魔導士は公開実験を見る
翌日、貴族の青年がギルド会館に来ていた。
金髪碧眼の青年を中心として、丸眼鏡をかけた銀髪の秘書らしい人物、金髪のエルフ、
黒髪でロングヘアーの護衛らしい青年は執事服に身を包み、銀髪の双子のメイドを引き連れている。
貴族の青年の目元は柔らかくカイとは正反対で全く似ていない。
「よく化けたわね。」
銀髪メイドに化けたバハルは感心するように言った。
「ドレッドさんが変身の指輪を貸してくれて助かったよ。」
そう言って貴族の青年はその指にはまった指輪を見せる。
姿を変えたカイだ。
「全くです。あのままギルド会館へ行っていたらどうなっていたことやら。」
と言うフィリアの言葉にカイ以外頷く。
ドレッドによるとカイはこの王都でも有名になりつつある。
当然、目端の利く商人、特に“チャールズ・ゴン”の様な商人には覚えられていると考えるべきなのだ。
海千山千の商人相手にカイ達が上手く立ち回れるとは考えにくい。
ならば全く関係の無い、貴族のふりをした方が相手も油断するという考えだった。
「どこからどう見ても、貴族のボンボンにしか見えないな。」
ディンカが言うようにカイの姿は指輪の効果で貴族の青年、しかもカイの姿から似ても似つかない姿になっている。
そう感想を述べるディンカもドレッドヘヤーを解き黒く染めただけなのだが全く別人に見える。
他の同行者も同様だ。
「さて、それはそうと、公開実験はもうすぐのはずだな。
ええっと、フイー?」
「フィオリーナです。カイト様。」
人前で呼ぶ時の為に名前を少し変えている。
ほんの少しだが・・・。
ルリエルが指をさす。
その先に公開実験の会場があった。
“太陽は大地を回らず、大地が回転することを証明する実験”
少し大きめの会場で公開実験を行う様だ。
公開実験は今始まった所の様だ。
貴族らしい者も何人かやって来ているが人数はまばらだ。
会場の中に入ると中央にテーブルが置かれ、傍らには少しくたびれた服装の二人の男が実験の準備をしている。
彼らが実験の当事者の“ジョン・ボンバック”と“ワルター・R・ヨーン”だろう。
そして、そこから少し離れた位置にこざっぱりとした男が立つ。
テーブルの方には向かずもっぱら入って来た人物、特に貴族連中に注意を払っている。
この人物が“チャールズ・ゴン”、ドレッドの言う通り油断ならない人物に見える。
カイ達はテーブルから少し離れた場所に着席する。
着席すると関係者なのか少女が近寄ってきて冊子を渡してくれた。
実験の概要が書かれた冊子の様だ。
カイは素早くその内容に目を通す。
チャールズはこちらを少し見たようだが、近づいて来ない。
傍らに立つディンカやバハルに気圧されている様だ。
テーブルで実験の準備をしていた男の一人が前に進み出る。
「ご来場の皆さま。こちらのテーブルをご覧下さい。」
男が指し示すテーブルの上には実験器具、三つのリングに囲まれた円盤状の物が置かれていた。
中の円盤は回っている様だ。
三つのリングが複雑な動きをしているように見える。
その実験器具を見たカイの目が大きく見開かれた。
「円盤が水平に保たれている。
これが“グウィバー”の言った解決方法につながる物か!」




