第50話 修行♪……ばっかできるか!!
俊たちが小学2年生としての終了式を迎えてから数日。
春の季節でありながら、まだまだ寒さを感じる3月の中頃。小学3年生間近となった俊たち5人は火之浦神社に集まっていた。
「なあ? 何でこの物語の主役は、こんなにめんどくせえ性格なんだよ? この時の主役の心情は? とか分かるかっての」
「そういう性格として作者が書いたからだよ。こっちの文章見ればヒントが出てるぞ? 大悟は読解力がちょい低いな……」
「う~! 計算してるのに答えが合わない~~~!」
「……菜々美、0になにを掛けても0だってば。引っ掛けに弱すぎだろ」
「仕方ないんじゃない? 国語と算数は今までに比べるとグッと難しくなるわね。3年から追加される理科と社会はまだ優しいんだけど……」
「その2教科も、学年が上がるごとに難しくなるみたいだからなあ。……ふっふっふっ、オマエらに比べれば、むしろオレは楽しむ余裕さえある。見よ! このキレイに書かれた漢字を! 200近い新しい漢字であろうと、オレの敵では無いわ!!」
「……俊、その漢字とこの漢字、間違ってる」
「マジで!?」
5人が火之浦神社に集まっている理由、それは勉強合宿である。
これは修行から魔術具の作成まで忙しい毎日を送っていたことによる弊害だったのだが、クラスで行われた小テストの結果が前回より下がっていた。
俊以外の4人も僅かではあるが点数が下がってきており、話を聞くと家での勉強時間(個人差はあるが約1時間程度)を最近しておらず、修行の疲れで寝るか机に向かう気力がない、もしくは魔術関係のことで頭を悩ませているという。
さすがにこれはマズいと思った俊。
4年生までなら勉強も何とかなるだろうと考えていたが、やはり前世持ちの自分の基準では年齢通りの小学生である4人の勉強度合いを測るのは難しかったらしいと改めて思い知ることとなった。
そこで俊は春・夏・冬の長期休みを使って勉強会を開き、これからやる予定の勉強の予習を一気にやってしまおうと計画した。
まず各家庭に勉強会で予習をしたい旨を伝える。自分の子供たちが自分たちから勉強会をしたいと言ってきたことで最初は驚いていた家族も、まだ小さいのにいい傾向だとして全員許可を出した。後は勉強場所をどこにするかと悩んでいたが、意外にも椿の両親が「うちで勉強会するのはどう?」と提案してきたのだ。
火之浦神社は割と広く、敷地内にいくつもの建物がある。その中でも普段は使われることが無く、お偉い方が来た際などに使う所をどうか、と言われた。
要は応接間に近いのだが、滅多に使うことは無いので(掃除は毎日のようにしている)邪魔になることもなく、広々としていながらも神社特有の空気が流れているため自然と集中できる。
テーブルなどを片付ければ寝泊まりする準備もすぐに整う。神社の中という一種神聖な場所に預けるので、親としても安心だ。
そういうわけで、俊たちは夏休みと冬休みのも含めれば3回目となる勉強合宿となっていた。ちなみに2泊3日の予定だ。
食費などは各家庭から火之浦家が責任を持って預かっている。
「だ、大体! 日本は何でこんなアホみたいに字が多いんだよ! 英語なんかたった24文字だぞ! エヴァーランドだって30文字だ! なのに簡単な『一』っていう字はともかく『龍』とか画数多すぎだって!? 音読みとか訓読みとか当て字とか、オレが記憶戻った初期にどんだけ混乱したか!!」
俊、まさかの逆切れであった。
一応俊を弁護するなら、母国語が完璧な状態で突然日本語を覚えることになってしまった海外の人たちの反応に似ている。
世界中には様々な言語・文字がある。
世界でも通用する言語として有名なのは英語だが、それだって全ての国で通用するわけではない。そして日本語はかなり特殊だ。
ひらがな・カタカナ・漢字と文字の種類自体が3種類もあり、先程俊が言ったように漢字の種類がアホとしか言いようがないほど多く、その漢字の読みが音読みと訓読みの2種類に分かれ、最近ではキラキラネーム問題にもなっている当て字なども増えてきた。
俊が前世の記憶を取り戻してから1番頭を悩ませた日本語。
ここ数年の内に俊が起こした知恵熱、その8割の原因でもある。
「俊、おもしろい反応」
「おい。誰がおもしろいって? ミックスピザの音子」
「……おのれ俊。2年経った今でも……」
ゴミの化け物が突如現れた際に混乱した状態で、携帯の向こうにいる俊へなぜかミックスピザを注文した音子はたまにいじられる。
しかも今晩のおかずは……みんな大好きミックスピザ。
神社なのに、ミックスピザを配達させたのだ!
配達のお兄さんの何とも言えない顔が浮かぶ!
なお、リクエストしたのは俊だ。
そして、音子はミックスピザを1番多く食べてた。
「はいはい。そこまでにしときなさい。一応ここアタシの住んでいるとこなんだから。神社なんだから。静かにするする」
パンパンと手を叩いて無理矢理会話を終わらせる椿。
「今日は勉強会だけじゃなく、残りの約1年間でやることなんかの報告もあるんでしょ? 『人払いの結界』は張ったから、お母さんが来る心配も無いわ」
さらっと言ったが、修行の成果として椿は『結界魔術』を使えるようになっていた。俊以外4人の中では1番素質が高かったため、覚えてもらったのだ。
今のところ『人払いの結界』と『遮音結界』の2種類しか使えないが、残りの期間で俊も使えない『結界魔術』を習得してもらう予定だ。
「あーそうだな。まずオレらの修行は大方予定通りだ。今もギリギリの状態だけど、今日までに魔術の基礎となる部分は叩き込んだし、何とかなるだろ」
「スパルタでな」
「スパルタ~」
「やかましいわ」
だってそうしなきゃ間に合わないもん!
大悟と菜々美からの冷たい視線など無視無視!
「ネックだった魔術薬の材料となる植物も何とか形になりそうだ。失敗らしい失敗が無かったのは運が良かったな」
え? 毒リンゴできた件? さあ? なんのことやら。
「魔術具も最終調整が必要なの以外は、今年の夏頃に完成する。以前オマエらに聞いて作ることになった武器の試作品があるから、近いうちにそれ使った修行も追加するぞ。……先に言っとくけど、武器の取り扱いに関しては厳しいからな」
「今も厳しい」
「アンタ、スパルタと厳しいの意味、もう1度調べ直したら?」
「やかましいわ」
音子と椿は才能があるので他2人ほどではないが、十分修行が厳しいのは理解しているので、半眼で俊を見ている。
ここぞとばかり、大悟と菜々美も加わる。
ジト~~~(×4)
「………………後は家族を誤魔化すための認識阻害系の魔術具や広範囲に設置する魔術具が残っているが、間に合わせて見せるさ」
俊の必殺技! THE☆オール無視!!
子供たちのジト目は、意外に心へのダメージが大きいのだ!
「あ、そうだ。……音子、ちょいちょい」
「?」
俊は急に何かを思い出したかのようなそぶりを見せ、少し考えてから音子を手招きで呼んだ。他の3人は音子だけ呼ばれたのを不思議がっている。
その後、俊は音子にだけ聞こえるように耳打ち。
「(どうした?)」
「(実はさ、この前重要なことに気付いてさ。オレは忙しくて手が回らないし、4人の中じゃ音子が適任かなーって。相談あるけどいい?)」
「(……内容次第)」
それから俊に聞かされたことは、なるほど確かに重要なことだ。重要だからこそ、時間が掛かり、誰かに頼まなくてはならないことも。
「……了解した。まかせて」
音子「……ミックスピザおいしい」
俊「(モリモリ食っとる)」
次回、ついに・・・




