魔導士の新たな日常
その日、工房の中は慌ただしかった。
出入口ではスタンが警備に当る。
受付ではフィリアが帳簿をつけ、
工房内をドワーフの二人は動き回り、
ルリエルは材料の加工を行っている。
カイは朝早くから錬金釜の前で回復薬の製作を行っていた。
スコルナ伯に監禁されている間にストックが切れてしまったためだ。
「よしこれで100本分。」
いつもの様に回復薬を作り上げる。
「えーっと、先日完成した分が150本、その前が120本だから・・・後300本必要ですね。」
フィリアが売り上げの記録簿を見ながら答えた。
一ヵ月の平均売上本数と辺境伯への納入分から三か月分を確保するのが目的だ。
「後300か、今週いっぱいは係るかな。
そう言えば材料が切れていた、調達に行かないと。」
と言って出かけようとするカイをフィリアは押しとどめる。
「カ・イ・さ・ん。どちらまで行かれるのですか?」
「いや、材料を調達しにちょっと市場まで・・・」
「ふぅん。・・・市場でいい物が無かったらどうするのですか?」
フィリアは腕を組み横目で問いただした。
「それは・・・輝く星の森へ行って採取かな?」
カイは渋々答えた。
それを聞いたフィリアは大きな声でルリエルを呼んだ。
「ルリエル!カイが市場に材料を買いに行くって。
場合によっては森に行くからあなたに任せるわ。」
「ん、判った。」
二階から素早くルリエルが下りてきた。
「いやぁ、ルリエル。近くだから大丈夫だよ・・・うん。」
「カイ・・・」
「カイさん・・・」
カイはフィリアとルリエルに両側から糾弾された。
「その油断がこの間の様なことになったのです。
反省していますか?」
「カイ、反省、猛省。」
スコルナ領での拉致監禁事件があった為、カイには最低一人が付くことになっていた。
ここリモーデにおいて、工房ではフィリアが、輝く星の森やダンジョンではルリエルが必ず付いてきた。
そして、ご丁寧に工房の空き部屋を自分たちの部屋にしている。
どうも外堀どころか内堀も埋められていくような気がするカイであった。
「輝く星、もう一人、スタン?」
ルリエルがもう一人の同行を求めた。
輝く星の森へ行くのであれば、もう一人いた方が良いからである。
「はいよ。」
出入口で警備にあたっていたスタンが同意する。
ディンカ、スタン、フロームの三人は時間がある時は必ず工房に詰めていた。
これはギルド長であるヴァニアの指示である。
「いやぁ、スタン。
必ず輝く星の森へ行くわけでは無いのだから別に・・・。」
スタンはそう言うカイの肩を掴み
「カイ氏。」
「家族円満のコツは尻に敷かれることだぞ。」
親指を立てながらにっこり笑い、歯を輝かせそう言った。




