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魔導士はSランクギルドをクビになる。

 その日、一人の魔導士が王都のSランクギルド”フェールズ”を解雇クビになった。


 ギルド“フェールズ”は採鉱系ギルドの中で五本の指に入るSランクギルドである。



 魔導士の名は“カイ”

 30才過ぎの中堅魔導士である。背丈は170cmぐらい大きめの青紫色のローブを着ているため体格は判らない。時々ローブから覗く腕を見る限りよく見かける魔法使いの様なやせ細った体ではなさそうである。髪は少し白髪の混じった短い黒髪で、丸眼鏡をかけ目つきも悪い。

 カイの仕事先での評判は”可もなく不可なく”といったところである。



 事の始まりはギルドの酒場。

 おりしもギルドの創立記念日で所属している冒険者や職員が一堂に会していた。


 酒場には五つほどの丸テーブルが並べられ、カイが座るテーブル以外には四、五人の人達が着席しており、テーブルの上には人数分のエールが配られていた。

 一方、カイは明日中に出す書類作成に追われ、必要な書類がテーブルの上に置かれていた。

 酒場の奥、丸テーブルが囲む場所に一段高く台が設けられおり、台の上では初老の男ギルド長の”ライセル”がグラスを片手に声を張り上げ唾を飛ばしている。


 ライセルは年のころは60代後半、頭も薄くなり髪も白い。体格は大病を患った為かなり細い。若いころは鍛え上げた肉体で敵を葬り去る強靭な戦士だったという。


 このライセル、自称”現場主義”である。


 現場主義と言えば聞こえが良い。だが、実際は後衛職や職員などの人を蔑ろにしているだけの間違った現場主義なのだ。


 以前からいた職員に


”お前の代わりなど何人でもいる!”

”文句があるなら何時でもやめろ!”

”お前らは俺の言う事を聞いていればいいんだ!!”


 と怒鳴り散らした結果、ほぼ全ての職員は憤慨し一斉に辞めてしまった。残ったのは専門知識を持たない職員が一人。


 その為、カイは探索に必要な書類、攻略申請書を作成していた。


 “リヒトファラス”王国はダンジョン探索おける書類提出を義務付けている。それが”攻略申請書”であり、探索前に出す必要がある。


 その内容は


”攻略の工程”、

”人員”、

”ダンジョンの攻略方法”、

”使用する道具”、

”現在把握している地図”


 など様々な内容を記載する必要があった。ダンジョンの状況により申請内容が変化する為、専門知識を持たない職員では作成できないのだ。


 王国が”攻略申請書”の提出を義務付けるのは、不慮の事故を防ぐ他、手に入った出土品、秘宝いわゆる魔法の道具マジックアイテムを王国の管轄下に置くためである。


 部屋の奥でライセルが声を張り上げている。

 内容は自分の功績を長々と語っているようだ。その為か周囲の人間も少し疲れた顔をしていた。


「・・・・・・と言うわけで我がギルド“フェールズ設立50年”を迎えることが出来のだ!!では、今後のギルドの繁栄を願って・・・乾杯!」


「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」


 ”ライセル”により乾杯の音頭がとられる。


 乾杯の音頭に続きライセルは


「さて、ここで重要な発表がある。創立50周年の節目を契機に、ワシは引退しようと思う。」


 冒険者(戦士)としては10年、副ギルド長として5年、ギルド長になって5年。大病を患ったこともあり、ギルドを運営するのが難しくなってきたのだろう。


「新しいギルド長には息子の”クファー”を指名する。誰か異議のある者はいるか?」


 ライセルの息子のクファーは別のギルドでリーダーを務めてきた人物である。

 所属していたギルドもフェールズと同じくSランクのギルドであり、リーダーを務められる人物なのだから問題は少ないだろう。

 その場にいる人間に異議のある者はいなかった。


「うむ、意義は無い様だな。それと、ギルド長が新しくなるにあたって、ギルド自体を刷新しようと思う。」


 ライセルは話を続ける。


「内容はワシよりも年を取った60歳以上の職員と役に立たない不良冒険者の解雇だ。これにより心機一転、さらなる高みを目指すのだ!」


 そして、カイの方に向き


「と言うわけで、魔導士“カイ”、君は解雇クビだ。」


「はい?」


 書類に追われて下がっていたカイの頭が上がる。

 ライセルの言葉はカイにとって青天の霹靂であった。



 カイの目にライセルと二人の冒険者が映る。

 ふんぞり返るライセルの両脇に立つ二人の冒険者はカイの方を見てニヤニヤ笑っていた。


 この二人、

 重戦士の“アウスゼン”と遊撃士の“シュガー”。彼ら二人は前衛職(脳筋)であり、カイと違ってライセルのお気に入りだ。


「ちょっと待ってください。私は・・・」


「問答は無用!!話はそれだけだ!!」


 ライセルは話を聞く気はない態度で一方的に話を切った。


「・・・。」


 脳筋に何を言っても無駄であろう事はカイにも理解していた。


 ただ、魔法を使える者がほとんどいなくなったギルドはダンジョン攻略に支障をきたす。


 特に今ギルドが攻略しているダンジョンは10階以降、魔法が使える者がいないと必ず詰む。対策無しで10階に進むとパーティは壊滅し数多くの死人が出るだろう。

 その為、ギルドは消滅してしまうかもしれない。


 王国は死人が出る様なギルドを嫌う。


 何故か?


 冒険者は死人が出るようなダンジョンの探索を行わない。死んでは御終いだからである。


 冒険者が訪れなくなったダンジョンは出土品の数や質が低下する。(王国兵の探索がある為、出土品は0にはならない。)


 出土品の数や質の低下は、王国にとって死活問題である。ダンジョンの出土品を主力産業の一つとなっている為だ。


よって死人を出した場合、ギルドに極めて重いペナルティが与えられる。


 ダンジョン探索資格の停止、各種優遇措置(減税など)の除外等。この事はギルドの経営を圧迫することになり、まず間違いなくギルド自体が立ちゆかなくなる。

 よって、消滅するのは時間の問題となるのだ。


 絶望的なギルドの将来を予想し考え込むカイにギルド長のライセルは更に言葉を続ける。


「月末にはまだ日があるが明日から来なくていいぞ。来てもお前の席はないからな!荷物は後でまとめて送ってやる。片付けなくても良いから、さっさと出ていくのだな。」


 カイはここに居場所はないと考え、自分の鞄を取りギルドを後にする。


「お世話になりました。では失礼します。」


 その後ろ姿を見るライセルやアウスゼン達は“にたり”と笑った。

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