第46話 大準備のために
本当なら昨日投稿の予定だったのですが、大事な書類を貰いに市役所へ行った帰り突然の雨。ちょっと前にお金を使ったのでコンビニの傘を買う気にもなれず、ずぶぬれ状態で帰宅。精神的に疲れすぎて小説を仕上げる気になれませんでした。
大悟の両親との話し合いは比較的短い時間で終了した。
とりあえずは、それぞれの都合がつく時に対人戦を意識した身体の動かし方や考え方、空手の防御の仕方、柔道――柔術の護身術を教えてもらうことに。
空手は攻撃のイメージが強いが、実は防御に重きを置いた面もある。
柔道はあくまでもスポーツ。なので、実戦でもできる柔術を叩き込む。
菜々美・音子・椿の3人に対しては千秋と大志の2人とも優しく指導するような雰囲気であったのが……大悟と俊は違う。
大悟の場合、武術家の息子だろ? なら今まで以上にしごいてやるから、絶対に友達のこと守れよ? と、そんな脅しで震え上がらせる。
俊たちが帰った後も大悟の訓練は続くのだろう。
大悟は珍しく涙目になっていた。
俊の場合、自分から厳しく指導してほしいと願い出た形だ。
実年齢は見た目通りだが、前世の分も合わせればそれなりの年齢になる。
なので、俊は半分保護者枠のようなものだ。
何かあれば自分が4人を絶対に護ると心に決めている。
そのためには4人よりもずっと強くなくてはいけない。
前世の俊の戦いは近接戦がメインだ。
つまり『強化魔術』を使いこなせなければ意味がない。
大悟は『強化魔術』の一点特化だが、俊はそれ以外の要素を足すことで本来の戦闘力に近づくことができるのである。
だったら、せめて『強化魔術』は並み以上に使えるようにする!
1年半後までに身体にガタが来ないほど基礎体力を鍛える!
それが俊の最初の目標だった。
「それで? アタシたちはどこに向かってんのよ?」
大悟の両親との話し合いが終わった後、2つ目の目的地にそのまま行くと言い出した俊に4人は付いていっている。
今いるのは、俊や大悟の家があるような住宅が多い場所から少々外れてきた所である。
周りを見ても、古びた家しかない。
「そんな気にしなくてもいいよ。徒歩数分だから」
「じゃあ、もうすぐ~?」
「ああ。ていうか、もう見えてきたぞ」
そう言って俊が指をさした先にあったのは――
「……寺田……鉄製品製作所?」
「あー、そういや近所の人に聞いたことあるな。家から少し離れた所に小さい金属加工の町工場があるって話。オレらが生まれる2、3年前に新しくできて、作業する時の音がうるさくないよう、まだ家がそんな建ってなくて土地が余ってたのに、わざわざ不便な場所に造ったみたいな」
建物の大きさは一般的な家より少し大きいぐらいだろうか。
周りに家がない中でポツンとあるので、余計に目立つ。
現代風のキレイな工場というよりも、一昔前のドラマや映画に出てきそうな味のある――言い換えれば古い見た目の工場だ。
敷地面積は以外にもあるらしく、俊たちのいる所からは建物の裏側に積み上げられた何らかの金属と申し訳程度に生えた木が見える。
耳を澄ませば、工場内から『カン! カン!』という音や『ガコン! ガコン!』という音が聞こえるので、まだ人がいるのだろう。
「その通りだ。現在の従業員はたったの3人。だがしかし、確かな腕と技術を持っていて、大量生産はしないけど職人技が必要な金属関係の品を日夜作り続けている。大儲けしてるわけじゃないけど、オレらが生まれた頃にはいくつかの大手企業とも契約して、軌道に乗っている中小企業ってやつだ」
何故か普通は知らないような情報まで知っている俊。
「……やけに詳しい」
「そりゃな。2年ぐらい前……ようは小学校に上がって1人で行動できる時間ができた時、偶然ここのまとめ役の人と知り合ってな。エヴァーランドには無かった現代の金属加工の技術ってものを見たくて、半分無理は承知でお願いしたら見せてくれたんだ。それから邪魔にならない範囲でたまに来ている」
小学1年生になったことで、必ず携帯を持つことを条件に自由に外へと繰り出せるようになった。ならば! 冒険したいのが男だ!
無論、事前にどこら辺を回るかを母親に言ってから向かう。
そして最初の頃に寺田鉄製品製作所を発見。
ついでに外でタバコを吸っていたまとめ役の寺田さん(40歳・独身)を見つけ、ダメ元で金属加工の見学をお願いし、受け入れられた。
実は最初こそ「オマエみたいな小さな子供を入れられるわけないだろ」と断られていたのだが……巧みな話術で俊が勝利を収めた。
寺田さんが見学を受け入れた後に、自分でも何で受け入れてしまったのかと頭の上に?マークを浮かべることになったのは秘密である。
「俊がここのまとめ役の人と知り合いなのは分かったけど、それとヒーロー活動のための準備とどう関係あるのよ?」
「俊くん教えて~」
「すぐに教えるっての。まあ、なんだ……結論から先に言うとな、ここで働いている寺田さんを含む3人にオレのこと、魔術のこと、全部話すつもりだ」
「「「「………………はあ!?」」」」
俊、まさかのカミングアウト宣言。
バレたらマズいと、口をすっぱくしながら言い、耳にタコができるのではないかと思うほど聞かされた魔術の秘密に関しての件。
実の家族にも話したらダメだと言っていたのに、それほど親しいわけでもない相手――ましてや他の4人がまだあったこともない人に自分たちの秘密を話すと、俊改めこのボケは言っているのだ! どういうことだ! という話である。
4人のキツイ目が向けられる中、俊は冷静に訳を話す。
「言いたいことは分かるから落ち着け。これはどうしても必要なことなんだ。……大悟、オレたちに足りないモノが何か分かるか? 実力や経験以外で」
「? いや、他に何かあったか?」
「魔術具だよ魔術具。この世界じゃ手に入らないから自分で作るしかない。だが作るためには設備も、場所も、材料も、時間も必要になる」
エヴァーランドで戦いに身を置く者は、魔術具を持つのが常識だ。
効果の低いモノから高いモノまで様々な種類があるが、魔術師であれば効果の高いモノを邪魔にならない範囲で身に付け、例え魔術の使えない騎士であっても、国に仕える身であれば量産品の魔術具は与えられる。
そして魔術師の中でも戦闘より研究が好きな者なら、自分で自分が使う魔術具を作る。前世の俊はいくつもの魔術具を自作したそっち側の魔術師だ。
「魔術具……!!」
「ちょっと待って! 魔術具って地球でも作れるの!?」
音子の瞳はキラキラな星のエフェクトが見えるほど輝く!
椿は混乱した様子だが、瞳の輝きは誤魔化せていない!
先日の会話の中でも俊は魔術具についてほんの少し触れていたのだが、それ以外の内容が濃いせいで印象に残らなかったようだ。
「特殊な材料を必要とするものは無理だが、それ以外ならいける。前にも言ったが、ゼロから作る……つまり、材料の時点で魔術的な加工が必要になるから時間が掛かるんだ。一番重要なのが、それを行う場所だ。材料の中には長時間放置しなきゃいけないのもあるから、どうしてもぱぱっといかない。でも、オレらだけじゃ場所は用意できない」
「いつもの修行場所じゃ無理なのか?」
「できなくはないが……条件がな。材料を加工する時、周りに自然物があると影響を受けてしまう類もあるし、管理が難しい。本気で魔術具を作ろうとしたら、室内の方が望ましいんだ」
さらに付け加えるなら、俊の家から近いので何かと都合がいいのだ。
1年半の時間で俊の頭の中にあるモノ+αを作ろうとしたら時間的にギリギリとなる。ただでさえ数年のブランクもあるのだ。それこそ「休みの日? 何それおいしいの?」といった具合に予定を詰めなければならない。
溺愛している双子との時間でさえ削らなければいけないのだ。
だったら、移動に掛かる時間分ぐらい、双子と過ごす時間を増やしたい。
それぐらいの我が儘は許してほしい。
俊は双子のことを大事にしてますが、両親も大事です。心の中では言っていませんが、家族の時間もある程度はほしいというのが本音。
その家族が『アンノウン』の脅威に晒されても護れるようにしたいので、がんばることができます。
そうでなければ、ここまで無理できません。
次回、俊のカミングアウトの行方は・・・?




