魔導士は壁を壊す。
「これはどういうことなのか説明してもらいましょう。」
壁が吹き飛ばされた研究室で、カイ、ディンカ、スタンの三人は女性陣から詰問、
いや尋問されていた。
「ちょっとした手違いで・・・」
カイがそう言い訳するとフィリアが
「そうですか。手違いですか。」
とにこやかに言うが目が笑っていない。
事の起こりは、ルリエルは掃除をする為、最上階にあるカイの研究室に入った時から始まる。
カイは部屋が汚れていてもあまり気にしない。
見かねたルリエルとフィリアが交代で掃除をしていた。
その日も実験を行った為、散らかっている部屋を掃除しようとしていた。
様々なものが散乱し足の踏み場も無いほどだったと言う。
そこで驚くべきものを発見したのだ。
一見すると普通の岩なのだが、それはアダマス鉱石と言われる物だった。
アダマス鉱石は加工の為に膨大な熱を必要とする。
そのアダマス鉱石が実験用のテーブル上に置かれており、一部が溶けかかっていた。
置かれているテーブルもよく見ると焦げた跡がある。
事態を重く見たルリエルはこの事をフィリアに相談した。
フィリアはギルド長のヴァニアに相談し、ヴァニアはディンカとスタンにそれとなく探る様に命令したのだ。
それが今朝の事であった・・・。
「カイさん!いるかい!!」
バン!と勢いよく研究室の扉が開かれ、スタンとディンカが入って来た。
「何だ、スタンとディンカか。」
カイは少し驚いたが、入ってきた人物を見てホッとしている様だった。
「いやー。カイさんが何か実験をしているから見て来いってギルド長が言うものだから・・・」
スタンは直球でカイに訊ねた。
ギルド長が言う“それとなく”と言う言葉は頭に入っていなかった様だ。
隣に立つディンカは少しため息をついている。
「ギルド長が?という事はフィリアかルリエルか。
鉱石をそのままにしておいたのはまずかったか・・・」
実験に使った道具は隠しておいたのだが、翌朝に鍜治場へ戻す予定の鉱石をそのままにしておいたのだ。
そして今、この間の実験の続きをしようとしていた。
「へぇ。これが今の実験か・・・」
カイが考え込む間に入って来たスタンが問題の実験器具を見た。
「で、これは何の実験をしているんだい?」
すかさずディンカが訊ねる。
「走空車の加速装置をね。」
とカイが言うと猛烈な勢いでスタンが食いついてきた。
「加速装置!!これならあいつに勝てる!!」
カイはスタンやフェールズのダンケルクに頼んで走空車の走行実験をしている。
その実験の中には速度実験があるのだが、毎回、スタンとダンケルクの勝負となっていた。
スタンはこの間の実験で、ダンケルクとの勝負に負けたのが悔しかったようだ。
ディンカはそのスタンの姿を見て“仕方がない”と言う表情をしている。
カイはそのスタンの姿を見て彼ら二人に協力してもらう事に決めた。
「その加速装置だが、この部分に強風の呪文をため込むことによって使うことが出来る。」
そう言ってカイは実験用の箱を見せる。
箱はこの間の物とは違いレバーで蓋が開閉するようになっている。
「このレバーを引くと蓋が開きため込んだ強風の呪文が解放され加速される仕組みだ。」
そう言ってレバーを動かして見せる。
「おお」
スタンは感心したのか箱に顔を近づけ食い入る様に見ている。
「実験中は顔を近づけるなよ。でないと顔が吹き飛ぶぞ。」
その言葉に驚いたスタンは慌てて顔を離し
「でも何故、蓋が付いているのだ?要るのか?」
と、カイに尋ねた。
「あ!そうか、精霊石から繋がる刻印を外せばいいだけだ。」
そう言うと早速、箱の改良を始めた。
「という事は形も四角にする必要はないな。丸い方がスムーズに強風が流れるから・・・」
何やら呟きながら材料を揃えている。
それを横目で見ながらディンカは実験器具の先にある鉱石を見た。
次の瞬間、驚きの表情になる。
重たそうな鉱石の一部が溶けているのだ。
「これは!これは何故溶けているのだ?」
逆にどうやって溶かしたかが気になったディンカはその理由を尋ねる。
「ああ、それか。強風でなく火炎を使ったらそうなった。」
何でもない様にカイは言う。
だがそれを聞いたディンカは
「火炎だって?じゃあ火炎を限界まで込めたらどうなるんだ?」
それを聞いたカイの手が止まる。
「限界までか、限界は判らないが強風は五回まで大丈夫だったな。
次の実験は丸い筒で行うからもう少し持つだろう。
先ずは限界を知る為に問題ないような呪文、探索辺りを込めてみるか。
取り敢えず防御の呪文は使っておこう・・・」
そう言ってカイはそれまで使っていた箱に探索の呪文を込め始めた。
探索の呪文は低レベルの呪文なのでカイなら何十回ところか百回以上は唱えることが出来た。
結果、箱は百二十回込めることが出来、百二十一回目で壊れた。
壊れた衝撃で箱の材料が細切れになり飛び散るが防御の呪文のおかげで三人は怪我を負わずに済んだ。
「百二十回か、同じレベルの火炎も百二十回と見るべきだな。」
呪文は同じレベルなら消費される精神力の量も同じだ。
その為、加わる力も同じと考えられた。
「よし、新しい実験器具を作ったら火炎で実験してみよう。」
そして、新しく作られた筒型の実験器具で火炎を使った実験が試みられた。
その結果、壁が消失することになったのだ。




