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逆転生した魔術師にリアルは屈しました 【凍結】  作者: 影薄燕
第3章 結成! マギア・クインテット!
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第38話 覚悟と目的


 『空気が重くなる』という言葉がある。

 本当に空気が物理的な重さを持つわけではないのだが、体感としてそう感じてしまうのだ。


 今、俊以外の4人が感じているものがそれだった。


「「「「…………」」」」


 何も言葉を発することができない。

 ほんの少し動くことすら難しい。


 俊は河童と戦った時も、ゴミの化け物と戦った時も、普段の生活では見せないほど本気で真剣な目をしていた。

 それこそ、見慣れてない者なら息を飲むような光を宿して。


 だが、違う。

 今の俊の目は見たこともないほど鋭く冷ややかで、1番付き合いの長い大悟でも知らないようなハッキリとした苛立ちの色も見えた。


 そんな俊に先程までの話を拒否され、固まってしまった4人。


「そもそも、オレがオマエらに魔術を使えるようにして扱い方なんかを教えたのは、純粋に“魔術”っていうものに憧れていたからだ」


 それは、俊が今でも思い出す光景。


 河童との戦いで初めて魔術を使った姿を見て、自分も使いたいと言った大悟と菜々美のどこまでも純粋な瞳。


 偶然とはいえ、魔術を使っている俊たちの姿を見て、星のエフェクトが見えるほどキラキラした目で教えてと言ってきた音子。


 ゴミの化け物との激闘の翌日、自分が信じたものが本当にあったことを心の底から歓喜し、涙を流しながらも笑顔を浮かべた椿。


 適性があるか無いかに関わらず「この子なら魔術を教えてもいいな」と、そう思えたから教えたのだ。誰でもよかったわけじゃない。


「魔術の修行にずっとマジメに付き合ったのも、教えた魔術で間違った使い方をさせないためだ」


 料理に使う包丁と同じだ。

 どんなものでも間違った使い方をすれば、それはいとも簡単に人を傷つけ、場合によっては殺してしまう凶器となる。


 銃だって警察が使うから意味があるのだ。

 子供でも簡単に人を殺してしまう道具だというのに、犯罪者が自分の欲望のために使うから毎日涙を流す人が増えていく。


 ましてや大悟・菜々美・音子・椿の4人はまだ小学生だ。

 いくら信用しているからと言って、ほったらかしていいわけがない。目を光らせて監督する者が必要なのである。


「そして何よりも、また狂暴になった河童やゴミの化け物みたいな相手と遭遇することがあっても、自分の身を護れるようにさせたかったからだ」


 俊がまだ明かしていない、戦うべき相手。

河童との戦いでは“まさか?”と思っただけだった。しかし、ゴミの化け物との戦いで確信へと変わった“それ”。


 大切な友人だから死んでほしくない。

 もしその友人が家族や知り合いを“敵”から護りたいと願うなら、死なない程度にむちゃするぐらいは許容範囲だとしていた。


 しかし、


「どうしようもない理由があるわけでもないのに、何でわざわざ自分から危険に関わる必要があるんだよ? オマエら、自分が魔術を使えるからって無敵の超人にでもなったつもりなのかよ? あぁん?」


 この世はご都合主義で出来ているのではない。

 どんなに力を持った者でも“絶対”なんてものは無い。

 人質を取られた瞬間に積んでしまうヒーローだっているのだ。自分の想像をはるかに超えた外道な行いをする者もいるのだ。

 そんな場面に出くわした時、フワフワした目的で行動する者が最善で最良な行動を咄嗟に取れるというのか?


「目的だってさっきから聞いてればフワフワもいいところじゃないか。ハッキリと“こうしたい”っていう目的の無い奴にヒーローごっこなんざ続けられるわけねえだろうが。第一、人を傷つけることができるのか? 誰も傷つけずにめでたしなんて夢物語でしかないぞ? 相手を傷つけていいのはな、自分が傷つく覚悟・・・・・・・・を持っている奴だけだ。オレからしたら、目的も覚悟もあやふやな奴に助けられるなんて屈辱でしかないぞ」


 ヒロイズムだけで救えるものなど、たかが知れている。

 誰かから「やれ」と命令されたのではなく、自分で決めて行動すると決めるのだからこそ、より一層覚悟と目的が重要になるのだ。


 大悟と菜々美はゴミの化け物とも戦ったが、アレは無機物だから問題なくできたことだと俊は思っている。

 これが河童のような生き物だったらできるのか? ましてや人が相手で攻撃を当てる瞬間に躊躇しない保証などあるのか?


「覚悟とか目的って言われても……」

「それがなきゃダメなのか――」

「ダメだ」


 俊は突き放すように言う。

 菜々美はまともに喋ることもできず、音子でさえ何を言っていいのか頭の中で考え続けても答えが見つからない状態だ。


 さらに俊は追い打ちをかける。


「文句があるなら魔術を教えるのは今日限りだ」

「「「「!?」」」」


 それは4人にとって耐えがたいものだった。

 椿に至っては顔が青くなってきている。


「叶えたいと、こうしたいという目的も無い。目的があっても、それを実現させるためにつらい経験をする覚悟も無い。だというのに、まだヒーローごっこがしたいだ? そんな奴にこれ以上教える魔術は存在しないよ」



 次回、『猶予』


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