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逆転生した魔術師にリアルは屈しました 【凍結】  作者: 影薄燕
第3章 結成! マギア・クインテット!
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特別SS 転生者の少年と転移者(予定)の少女

 サプライズ投稿です。


 これは偶然か、はたまた必然か。


 それは神のみぞ知る出会い。


 願わくば、再び2人が交差する未来を……




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「あー、かったるい。またこの辺りに来ることになるなんて」


 人々がお互いにぶつかりそうになる距離を歩き、しかし不思議とぶつからずに視界から消えていく都会。

 俊はある用事で普段住んでいる市から遠出していた。


「結構大量に盗って――じゃなかった。貰ってきたのに、まさか土が足りなくなるなんて……。まだあの土地があればいいんだけど」


 俊の用事。それは魔術具を作るための材料のそのまた材料である、可能な限り不純物を取り除いた大量の土の確保だ。


 今から約1年程前、友人たちとヒーロー活動すると誓った日から数日後のこと。

 たまたまヤのつく恐い人たちが完全に法に触れる悪事を行い、警察に捕まったニュースを見た俊。詳しく見れば、電車で数本の距離にある駅から近い場所だった。


 映像からは捕まった怖い人たちがいた屋敷と、広い……それはもうたくさんの土がある庭を確認できた。


 それでピンと来たのだ。



 ――これ、オレが貰ってもよくね? と。



 よくないわボケ。

 そんなツッコミを入れる人は残念ながら当時近くにいなかった。


 俊としても、魔術具の材料の元となる大量の土や石をどこから手に入れるかは悩む所だったのだ。石ならば河原で適当に集めればいい。一ヶ所で集めすぎないよう注意して友人4人に収集を頼んだ。


 しかし問題は土だ。

 人の家から勝手に持って行くのは論外。山から得ようものなら、下手をすると土砂崩れの危険が増すことになる。

 自分たちのために周囲に迷惑をかけることは許されない。

 それぐらいの分別は俊にもあった。


 だが、逆に言えば、迷惑をかける相手が悪人であれば遠慮する必要は微塵もない。それが俊の結論だ。


 例のヤのつく人たちの大半は後数年で牢屋から出て戻ってくるだろう。つまり、まだその土地はその人たちの所有ということだ。

 これが戻る見込みも無く、国・県が所有することになるのであれば俊も諦めた。しぶしぶとだが……


 その辺りは気になったので念入りに調べた。

 そして、悪人のモノのままだからいいよね? もうダメって言っても行動するよ? よーし! 土いじりしますかー! と、時間を見つけた時には溜めていたお小遣いを使って電車で目的地に。魔術を惜しむことなく使い、庭にあった大量の土をこれでもかと奪ったのだ。

 その際、庭の景色をより良いものへと変えていた要素はことごとく破壊されていたりする。組長が大事に育ててきた松も「土を取るのに邪魔」という理由で引っこ抜かれた。

 唯一無事だったのは池と、そこで泳いでいた鯉ぐらいなもの。


 当然の話であるが、全てが終わった後に確認しに来た警察は大いに驚くこととなり、ニュースにも取り上げられた。

 土の話をした寺田など、ごっそり無くなった庭の土を上空から撮影した映像をニュースで見てすぐ、俊に電話で「限度ってもんがあるだろル〇ン!」と怒鳴りつけ、誰かしら報復に来るのではと数日を緊張しながら過ごしたとのこと。


 余談だが、事の次第を知った組長は刑務所の中で白目を剥き気絶したのち、静かに涙を流したという。


 そんなことも全部知ったうえで、またしても土を盗み出そうとする俊。

 転生してから幾度も彼の“自重”は家出しているようだ。


 さて、そんな鬼畜である俊は現在ベンチに座りながら近くの店で買ったクレープを食べている。一仕事前の栄養補給だ。


「……後数ヶ月で4年生。今の所は順調だ。細かい点も修正しているし、半年ぐらい経てばテレビでもオレらが写るようになるのかねえ。……今の内に世界に向けてどんなことを言うべきか考えておこう」


 俊がそう遠くない未来の出来事についてクレープを食べながら思いをめぐらせている時だ。不快になるような声が聞こえる。


「おっほー。本当に真っ白じゃん! オレっち初めて見たわー。ねえねえ、写真撮っていい? いいよね? ツイッターに『超レア生物と遭遇!』ってタイトル付けてさ、いいねメッチャもらうんだ。ほらほら、ピースピース!」


 聞いているだけでソイツの感性を疑いたくなるような言葉が耳に届き、俊は一体なんだと振り向いて……止まる。


(あれは……アルビノってやつか)


 最初は外国の人だと思ったが、違う。

 背格好から恐らく中学生くらいだろう日本人顔の少女だ。

 俊もアルビノに関しては知識として知っていたものの、実際に見るのは初めてである。俊からしても整った容姿を少女はしており、真っ白な肌や髪、キレイな赤い瞳と相まって将来が楽しみな逸材だ。


 もっとも、その少女は誰が見ても不機嫌だと分かるほど眉間に皺を寄せ、汚物を見るかのような目でチャラ男を見ている。


 しかし周囲の人々は我関せずと通り過ぎ、どうしたものかと近くで見ている人たちも明確な行動をするつもりはないようだ。


「……はあ。しゃあないか」


 俊はチャラ男に天誅を下すため、重い腰を上げる。

 ――クレープをスタンバイしながら!


「眉間に皺寄っちゃってるよ? 写り悪いしもっと笑顔なってよ! おれの“いいね”が掛かってんよ? ほら早く早――」

「わ~い! 美味しそうなクレープだ~!」


 俊、クレープを持ってチャラ男に突撃!

 本当に楽しみで仕方ない無邪気な子供の笑顔で、精神に尋常じゃないダメージを負いながら、手に持つスマホをロックオン!


 そのまま勢いよくクリームたっぷりチョコクレープ(税込み300円)をスマホにぶつける。ちょっとお高めのスマホはクリームまみれの大惨事!


「あ……あぁあああああああああああああああああっ!!? オレっちのスマホがぁあああああああああああ!?」


 もはや画面がクリーム色になってしまったスマホを見て悲痛の叫びを上げるチャラ男。クリームのせいで手が滑り、スマホは地面に落ちる。


「うええええええん! ボクのクレェェェプゥゥゥ!」


 必死に嘘泣きをする俊。

 顔を俯かせ、目に手を当てているためその表情は分からないが、わずかに覗いている口元の三日月のような形はその心情を隠せてなかった。


 ――してやったり!


「テンメエ、どうしてくれんだよ! 壊れてたら弁償だぞ!」


 俊(嘘泣き中)に詰め寄ろうとするチャラ男。

 控えめに言ってもクズである。


 さて、この後どうしたものかと考えている時だ。

 俊よりも早く、件のアルビノ少女の方が動いた。


「……おい」

「あ? 何だよ? 今そっちに構ってるヒマは――」

「オカマになれ“ピー”野郎」


 瞬間、少女の蹴りが炸裂した。

 チャラ男の股間に。


「はうっ!!!??」


 悶絶して倒れ込むチャラ男娘。


「うっわ~……」


 ドン引きする俊。ついでにその周囲。


「はん! ざまあねえぜ!」


 なぜかドヤ顔で口の悪い少女。


 場は混沌と化した。




「良かったんですか? クレープ奢ってもらって?」

「いいの、いいの。私が好きでやったんだから」


 あの後、有無を言わさず少女に引っ張られてその場を離れることになった俊は、先程とは違う店のクレープを奢ってもらっていた。


 少し話をして分かったのは、なんとこの少女、最初の方から俊が演技でクレープをスマホにぶつけていたことを理解したらしい。


「こんな見た目だからね。さっきのは行き過ぎだけど、小さい頃から他人に嫌な目で見られることが多かったせいか、その人の目を見れば大体どんな奴か分かるようになったんだよ。で、さっきのキミの目は苦痛に耐えながらも敵に突撃する色が見て取れた。それだけの話だよ」

「すごいっすね」


 自嘲気味ながらも、地味にすごい特技を言う少女。


 俊は少女と会ったのは今日が初めてだ。だから、それまで見た目からどれだけ苦労したのかは分からない。だが前世の経験から、このタイプの子は同情の視線を何よりも嫌うことは理解していたので、俊も少し年上に話すような気さくさで対応する。


 数分程してクレープを食べ終わり、別れることにした2人。

 お互いに上手くは言えないが、不思議と波長があったのか短いながらも楽しく会話ができたと思っていた。


「じゃあな。今度は中学生くらいになったら会いたいものだね。その時も今と変わらないことを祈ってんよ」

「善処します。……そういえば本当に今更ですけど、名前まだ言ってませんでしたね。オレは麻倉俊って言います。9歳です」

「ありゃ、ご丁寧にどうも。私は永瀬雪菜。地元の中学に通ってるピッチピチの14歳だぞ」

「ふふ、自分でピッチピチって言うんですか?」

「ノリよくなけりゃあ、人生楽しくないんでね」

「でしょうね。よく分かります。じゃあ今度こそ」

「うん。まったねー」


 そうして2人は背を向きながら歩き出す。


 俊が友人たちと共にヒーロー活動をするようになるのは、この数ヶ月後。

 永瀬雪菜と名乗った少女が地球から姿を消すことになるのは、この数週間後。


 かつて異世界から地球に転生した少年と、遠くない内に地球から異世界に旅立つ少女の偶然な出会いは終わった。



 実は同じ地球にいた2人。

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