魔導士は王都へ行く その2
王都東区、職人や商人が集まる場所。
商店や職人の店が所狭しと立ち並び、それらを求める人がひっきりなしに通行している。
ここで手に入らない物は王国何処へ行っても手に入らないと言われるほどの区画だ。
その区画の一角に目的のギルド会館がある。
このギルド会館は商人系のギルドが合同で建てたもので、年中様々な催しが行われていた。
カイは今朝王都に着いたばかりだが、真っ先にこのギルド会館へ向かおうとした。
本来、世話になった人々、
ギルド“フェールズ”のマスターであるドレッド等の人達へ挨拶に行くべきなのだが、走空車の欠陥を直す事で頭がいっぱいで気が回らなかったのだ。
そんなカイを二人の女性、ルリエルとフィリアが押しとどめた。
「カイ。挨拶、先」
「ダメですよ。先に挨拶を済ませないと。」
そんな二人の様子を見てディンカやバハル、ニライは頷いている。
「「「やはりこの二人を連れてきて正解だったね。」」」
「いやでも、実験の確認をしないと・・・」
二人は気のはやるカイを両脇から引っ張りギルドがある南区へ向かう。
「大丈夫です。その確認はバハルさんに頼みます。」
「ハバル、頼む。」
二人はバハルに公開実験の確認を頼んだ。
「お、おい、ディンカも何か言ってくれ。」
悪あがきをするカイにディンカは肩を掴んで親指を立てにっこり笑う。
「尻に敷かれるのが家庭円満のコツだぞ。」
「元凶はお前かっ!」
カイの叫びも空しく、二人に引っ張られてゆくのであった。
王直轄のギルドとなったフェールズのギルドハウスは南区でも王宮がある中央区に近い場所にある。
元々は騎士の詰め所だった場所だそうだ。
その為、ギルドハウスの中庭は訓練場になっており、今でもギルドメンバーの訓練に使われている。
訓練には腕の立つギルドメンバーの他、ギルド長のドレッドも教官の一人としてギルドメンバーを鍛えていた。
カイ達が案内された時、ギルド長の訓練が一段落し休憩に入ろうかとしていた。
「これは珍しい。魔導士カイ殿とかわいらしいお嬢さん方とは、今日は何用ですかな?」
訓練場では三人の男女が息絶え絶えになっていたが、ドレッドは軽く汗をかいた程度である。
「お久しぶりです、ドレッド殿。
今日はこの間のお礼にやって来ました。
王都へは走空車の改良に関しての件でやって来た次第です。」
カイが軽くお辞儀をしながら答える。
「走空車・・・ここで立ち話は何ですので応接室までどうぞ・・・
君、お茶を用意頼むよ。」
ドレッドは案内してくれたギルドの受付嬢へ頼むとカイ達を応接間まで案内した。
「どうぞ、気楽にかけてくれたまえ。」
ドレッドはカイ達に椅子をすすめると話を切り出した。
「で、走空車の改良とは?」
「ドレッド殿もご存知の通り、走空車は横風に弱い。
少し高く上がると強い横風によって操縦がままならなくなります。
その為、あまり高度を上げることが出来ない。」
ドレッドは頷きながら答える。
「確かに。それはダンケルクから聞いたことがあります。
だからある程度操縦に慣れた者でないと危険であると。」
「はい、現状その様になっています。
そして高度を取れないという事は王から依頼である大型走空車の製作が困難になります。」
カイは大型走空車の問題点を正直に答える。
「大きさ故、高度を取らなくてはならないのです。」
ドレッドは頷きながら質問する。
「なるほど、その改良の手がかりが王都にあると?」
「はい。この冊子を見てください。」
カイはそう言うと“魔道通信”の公開実験のページをドレッドに見せた。
“太陽は大地を回らず、大地が回転することを証明する実験”
「・・・これが関係するのですか?にわかには信じがたい。おや?」
“魔道通信”を見たドレッドは何か気になることを見つけたようだった。
「どうかしましたか?」
「公開実験の発案者達の所に気になる名前があってね。」
と言いながらドレッドはその名前を指さした。
「“チャールズ・ゴン”・・・誰ですか?」
カイはドレッドに尋ねた。
「実験場所のギルド会館、“聖木”の所有者だよ。
ただ、魔導士の上前を撥ねる悪辣な商人としても有名だね。」
ドレッドがもたらした情報を前にカイは暗澹たる気持ちになるのだった。




