第40話 それぞれが思いをめぐらせる
ここ最近寝不足。というか寝られない。
花粉症の危機も去ってないのに・・・
Side:坂本大悟
「目的と覚悟ねー……」
ベッドに転がりながら自分でも足りねえと思う頭で考えてるけど、全然ピンとくることがねえ。
「ヒーロー活動やめるって言えば早いんだろうけど……」
違うよなー。それはない。
けど、どうすりゃ――
――ドバンッ!! ――ミシッ
「大悟おおおおお!! いつまでウジウジしてるうううううううう!」
「ふぎゃあ!?」
何だと思って飛び起きたら、ヒビが入った状態のドアとギラギラした目の母さんが……って、オレの部屋のドアーーー!?
「母さん!? オレの部屋のドアにヒビが――」
「そんなこと、どうでもいいわ!」
「いや、オレのドア――」
「ったく、昨日帰って来てから辛気臭い顔して、アンタらしくないよ! 何があったのか母さんに話さないんだったら、24時間以内に解決しな! 今24時間と10分経った。今からウジウジした態度や顔するたびに肉体言語で解決するよ?」
「細か!? 10分単位で数えてたのかよ!? キャラに合わな――」
「この前テレビで見たプロレス技ーーー!」
「ぐぎゃ! って、いたたたたたた!?」
ウソだろ!? 一体いつ組み伏せられたんだ!?
全然見えなかったぞ!?
てか、『強化魔術』の影響で物理攻撃強くなってからそっちは平気だけど、関節技は地味に効くんだよ! 本来よりはマシになってるだろうけど。
「悩むぐらいなら相談しろバカ息子! 相談できないなら、深く追求しないでやるから関係ありそうなことから遠回しに聞かんか!」
「いつつつ、遠回しに聞くったって……」
急に言われたって困るっつの!?
えーと、えーと……あ、そうだ!
「なあ、母さんって空手家だよな?」
「うん? 何当たり前のこと聞いてんだ?」
「前に聞いたけどよ、母さんが空手始めたのって確か10歳ぐらいの時とか言ってただろ? 何が切っ掛けだったんだ?」
「……ああ、そのことか」
あー痛かった。落ち着いたのか、やっと離してくれたぜ。
「大した理由じゃないんだけどね……。まあ結論から言えば、少しでも心も体も強くなろうって思ったからだねえ」
「……何で?」
「いや、これでも母さんってば今の大悟くらいの頃はわりと普通の女の子だったんだぞ? 言葉使いだって普通だし……とにかく普通だった」
何で“普通”をそんな強調すんだよ?
逆に怪しく思えてくんぞ。
「でだ、9つの中頃だったかなー、親戚の集まりに行った時にちょっとした冒険心からその辺を見て回ってたんだ。危険な場所ではなかったけど、あまり親戚が集まっている家から離れないようにしていた。だっていうのに、その地域でも狂暴と噂だった飼い犬が千切れた鎖引きずりながら現れたんだ。今でも思い出すよ、あの『ガルルル』って声……」
そう言ってた母さんの手は少しだけ震えてるように見えた。
ちょっぴりトラウマになってんのか?
「そんな犬がいきなり現れたもんだから、腰抜かしちゃって……。立って逃げることもできない私に犬が飛び掛かって来た時はもうダメだと思ったね。目を瞑って次の瞬間に来るだろう痛みに怯えてたら何ともなくて、目を開けたら父さん――つまり大悟の爺ちゃんが庇ってくれてたんだ」
「は? 爺ちゃんが?」
母さんの方の爺ちゃんはもちろん知っている。
優しいけど全然筋肉なさそうで、ヒョロっとした人だ。
「犬に噛まれて腕から血がダラダラ出てんのに、騒ぎが終わった後すぐに私にケガが無いか心配してきて。いや、見直したねえ」
……オレの知る限り、爺ちゃんの腕触ったら普通に骨の感触が伝わってきたんだけど……噛まれた時、骨まで届いてたんじゃ?
昔はもう少し肉があったのか?
「父さんは気にしなくていいって言ったけど、その時のこと私はずっと後悔して。それからしばらくしてある日、家のポストに入っていた空手教室の広告を見て『これだ!』ってなったわけ」
あー、そこで話が繋がんのか……
「まあ結局はさ、犬に襲われた時に動くこともできなかった情けない私のままでいたくなかったんだ。今度は自分の身は自分で守れるようになりたい。父さんに危機が訪れれば側にいて助けたい。そう強く思ったんだ。どう? 少しは参考になった?」
「……自分の身を守れるように……側で助けられるように……」
ああ、そうだ。思い出した。
何でこんな大事なこと忘れてたんだよオレ。
「ありがと母さん。まだ全部じゃねえけど、ようやくスッキリした」
「それでこそ私の息子だ」
後はこの気持ちをうまく言葉にするだけだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
Side:小池菜々美
う~う~う~!
「ど~う~し~よ~」
俊くんに叱られて、トボトボ帰って来たのが昨日~。
すごく暗い気持ち~。部屋にあるお気に入りの“てでぃーべあ”のメープルをだっこしてても落ち着かない~。
……そういえば~今日はお母さん、お友達との集まりがあるとかでいなかったな~。お父さんはお店で忙しいし~。
……今なら大丈夫だよね~?
「『召喚』! ポチ~! タマ~!」
「わうーん!(呼ばれて飛び出て――)」
「にゃおーん!(――じゃじゃじゃーん)」
『召喚』も今じゃ簡単にできるようになった~。
私も成長したよね~。
「わん?(で、どうしたのご主人様?)」
「にゃー……(ま、大体察していますけどね……)」
あ、そっか。
普段出してなくても状況とか分かるんだっけ~……。
「ポチ~タマ~、私、どうしたらいいと思う?」
「わふ?(目的と覚悟、だっけ?)」
「なーお(主人には難しい話題ですよねー)」
1人じゃどうにもならないから呼んだんだよ~。
「わん?(で、ご主人様はどうしたいのさ?)」
「……みんなと一緒にいられれば、それ以外、望まないよ」
俊くん、大悟くん、音子ちゃん、椿ちゃん。
4人とも大切な友達。だから、もうあんな嫌な空気になりたくない。一緒に笑って、泣いて、怒って……そんな日々を壊したくない。
「だから、ヒーロー活動とかもう言うのは――」
「にゃあ?(本当にそれでいいんですか?)」
「え?」
いいのかって~?
「にゃーん(俊さんも納得のいく答えを出してほしいって言ってましたよ? 主人は心から納得していないように思えます)」
だけど、私は……
「わうん?(ねーねー、だったらご主人様は何で魔術師になったの? どうして一生懸命にポチとタマを創ったの?)」
「何でって……それは……」
思い出してきたのは、初めてカッパさんと友達になった日のこと。最初は怖かったけど、お友達になれて、うれしくて、他の――
「あ」
……あ~そっか~。
だから私、魔術師になろうと思ったんだ~。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
Side:藤野崎音子
大失敗です。やらかしました。
何ということでしょ~、では済みません。
何とかせねば……!
「なーんちゃって」
冗談はここまでにしましょう。
私の目的と覚悟はすでに決まりました。
半日考えれば難しくありません。
残りの約2日でしなければならないのは、いかに俊にこの気持ちを伝えるかです。せっかく目的と覚悟をマジメに考えたというのに、いつもの調子では締まりません。順番からいって、おそらく私は3番目に話すこととなるでしょう。
私の番になった途端、それまでの大悟と菜々美が作った空気をリセットするわけにはいきませんし、私の後に喋るだろう椿への負担が大きすぎます。
なので練習です。
発声練習なのです。
俊たちがビックリするぐらいスムーズに言うのです。
唸れ、私の口回りの筋肉&舌!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
Side:火之浦椿
「目的……それに、覚悟か~」
アタシは魔術が大好きだ。
1番素質があったのは火に関する魔術だったけど、他の素質も高いのがあるらしいから、今後はその系統の魔術も使えるようになりたい。
1度は捨てた憧れ。それが現実になったんですもの。アタシがどこまでいけるのかやれるだけやってみたい。
「でも、このままじゃ……」
俊にも目的があるっていう話だった。
アタシたちがその場のノリで言ったヒーロー活動が1番の近道だって。
何となくだけど、俊の目的ってたぶんゴミの化け物とも関係あると思う。
大悟と菜々美が遭遇したっていう、河童とも。
きっと、アタシたちが知らないだけで俊が知っていることが表に出ない状態で動いてるんだと思う。それしか思い当たらないし。
アタシは魔術が大好きだ。小さな頃に憧れた魔法、それがあった。どこまで自分が行けるのかを試したい。
でも、ヒーロー活動するには目的と覚悟が無ければダメだって。最悪の場合、もう魔術の修行を見てもらえなくなる。元の関係に戻れなくなるかもしれない。そんなの絶対にや!!
「他の3人はどうしてるのかしら?」
ヒーロー活動するの諦めた? それとも……
「椿、そんなところで何たそがれているの?」
「うひゃあ!?」
音も無く忍び寄ってきたの誰!? ってお母さん?
「お母さん、忍者にでも転職したの?」
「バカなこと言うんじゃないの。椿が気付かなかっただけよ」
あー、考え事していたからかしら?
「ここから見える夕日は今日もキレイねー」
「うん。アタシもそう思う」
鳥居から見える朝日も好きだけど、落ちていくオレンジ色の太陽も、それはそれで好きなのよね。
「……昨日から元気ないけど、悩みごと?」
「うん」
「お母さんには話せないこと?」
「……うん」
魔術のことは例え家族でも話したらいけない。
俊との約束だから。
「……お母さんね、前にも言ったけど本当にあの4人には感謝してるのよ。以前家に来てくれた時にもっと言えればよかったんだけど」
「十分言ってたじゃない。アタシが恥ずかしくなるぐらい」
もう、思い出しただけで顔が熱くなってきた。
「全然言い足りないわ。……椿が幼稚園に通ってたからしばらくして、ずっと泣き続けた時は、抱きしめてあげることしかできなかったわ」
「お母さん……?」
「その後もずっと暗い顔のままで……あんなに好きだった魔法少女のステッキもぞんざいに投げつけて……私は母親なのに、あなたに何もしてあげることができなかった。もっと何かしてあげられたんじゃないかって、今でも考えちゃう」
「そんなことない! ……そんな、こと……」
だって、アレはアタシが悪くて……
「小学校に上がってからも不安定で、何かあったらすぐ崩れそうなドミノを見ているみたいで気が気じゃなかったのよ?」
「うっ! 心当たりが……」
「でも……椿に笑顔が戻った」
「え?」
「母親としてこれほどうれしいことはないわ。ちょうどいい機会だし、これは返すわね。もう無くしちゃダメよ?」
そう言ってお母さんが出したのは布に巻かれた――って、
「これ!?」
「そう。魔法少女のステッキ。椿の宝物」
無くしたと思っていたのに。
「これを見るたびに椿がつらい表情をするから、私が密かに倉にしまったの。でも、もう大丈夫だと思うから、返すわ」
「お母さん……」
「椿。あなたが今何を悩んでいるのかは分からない。あなたは昔から素直になりにくい子だから、そこが心配。だから、もっと自分に素直になりましょう?」
待って、お母さんの言い方だと……
「あ、本当に何も知らないわよ? でも母親を舐めちゃダメ。顔を見れば何となくこうした方がいいんじゃないかしら~って分かるから」
「それ、もうエスパーじゃない……」
でもそっか。もっと単純に。でも素直に。
アタシがしたいこと……その覚悟……
「うん。答え見つかりそう」
「そう。良かったわ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
Side:麻倉俊
「そろそろ切っ掛けぐらいはつかめたかな?」
夜の星空を見ながら明後日のことを考える。
あっちでもこっちでも、星空は変わらないな。
自分がいかにちっぽけか分かる。
「実質考える時間は明日まで。土日で答えが見つかるかはアイツら次第。……信じて待つしかないよな」
そろそろ寝るか。
おやすみ。
次回、『決意の日』




