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逆転生した魔術師にリアルは屈しました 【凍結】  作者: 影薄燕
第3章 結成! マギア・クインテット!
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第59話 そして表も裏も動き出す


 『ジ・エンド』

 構想自体は俊がアレンとしてエヴァーランドで生きていた頃からあったが、結局は完成にまで至れなかった魔術である。


 俊は様々な魔術の素質が高く、あらゆる状況でも対応できるよう研鑽を積んだ。本人が魔術具作りに興味を持っていくつもの魔術具を持ち合わせていたことからも、1人で大抵のことができる程にまでなっていた。


 しかし、そんな俊でも悩みはある。

 それは一点特化の魔術が無いこと。

 悪い言い方をすれば器用貧乏なのだ。


 『衝撃波』のようなオリジナル魔術を創り上げ、魔術具で弱点を補おうとも、どうしても決め手――強大な敵に対する攻撃力が高い魔術が無かった。


 地球に転生してからは特別必要ないだろうと思ったが、たった数年の間に2度もエヴァーランドにもいた敵『アンノウン』と遭遇した。

 強力な魔術師がいない地球では下級までなら問題なくても、中級・上級の『アンノウン』との戦いでは不利になってくる。


 大悟は『強化魔術』に特化している。

 菜々美は『創造従魔クリエイト・ビースト』に特化している。

 音子は『干渉魔術』と『空間魔術』に特化している。

 椿は『火属性魔術』と今はまだだが『神聖魔術』に特化している。


 いずれ上級『アンノウン』に対抗できるだけの魔術をそれぞれ習得することになるだろう。椿の『激情のヒート・レイ』など十分その域に達している。


 だが、俊にはそれが少ない。

 一応科学技術が発展している地球で応用できるだろうと、『雷属性魔術』の強化を優先することにしたが不安は残る。

 そこで『ジ・エンド』の魔術だ。


 分類としては『強化魔術』にあたる。だがそれだけではない。

 『アクセサリー』5種類以上の力を使って実現させたのだ。


 使用した『アクセサリー』は『脚力強化』×2、『身体保護』、『魔力ブースト』、『攻撃接近』の5つ。

 『脚力強化』と『身体保護』はそのままの意味だ。限界までキックの威力を上げるため、体に掛かる負担の軽減のためにある。

 『魔力ブースト』は『ジ・エンド』を発動させるための魔力の変換効率を上げ、『脚力強化』とは別の方向で威力を上げている。

 『攻撃接近』はどんな体勢や状態からでも一定以上のスピードで相手に攻撃を当てるために使用している。普通の飛び蹴りでは速さに限度があるからだ。


 当初、構想段階では強力なパンチにする予定だったのだが……某仮面を付けたライダーなヒーローの影響を大きく受け浪漫を追い求めた結果、蹴り技になった。

 何がなんでも実現したくて、様々な蹴り技のバリエーションを増やしたくて、熱心に取り組み実現させた魔術だった。

 ……完成させた時の俊の顔は究極レベルのドヤ顔だ!




 そして現在もドヤ顔だった。


「……必殺技がこうも決まると気分がいいとはな」


 強力すぎるゆえに実戦で使用したのは今回が初めてだが、魔力を操作して手加減することもできたとして俊は大満足だった。

 蹴りつけた右足に若干の違和感は感じるが、単に慣れていないだけなので今後も使うようにすれば問題は無かった。


 問題があるとすれば……


「すげーぞアンタら!」

「ねえ見た! 最後のキック、カッコ良かったよね!?」

「それより戦っていた男の子でしょ! ミサイルや銃弾受けても無傷だし、拳一つでロボット(?)の装甲破壊したのよ?」

「いやいや。それだって最初にあの巫女の子がガトリングを破壊してくれたからだろ。この見えない壁もオレたちのこと地味に守っていたし」

「小学生の巫女……ハア、ハア」

「ちょっとそこのキミ? 署まで来てもらおうか」

「政府はこのことを知っているのか?」

「『マギア・クインテット』さああああああああぁん!! 是非とも取材ぅおおおおおおおおおお! 一言でもいいので! ほんの先っちょレベルでもいいので! 是非インタビューに答えてええええええええええん!!」

「遠藤さああああああん! 他の局のカメラ回っていますから! ヤバいですから! その顔放送禁止レベルですから! 自重してくださいよ!」

「自重なんてさっき旅だったわよ!」


 さっきからこの状態である。


「ちょっと怖えな……」

「ねえ? アタシはいつ結界を解けばいいのよ?」


 大悟の口が引きつり、椿が心底嫌そうに聞いてくる


 俊たちが落ち着いて会話できるのは、椿が今も張っている結界のお陰だ。

 もしも結界を解いたら……人の波に潰れる。

 それぐらい周囲は興奮していた。


 とくに若い女性リポーターらしき人の目がヤバすぎる!

 あれはどう見ても獲物を狙う野生の狩人の目だ!


「絶対に結界を解くなよ? 絶対だぞ? フリじゃないぞ? さっき『念話』で菜々美と音子に連絡したからすぐに来るはずだ。人質だった人たちもこっちに向かっている。周囲の人たちの意識が人質だった人たちに向いた瞬間結界を解いてくれ。菜々美が気を利かせてブタバスで迎えに来る……と思う」

「そこはハッキリさせろや」

「……迎えに来なかったら?」


 俊は嫌そ~に言う。仮面の下は遠い目だ。


「冬場でもないのに数百人規模のオシクラマンジュウだ。体格的にオレらがメッチャ不利。押されすぎて泣いてしまう」

「「うっわ~……」」


 大悟も椿も心底嫌そうだ!

 そんな時だった。


「お~い!」

「警察の人いますか~!」


 遠くから誰かが呼んでいる。それもだんだん増えていき。


「え? あれって……」

「おいおい、まさか!」

「あ、あれ! うちの息子夫婦に孫じゃないか!?」


(((――っ!? 来た~~~!)))


 人質となっていた約1万人もの人が遠くからやって来る。

 最初は様子を窺うように。関係者たちが反応を示せば、もう我慢できないと言わんばかりに走り出す。


「じいじ~! ばあば~!」

「お義父さん! 来てくれたんですか!」

「おがあぢゃあああああああん……」

「バッカ野郎。心配させやがって」


 どんどん合流する人々。

 家族が、友人が、涙を流しながら抱きしめ合う。絶望的な状況だった中での再会に、お互いにもう離すまいと強く強く抱きしめる。


 そして――結界が解かれた。


「テイマーさ~~~ん!! お助け~~~!!」

「どっかにいるなら、さっさと来いよぉおおおおおおおおお!!」

「ニャンコでもいいから早く!! 早く早く早く!」


 途端に叫ぶ俊・大悟・椿の3人。

 見えない壁が無くなったことに気付く人々。

 インタビューのために人混みをかき分けるマスコミ。


 最初に俊たちの元に辿り着いたのは……


「おっまたせ~!」

「ん。待った?」


 菜々美と音子であった。

 ステルス状態でなくなったブタバスが姿を現す。すでにドア部分が開かれた状態で、2人が顔を覗かせている。


「「「待ってました!」」」


 『身体強化』発動! ブタバスに飛び乗る3人!


 周囲の人々もようやくブタバスの存在に気付く。


「な、何だあれは!?」

「鳥か!?」

「飛行機か!?」

「いや、違う。あれはブタだ!」

「何!? 空飛ぶブタだと!?」

「え? ジ〇リ!?」

「……あ! ツイッターに投稿しなきゃ!」


 突然現れた空飛ぶブタに混乱する人々。

 カメラのシャッター音が少々うるさい。


「助かったぞ2人とも。すぐにステルスモードにして離脱だ!」

「あいあいさ~」


 ブタバスはドア部分を閉め、その場を離れるため徐々に加速しながら飛行する。中には追いかけてくる人もいたが、その姿が消え始めると追うのを諦めた。


 ……1人を除いて。


「待ってええええええええええええ! お願いだからインタビューおおおおおおお! そのブタは何ですかああああああああああああ!?」

「遠藤さん!? さっきのブタ、もう姿が見えませんよ! どこに向かって走っているんですか! 自分には何も見えないんすけど!?」

「こっちにいるって私の第6感が言っているのよ! あ、ダメ。もう自動車並みの速さで離れてく! 追いつけない」

「第6感って何すか!?」


 この日ついにテロを解決し、表舞台に上がった俊たち。

 報酬を求めず去っていく姿はまさにヒーロー。

 しかし、ブタバスの中にいる5人は謎の悪寒に襲われていた。


「「「「「……誰か追いかけている気がする」」」」」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 後日。俊たち5人は寺田鉄製品製作所にある寺田の私室で、あるニュース番組を見ていた。寺田・田中・栗原も後ろで見ていた。


 ニュースで流れている映像は先日のもの。

 俊たちがテロリストのパワードスーツと戦っている時に撮影された映像と、菜々美と音子がブタバスに乗って駆けつけた時のものである。


 どの局のニュースも同じような内容だ。



『見ましたでしょうか! テロリストに協力していた日本の元科学者が違法改造し、いくつもの兵器を積んだパワードスーツをモノともせず倒した謎の子供たちの姿を! 都市伝説などではなく、実在した「マギア・クインテット」とは一体何者なのでしょうか?』


『いやー、未だに信じられない気持ちの方が大きいのですが……。大勢の人たちが見ている中でのことですからね。専門家もCGなど一切使われていない本物の映像だと断言していますし。魔法――いや魔術でしたかな? 私も使えないものですかね?』


『夕方のニュースでは以前「マギア・クインテット」に助けられ、例の空飛ぶブタの乗り物に乗ったと証言する男性に出演していただき――』


『人質は全員無傷。このようなテロ事件で1人の犠牲者も出なかったのはまさに奇跡としか言いようがありません。テロリストは縄で縛られた状態で警察の方々に連行され、協力者も次々に捕まっていっています』


『我が局がテロリストからの脅迫によって、国民の皆様を危険にさらしてしまいましたことを深く反省する所存です。警察の調べによって当時の状況の確認が急がれており、今後の局の方針なども決まって来るとのことで――』


『昨日の会見により、総理を含めた政府の方たちは「マギア・クインテット」の5人に深く感謝の意を示し、可能であるならば会談の席を設けたいとの考えを述べました。この発言からも分かる通り、政府と「マギア・クインテット」には関係が無いことが明らかになっております。今後は彼らの正体について、小学校から中学校を対象に動きがあるのかが注目されます』


「今日の3分クッキングはこれにてお終いです。この後はお待ちかね貞子さだこの部屋となります。ニュースは夕方からの放送となりまーす」



「うんうん。どの局もいい反応だな」

「……いや、1つ平常運転な所があったぞ?」

「うぇへへへ~。私も映ってて良かった~」

「人質たちがスマホを取り上げられていなければ、もっと……」

「ほら音子、いつまで落ち込んでいるのよ? こればかりは仕方ないじゃないの。次の機会があったら、思いっきり活躍すればいいじゃない」


 ニュースを見ていた5人の反応はそれぞれ違うが、ようやく世間に自分たちの存在が認められたことに満足していた。


「はー、俊くんたち一気に有名人ですね。テロリストが全員捕まったことで芋づる式に協力者も捕まっていっているし」

「特にパワードスーツや銃器の素材を提供した元社長が捕まった際の映像なんてスカッとしましたよ。警察に取り押さえられながら『オレは何も悪くない!』って叫んでいて、ああいう奴が捕まって良かったですよね」

「……そうだな。話によれば罪も多くて終身刑は確定らしい。ホント、どうしようもねえバカだったよ」

「? 寺田さん、どうかしました?」

「変に元気無いですね?」

「……別に。何でもねえよ」


 俊たちや寺田たちが話しているとニュースの映像は人質だった人とその関係者へのインタビューのものへ変わる。



『あんなカワイらしい子たちに命を助けられるなんて思いもしませんでしたね。テイマーちゃんとニャンコちゃんには是非直接お礼を言いたかったです』


『助けに来たって言われた時の安心感を、私は一生忘れないと思います。夫と娘と生きている今があるのはあの子たちのお陰です』


『あのね? わたし、将来は洋服つくるお仕事がしたいんだ。1人でつくれるようになったら、テイマーやニャンコの衣装をつくりたいの!』


『ワシの強化ガラスが破られる日が来るとは思わなかったわい。あの巫女の子が破れない代物を創り上げるのが次の目標じゃな』


『ファイターくーん! この映像を見てくれているか! オレを弟子にしてくれー! 背中洗いから雑用まで何でもするぞー!』


『ブラックくんがリーダーなのかな? 最後のキックはカッコ良かったよ。あれ以来ファンになりました。応援してまーす』


『フフフ。この寂れた村の井戸、実にいいわ……』



 いくつかおかしなモノがあったが、ほとんどは『マギア・クインテット』に好意的な意見だった。


(第2段階はひとまずクリアってことでいいな。総理が会談の席を設けたいって言っていたのも実にいい。さっそく連絡を入れるべきか? ……いや、まだダメだ。全員が全員オレたちを好意的に捉えていると思うのは楽観的過ぎる。外国の反応も気になるところだ。早急に事を進めようとしても、子供のオレたちじゃ、できることに限りがある。夏休みに入るまでは様子見にするか)


 第3段階――政府の人間との話し合いは慎重に進めるべきというのが俊の考えだ。魔術の存在を知った人たちの動きをある程度でも知らなければ、万一の時に他の4人を危険に晒すことになってしまう。家族や友人と過ごす日常の平和も、俊たちにとって大事なものだ。絶対に失ってはいけない。


(そうだ。絶対に、今度こそ、失ったらダメなんだ……)




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 そこは薄暗い部屋だった。

 数本のろうそくだけが部屋を照らす。


「事態はもうワシらだけの問題ではない」


 口を開いたのは部屋にいる老人の1人。部屋の中には若い者なら20代、年老いた者なら70代までいる。


「政府は何と?」

「そちらがどのような対応を取るかは分からないが、彼らに危害を加えるならこちらも黙ってはいない、と」

「各家への確認は?」

「そのような子供など知らないとのことですわ。見た目の年齢なら10歳前後だと推測していますが、おかしな動きをした者は確認できておりません」

「外国の連中は?」

「むしろこちらが聞きたいぐらいだと。今回の件は大きく知られ過ぎて、火消しは不可能。本当に知らないのであれば、日本の迅速な対応を求めるそうです。念のため、それぞれで調べるそうですがあまり期待しないでほしいとのこと」

「彼らの使う魔術の系統は分かったのか?」

「どの文献にもそれらしい記述は……」

「う~む」


 それから誰も口を開かず1分程経過する。


「悩んでいてもしかたない。彼らが何者なのか? どういう意図であのような目立つマネをしたのか? 早急に調べる必要がある。……歴史上、危うかったことは何度もあったが、今の時代でここまで目立ってしまうとは頭が痛くなるばかりだ」

「それでは、彼らが活動しているという市に調査員を?」

「ああ。……『マギア・クインテット』、オマエたちは何者だ?」


 これで3章は終わりです。

 閑話と4章については今日の内に活動報告で書く予定。

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