」」」」
新型の製作に携わったドワーフの職人たちがその傍で祝杯を挙げていた。
カイはジョン少年の蒸留酒一人一樽でドワーフ職人たちを雇った。
近頃のドワーフ達は舌が肥えてきたのか、酒精が強いだけのアルコールでは満足せず、
ジョン少年の作るような蒸留酒でないと交渉にならなくなっていた。
お礼にもらった蒸留酒を数樽持っていたことが幸いして、何人かのドワーフを雇うことが出来たのだ。
ドワーフ達の技量は高く、通常なら半年はかかる制作を一月でやってのけたのだ。
「カイさん。あれは何だ?何故付いている?」
スタンが指さす場所を見るとアーモンドの様な形の走空車には船の舵の様な物が後ろしかも上下に付いていた。
「あれを使うと走空車が安定して曲がる様にするものだよ。」
と、カイが答えた。
「それとこれには、前から開発中だった安定器を三つ載せている。」
この走空車は安定器の試験も兼ねているらしい。
カイは走空車の全面のカバーを開けた。
「この走空車はこの様に、前カバーを開けて乗り込む。」
中を覗くと新しい走空車の操縦席には見たことの無い計器類やレバーが増えていた。
カイはそれぞれを指さしながら操作方法や役目を解説する。
スタンは真剣にその話を聞いていた。
「・・・と言うわけで、高さはかなり高い位置まで上がることが出来る様になっている。
そこから落ちると確実に死ぬ。
だから座席の下に非常用の安定器が積んである。」
カイが走空車の操縦席のシートを外すとその下には三つのリングの中央にコマの付いた安定器が設置されていた。
「その装置、安定器の中心のコマは周りがどんなに傾いても常に水平になる。
そのコマに魔法陣を刻むことで、走空車がどんな姿勢になっても同じ方向に力が加わるようになっている。」
以前の走空車は機体が傾くと浮上させている魔法陣も同じ様に傾いた。
例えば90°傾いたままだと走空車を浮上いる上向きの力が横方向に変わり、真横へ移動する。
最悪、上下逆になった場合、地面に激突は避けられないだろう。
だから、回転しない様に機体が傾くと元に戻る様、強制的な姿勢制御を行っていた。
だが、安定器を積んだ新型の走空車はどんなに傾いても上向きの力が別の方向へ向くことは無い。
その為、強制的な姿勢制御がなくなり、その分の精霊石の消費が無くなった。
新しい魔法陣が効率の良い物となり、さらに精霊石の消費を減らす。
「ん?カイさんこのレバーの所にあるボタンは何だ?」
いつの間にか操縦席に乗り込んだスタンがいろいろ触っている。
その一つが、高さを決める浮上レバーについているボタンだった。
「それはこの間の・・・」
「あれか!壁を消し飛ばした奴!!」
壁を消し飛ばしたことを思い出したのかスタンがそう言った。
「そうじゃなくて加速用の物だ。」
カイは慌てて訂正する。
「ちぇ。」
スタンは残念そうに言うと気を取り直して試験飛行に出発した。
最初は新しい動きに戸惑っていたスタンだったが、一時間もかからず新型に慣れ、様々な動きを行って見せた。
試験飛行は申し分なかく、大成功だったと言っても良かった。
そして、それから半年後。
エルフの国へ向かう為の大型走空車が完成した。
その形は一人乗りの走空車と同じ様にアーモンドの様な形だが、
全長が20mほどあり、後ろに四枚の方向舵が斜めに付いていた。
そして、高出力の為、一人乗り用走空車には装備できなかった物が備え付けられていた。
スタン 「この安定器には何か名前があるのか?」
カイ 「この安定器は飛ぶために回転する機械、”フライホイール”と言う。」
スタン 「ほほう。なかなかかっこいい名前だな。」
カイ 「この安定器を動かす場合は必ず”フライホール始動”と言ってスイッチを入れるのだ。」
スタン 「なんで?」
カイ 「様式美だ!」




