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バックナンバーズ 第1話『瞬き』  作者: わだかまり
バックナンバーズ 第1話『瞬き』
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1-3

日課の奉仕活動(雑用)を終えた俺は部室で映画を見ていた。しかし、実のところ内容は頭に入ってきていなかった。

頭の中でぐるぐる駆け巡るのは、例のギャルと雨の中の子の事だった。

カバンにシュシュは確かにあの時見ていたものに近い気もするが、髪はカールし巻いていて当時とは違う気もする。メイクもゴリゴリであの時の感じとは違う気もするが…。そもそもあんな子が雨の中で黄昏れるだろか。何方かと言えば辛いことがあればウェーイ!と友人とカラオケで発散しそうな気も剃する。しかし安藤の調べではあのカバンにプーさんのキーホルダーを付けている子はあの子だけ。

そんなこと考えていると、突然部室のドアが開いた。

「おーう、諏訪、ここに居たか」

顧問の市川先生だった。やる気の無い顧問が部室に来るとは珍しい。

「ちょっと話があるんだが時間いいかー?」

俺は停止ボタンを押して話を聞く。この部活の処世術は『先生方の言うことは絶対』だ。

「映画途中なんでちょっとなら」

市川先生はそうかーと言いながら、誰かを呼んだ。

俺は驚いた。居たのは例のギャルだった。

何故この子がここに…?

「今日から奉仕部の一員になる、白百合詩由(しらとりしゆ)だ、1年の女の子だー、大事に扱えー」

しらとり…そんな名前だったのか。一員になる?色々な思考が巡ったが何よりまず言わねばならないのは…。

「ここ映画部なんですけど!?」

「あーそーいやそうだった。白百合、ここは映画部でもあるんだ」

おまけはそっちじゃない!

白百合という女の子は怪訝そうにこっちを見る。警戒した犬のように眉間にシワがよってる。めっちゃ怖っ!

市川先生が話を続ける。

「ちょっと白百合の生活指導の一貫でなー。色々あって奉仕活動をする事になったんだー」

白百合は余計なこと言うんじゃねえという感じに市川先生に睨みつけた。めっちゃ怖っ!

「というわけで明日から二人で奉仕活動してくれー」

それだけいうと、市川先生はスタスタと行ってしまった。

「ちょっと…!」

「……」

「……」

二人きりになり、ちょっと気まずい感じになる。

「とりあえず、部室入る?」

「は?キモっ」

それだけ言うと、白百合もスタスタ去ってしまった。

俺は立ち尽くすしかなかった。



翌日、気落ちしてる俺に安藤が話かけてきた。

「例のギャル、お前の部活に来たってまじ?」

こいつ情報早いな…。だが学校なんて狭いローカルネットワークの情報速度なんてたかが知れてる。みんな些細話題にすら飢えているのだ。

「違う、アイツが用あるのは奉仕部の方だ。俺は映画部だ」

そこだけは譲れん。

「同じじゃん」

同じではない。というかお前も元映画部だろう。すぐに辞めたが。

「いいじゃん女の子と二人っきりで共同作業なんて、なんか間違いが起きちゃうかもしれないぜ?」

可愛い子だったらいいかもしれないが、あのギャルと間違いはあんまり起こしたくないかな…。

「じゃあお前に譲る。元映画部のよしみとして」

「いいや、俺ギャルに興味無いし」

あっさり断られた…。こ、こいつ…。


気が重い方放課後になる。

いつもはルンルン気分の部活なのに、今日は胃が飛び出して来そうだ…。市川先生がとりあえず今日の仕事(雑用)を持ってくる約束の時間は3:40だったはずだが、既に時間は16時を回っている。市川先生も来ないが、そもそも白百合も来ない。早く仕事終わらせてさっさと映画見たいのに…。

俺がイライラしていると、ようやく部室のドアが開いた。

そこには、首根っこを掴まれた白百合がいた。まるでどら猫を捕まえて来たようだった。

「すまんなー諏訪、白百合を捕まえるのに苦労してたんだー」

まさに逃げていたどら猫を捕まえていた。

「観念しろ白百合ー、俺が生活指導しているうちはちゃんと公正しねーと逃がさねーからなー」

白百合の眉間にまた新しいシワがよって威嚇する。めっちゃ怖っ!

「というわけで早速活動だー、。えいっえいっおーっ!」

誰も乗るものは居なかった。


今日の活動は清掃活動である。年寄のじいさんしかいない用務員さんだけではできない場所などを手伝って行くスタンダードな仕事だ。だいたい週一でやっていく。

しかし…。

白百合が働かない…。

さっきからテキトーに同じ場所をほうきではいているだけである。

めっちゃムカつくが、怖くて注意できない。とりあえず自分だけでも仕事する。

「おい白百合ー同じところばっかはくんじゃねー」

監督としてついてくれてる市川先生が注意すると、しぶしぶ白百合は別の場所も掃き出した。市川先生ありがとう。

「諏訪ー、おめーも白百合に色々言えー」

え?俺も?俺そんな権限ないよ?

「おめーも先輩ならビシッと言えーそれも先輩の勤めだー」

ビシッと言われる本人の前でそんなこと言わないでほしい。あの槍の様に突き刺す目線が俺にも向けられる。なんてやろーだ…。

しかし、流れとして言わねばならないだろう。

「あの…白百合…さん?ちゃんとやらないと」

「はぁ?うっせーよじじい!」

怒鳴られた…。しかもじじいって…。ひとつしか変わらないのに…。

俺は真っ白になった。

「白百合ー。ほうきははけと言ったが暴言吐けとは言ってないぞー」

うまいこと言ったつもりか!

こうして、散々な目にあったが、とりあえず地獄の1日目は終了した。終了時間は既に6時過ぎており、下向時刻だった。

今日の映画が…。

とぼとぼと、白百合と一緒に荷物を取りに部室に戻る。

さすがに白百合も疲れたのか、足取りが重そうだった。

部活につくと、帰る準備をする荷物をまとめたり、白百合は鏡を見ながらメイクを見ていた。


その時の僕は、あまり気まずかったこともあるだろうけど、少しでも時間を共有するなら多少なり相手のことを知ろうと思っていたんだろう。彼女との共通点を模索していたが、あの時は真っ先に浮かんだ言葉をただなんとなく喋っただけだった。


俺がなんとなく喋る。

「そういえば白百合さんさ、1週間くらい前に雨の中走ってなかった」

しんと、空気が張り詰めるのを感じた。彼女の手が止まっている。俺もなにか鋭利な刃物でも当てられた様に背中がぞくぞくした。

相手の反応がわからず、白百合の方を向くと、目が合った。

手には鏡とカラコンを持っていたが、その手を止めてこっちを見ていた。

薄暗い部室で、相手がじっとこっちを見ている。いつも睨みつける目とも違う、その瞳は初めて見る目だった。

俺はそれを見てゾッとしていた。

相手が何を考えているのかわからない。まるでそこにいるのは同じ人間とは思えないようにすら感じた。

永遠にも思える緊張の時間は、彼女が作業に戻ることで解かれた。「別にー。っていうかあの時見てたキモいのはアンタだったんだー」

否定をしないことにはちょっと驚いた。っていうか相手もこっちを認識してたことに驚いた。暴言についてはもう慣れた。

白百合はカラコンを器用につけるとさっさとカバンに仕舞い、担いで立ち上がった。

「あ、そうそう。そのこと誰かに言ったらぶっ殺すから」

それだけ言うと部室から出ていった。

あんまりぶっ殺すと言われたこと自体にはあまり怖さを感じなかった。


当時の僕は、まだ彼女のことをあまり理解して居なかった。ただ、あの時のことを話すと何故かいつものツンケンした態度と違ってかなりまともな反応が返ってくる程度に認識だった。

ここが僕達のスタートラインであることを知ったのは、今更のことである。

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