魔導士は王都へ行く
魔導士による公開実験。
権利が保証されない世界において、出資者を得るのに有効な手段である。
魔導士は実験を公開することで出資者を募り、出資者は成果を手にすることで利益もしくは名声を手に入れる。
カイは魔道通信の記事、公開実験の一つ
“太陽は大地を回らず、大地が回転することを証明する実験”
に注目した。
「?大地が回転すると何かあるのですか?」
フィリアは何を目的としているのか疑問に思ったようだ。
「おそらく太陽教が関わっているかな?
“大地の周りを太陽が回るのではない”となれば
太陽神の優位を主張しやすくなるからね。」
カイが言う太陽教、太陽神“ベレーヌ”を信仰する宗教である。
人類の中で最も信仰されている宗教であると言われ、リヒトファラス王国でも最も勢力のある宗教だ。
「それにより他の女神が属神であると証明したいのではないかな。」
カイの言う通り、様々な女神を祭る各宗教の司祭は“我が女神が第一位の女神で他は属神である。”と考えている節がある。
表面上は穏やかに仲良くしているように見えるが、裏では様々な陰謀が渦巻いている世界でもあるのだ。
「じゃあ、これは太陽教の肝入りの実験なのか?」
今度はスタンが聞いてくる。
「実験を行うのが・・・“ジョン・ボンバック”と“ワルター・R・ヨーン”・・・聞いたことが無いな。」
カイは魔道通信に記載されている実験者名を見てそう呟いた。
「太陽教?関係者?」
ルリエルは警戒の必要がある可能性を考慮してカイに尋ねた。
「ちがいますね。これは太陽教とは関係ないですよ。
その証拠にほら・・・」
居合わせた一同はカイが指し示すところに注目する。
「実験場所が王都東区のギルド会館だ。」
「「「???」」」
王都に住んだことの無いルリエルやフィリア、スタンには判らない場所だった。
「ギルド会館は判りますが東区って?」
フィリアがカイに東区について聞いた。
「王都の東区は職人や商人、その系列の人が良く住んでいる場所です。
そこは“ハールワ”や“ヴァルナ”の信者が多いし教会もある。」
カイが東区の概要を話す。
「太陽教、関係無い?」
ルリエルが少し安心したのかホッとした表情で聞き返した。
「そうだね。むしろ、職人か商人が何か関わっているかもしれないからここなんだろうな。」
逆にカイは難しそうな顔で答える。
商人が関わってくると面倒ごとになりそうな予感がしたからだ。
「“グウィバー”の言葉を信じるなら、王都へ行くしかないか。」
カイは王都へ行く決心をした。




