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バックナンバーズ 第1話『瞬き』  作者: わだかまり
バックナンバーズ 第1話『瞬き』
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1-1

ちょっとだけ作品解説を。

この物語は「大人になった主人公が思い出しながら手記として書いている」という体で進んでおります。

大人の主人公が『僕』で、高校生の主人公が『俺』と一人称が異なるのはそのためです。

意義があってこういった形式ですが、少し読みにくいと思ったので一応解説しておきました。

人の人生で映画にするなら青春時代が一番だろう。

長い一生の中で一番精力的であり、そして愚かだからだ。

それを第三者的に見た時、非常に面白いものに見える。

我が青春の決断を、たった2時間の内容に収める愚挙。まさに人にとっては瞬きのような時間の中で、僕らの行動を笑い、反省し、何故か涙するのだ。

これから僕が話すのは正しく愚かな反省の記録である。

あの頃の僕は馬鹿だった。後先考えず行動して人の人生に干渉したり、傷つけた。傍から見れば笑い話ではあるが、当事者にとってはたまったものではない。

話は高校2年の初夏から始まる。

事の起こりの時、僕は別の部活の手伝いをしていた。


バックナンバーズ 第1話

『瞬き』


5月某日

その日の僕は化学部の物を運んでいた。化学部では有機溶剤とかなんだかんだと重たいもんを運ぶくせに、部員がほとんど女子なもんで顧問が俺に手伝いをさせていたのだ。

「これで最後っす」

「ありがとうね諏訪君」

「ははは、お易い御用っすよ!」

ヘラヘラと媚びへつらう男こそ、僕こと諏訪一哲(すわ いってつ)である。一応誤解の無いように解説するが、当時の俺が化学部の手伝いをしていたのは、ブスしかいない化学部女子のポイントを稼ぐためではない。

「じゃあ今日はこんなもんでいっすか?」

「ハイハイ、これでいーわよ」

「よっしゃ、じゃあまた今度ー!」

俺は足早にそこを立ち去る。これ以上俺の楽しみを奪われることは嫌だった。

俺が来たのは自分の部活ん部室である。名前は「映画研究部 兼 奉仕部」

しかし、今は映研は機能していない。事実上俺の個室と化していた。

そこで取り出したるは、レンタルしてきたDVD、ここで映画を見るのだ。ここには先代が残した充実した映画鑑賞設備があり、ゆったりしたソファーに巨大な投影スクリーン、サラウンドが設置されている。以前までわが校の映研はかなり活気のあった部だったらしいが、熱心だった顧問がいなくなったと同時に衰退したらしい。今の俺にとっては嬉しい限りだが。

しかし、一方で問題もある。

当然あんまり部員のいない部活に部屋を与える学校なんてありはしない。

この部を存続させる交換条件として、俺は「奉仕部」としての肩書きも背負わされた。要は体のいい手伝い要員なんだが、俺としては軽作業でこの設備を使えるので、あんまり気にしてはいない。

ともかく、俺はDVDをセットし、しばしの映画の世界観に浸るのだった…。

映画の内容はざっくりいうと変則的な恋愛映画だった。設定年齢は俺と同じくらいだが、好きな女の子のために何度も生き返っては思いを伝えようとする…。すごくシュールで趣味の悪い映画だ。

しかし、自分自身の今の身と比較して考えると…ある意味羨ましくも思う。

俺には、後にも先にもこのような情熱を燃やせるような出会いがあるんだろうか?

人の人生なんて映画のような劇的なものなんて滅多に無い。だからこそ映画やドラマが商売として成立するんだろうが。

こんなふうに一瞬で消えるようなことが、俺にあるのか…。そんなことを考えていたらエンドロールになっていた。少し邪心が入ってしまった。内容自体は面白かったのにあまり集中しないのは映画に対して失礼な様に思える。


映画に夢中で気づかなかったが、外は雨が降っていた。結構な雨だ。傘は持ってきていなかった。

しばらくぼんやりと外を見ていた。別に途方に暮れてるわけでもないが、なんとなくぼーっとしていた。

そんな時、雨の中に誰かいることに気がついた。

薄暗い中だが、誰かが傘もささずに立っている。立ち尽くしているのか?俺はもっと目を凝らして見る。そして、ようやく全貌がわかった。

女の子だった。俺と同じ高校の女の子がずっと雨に濡れていた。

水色のシュシュ、長いストレート髪、色白の肌、顔はよく見えない、カバンに黄色いクマのキーホルダーがついていた。


思えば。当時の僕は思考が支配されて居たのだと思う。もしくは青春特有の病気だったんだ。こんな状況で何も思わない方がおかしいと思えるかもしれないが、おそらくそれは当時恋愛映画なんて見てしまったから故の暴走だったんだ。


俺ははじっと見ていた。一体何が起こっているのか自分でもよくわからなかった。いくつもの考えがめぐる。

ふと、相手の子はこっちを振り向いた気がしたが、次の瞬間には走って行ってしまった。

俺は、わけのわからない心臓の高まりを感じていた。


後に知った。これは僕が恋に瞬間だったのだ。

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