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逆転生した魔術師にリアルは屈しました 【凍結】  作者: 影薄燕
第1章 異世界の魔術師が現代日本に転生!?
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第4話 近所の幼馴染が女の子だと、いつから錯覚していた?

「え? 向かいの家の親子が来る?」

「ええ。俊もようやく落ち着いたし、挨拶にね。ほら、覚えていない? 俊がすごく頭が痛いって泣き叫んでいた時、救急車が来るまでの間にお母さんの方に電話で助けを求めてね。その後は私と一緒に俊の側にいてくれたのよ」


 俊が退院してから今日で2週間目。

 前世の世界とこの世界とのあまりに大きな違いにカルチャーショックを受け、よくよく考えたら別の世界だしどうにもならねー! と開き直ってからさらに1週間が過ぎていた。


 最近では自分でも今の生活に馴染んできた自信がある。

 考えれば当たり前のことだが、30年以上生きてきたオッサンがいきなり別世界の3歳児になったのだ。そう簡単には生活に馴染めない。

 大きな失敗こそなかったが、小さいものだとどれくらいの数になるのか……母親が疑り深い性格だったらアウトだったかもしれない。


 魔術の修行はまだ始まっていない。

 今の身体に魔力を馴染ませている段階だ。

 俊としてはすぐにでも簡単なものでいいから魔術を使いたい気持ちが強かったが、身体に魔力が馴染んでいない状態で魔術を発動させようとすると、大抵の場合は体調を崩して寝込むことになる。最悪、もっとひどい状態になることも。


 そして、そろそろ馴染んできたみたいだし、魔術を母親がいない所で使おうかなと思っていた時に先ほどの話だ。


 家族以外の知り合いと話すことに不安を覚えるというのもある。

 しかし、1番問題なのは……


(全っっっ然、思い出せねえっ!!)


 そう、どういう人物なのかまともに覚えていなかったのである。


 完全に忘れたわけではないため、若い女性と自分と同じぐらいの背丈の子供がいたのは分かるのだが、具体的にどういう人物だったかが思い出せない。


(ただ……何だろ? 女性の方はともかく、子供の方に変な忌避感があるような無いような……?)


 正直に言えば会いたくない。

 しかし、そんなのは問題の先送りでしかない。


 母親にどんな親子なのか聞きたいが、「え!? 覚えてないの!? まさか記憶が!?」となってしまう可能性大だった。


 母親の話ではお昼を食べた後ぐらいの時間帯に来る予定とのことだ。

 前世、アレンの頃は強力な魔獣との戦いが後々に控えていた時、万全の状態で挑むために精神を集中し、心を落ち着かせるようにしていた。


 やるなら今すぐだ。自分の部屋に戻り、精神を集中し始める。


「問題ない。どんな魔獣との戦いが待ち受けていても、精神を集中し、心を落ち着かせれば、十分な戦闘をすることはできた。今回も大丈夫だ。そのはずだ! どんな攻撃(精神的な)でも耐えきって見せる! 狂暴な魔獣とも普段通りに戦うことができるオレの精神集中法を舐めるなよ!」


 いつの間にか、狂暴な魔獣と戦う覚悟で立ち向かわれることになってしまった親子とはいったい?




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――ピンポーン。


(……っ、来た!)


 午前中に精神集中をし終え、ついに迎えた午後。

 チャイムの音を聞き、キッ! と目を鋭くして玄関の扉がある方向を睨む俊。

 間違っても向かいの家に住む親子を、同い年の幼馴染おさななじみとも言える子どもを家で待っていた3歳児の表情ではなかった。


 その表情はまるで、これから戦場に向かおうとしている兵士!


「あら、来たみたいね。今開けまーす」


 そんなことはつゆ知らず、ほのぼのとした母の声。

 その一方で俊はというと、


(こっちの準備は万端だ。どっからでも掛かって来い!)


 オマエは何と戦おうとしているんだ。


 そしてついに玄関に入ってくる2つの影。


「いらっしゃい。待っていましたよ」

「うん、お邪魔するよ。外じゃ普通に話していたけど、俊くんが体調を崩してからお互いに家には行かなかったからね。うちの大悟も不満そうでさ」


 最初に挨拶したのは髪を短くしたサバサバした感じの、俊の母親と同じくらいの年齢に見える女性だ。俊の母親は異世界で生きてきた記憶を持つ俊からしてもキレイだと思える容姿をしている。一方でこの女性は顔の方は普通だが、いかにも強そうな雰囲気を出している。


 俊の記憶では、近接戦闘が得意な女性の雰囲気に似ていた。

エヴァーランドで本当に強い人物ともなると、大の男をバッタバッタと倒す女だっていたのだ。自分の倍近くの身長がありそうな大男を、メイスを振るって数メートルも上にふっ飛ばした小柄な女性を初めて見た時は、見た目で人を判断してはいけないということをよく理解した。


大悟だいごくんもよく来たわね。ゆっくりしていって」

「こんにちは!」


 女性に手を引かれた状態で手を上げて元気よく答えたのは、母親の話では俊と同じ今年で3歳になる坂本さかもと大悟だいごという名前の男の子だ。

 いかにも元気が有り余っていそうな感じがする。


 俊の顔を見た時、ニヤリと笑った気がしたのは気のせいだと信じたい。

 その顔を見た瞬間に自分の意思とは関係なく、体が急に逃げ出したくなる衝動に襲われたのも気のせいだと信じたい!




 その後は普通に母親たちはテーブルでここ最近のこと、俊が救急車で運ばれた日のことなどを話し始めた。母親たちが話している間、俊は適当に子供用の絵本を読むふりをしながら2人の話を盗み聞きし、大悟は俊のおもちゃ箱の中からおもちゃを取り出していじっている。


 俊が盗み聞きした母親たちの会話から分かったことは、どうも坂本家は夫婦そろって武術家らしい。妻であるこの女性が女子空手の元日本代表、夫の方が男子柔道の現役日本代表とのことだ。


 この世界とエヴァーランドの違いの1つでもあることに、武術やスポーツと呼ばれるものが非常に人気だということがある。魔獣と近接戦で戦うための技術を教えていた向こうとは全く違う、脅威となる存在が無く生活に余裕があるからこそ、見るにしても実際にやるにしても楽しめるものなのだろう。


 俊はこの世界に転生したから分かったことだが、あちらでは魔獣への対処が中心であり、それ以外のことに手を伸ばす余裕がほとんどなかった。娯楽などが特にそうだろう。だからこそ娯楽関係の多さにいつも驚かされる。


 テレビで1度だけ空手や柔道を含む武術や野球やサッカーなどのスポーツの特集を見たが、素直に「すごい」という感想しかなかった。

 そんなすごいと思える分野でこの国の代表の1人として、世界の強豪たちと戦ってきたのがすぐ側にいる女性なのだ。尊敬できる。


(向こうの世界じゃ対人用の技術なんてほとんど縁が無かったからな。せっかくだし機会があれば、空手にしても柔道にしても少し教えてもら――)


「シューン!! なにしてんだー!!」

「ごふっ!?」


 大悟による渾身のタックル炸裂!

 モロに腹へ攻撃を受けた俊、大ダメージ!


「ぐふ……。な、何しとんじゃ……!」

「このへん、おないどしなのオマエしかいないからさー、かあちゃんがしばらくダメってあわせてくれなくてさー、ひまだった! つきあえ!」

「いや何の話だ……って、いたたた! 腕をとるな――けほっ!?」


 絶賛混乱中の俊へ近づいた大悟は、俊の腕をとって転がす。

 あくまでも3歳児同士のじゃれ合いレベルだが、赤ん坊の頃から優秀な両親の組み手を間近で見てきた大悟の技はやけに洗練されたものがあった。


 そのままマウントポジションをとる大悟。

 下にいる俊は幼児特有の何を目的としているのか分からない攻撃で、髪はボサボサの状態になってされるがままとなっていた。


 特に意味の無い暴力が俊を襲う!


「やめろバカ! 男に上に乗られて喜ぶ趣味は無い!」


 3歳児を相手に何をトチ狂ったことを言うんだオマエは。


(かすかに思い出したぞ! コイツ、家に来るたびにオレにこんなことしてたから、そのたびにすごく疲れたんだった! そりゃ思い出したくもねえわ)


 考えている間も、大悟による理不尽な攻撃は続く。


(落ち着くんだ麻倉俊。相手はまだ、たったの3歳だぞ? オレも身体は子供だが、心は大人だ。ならば、ここは大人の対応をとるべきだろう)


 子供が子供に大人の対応とはいかに?


「ほ、ほら、そろそろやめときな。オレも少し疲れてきたからさ。あっちにあるおもちゃで遊ぼうよ。な?(ニコッ)」

「ぱんちー!」

「ぐふ。おーい、聞いているかー? あっちであそ――」

「いひひひひー」

「耳を引っ張るなよー。いい子だからおとなしく話を聞いて――」

「よーし! だい2ラウンドだー!」

「ここがテメェの最終ラウンドだぁあああああああ!!」

「うおっ!?」


 大人の対応、早くも決壊。


「すおりゃあああ!」

「わ! わああああ!?」


 あらん限りの力で大悟を上からどかす俊。その後すぐに大悟の背中側に回り込み、腕をとり関節技を決めて動けないようにする。

 先ほどまでの大人の対応はどこへ行ったのやら。


「いたたた! な、なにすんだよー!」

「これがさっきまでオレが受けていた痛みだ! 調子に乗っている子供に対し、上下関係を身体に教え込む。これぞ、大人の対応!!」


 そんな大人の対応は無い。最初と言っていることがまるで違う。

 母ーズのツッコミが期待される場面だ。


「あら? うちの大悟を抑え込むなんて。関節技も完璧に決まっているみたいだし、退院してからの俊くん、いつの間にか成長したみたいね」

「うぅ、俊。本当に元気になって良かったわ」


 どっちも平常運転だった。

 ツッコミ役、急募!


「うー、はなせー」

「ははは、動けまい! この状態で抜け出せるものなら抜け出してみるがいいさ! オマエにできるのならばな? ハーハッハッハッハ!!」


 大人の対応はいつの間にか、大人気おとなげない対応へと退化していた。




 その後も今回のリベンジに燃える大悟を会うたびに軽くあしらい、それは大悟が落ち着くまでずっと続いた。いつしか大悟も無駄だと分かったのか無謀な突撃をやめるようになる。それからは俊も幼馴染として普通に仲良くしていき、自然と2人は友人と呼べる関係になっていた。


 ……あの時の出来事は俊の中で黒歴史となったが。


 ついに登場した幼馴染。残念、男でした!

 前世の記憶が戻る前の俊は大悟にやられ放題。

 その分も含めて今回でお返し。やられたら倍返しでやり返します。

 俊は子供相手に何やってんだとorzに。


 次回、『幼稚園と2人目の友人』


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