第37話 ヒーローになりたいです! A.却下
その日の放課後。
俊たちの姿は屋上にあった。
「でもよー、何で不良とかチンピラ? って奴ら人に迷惑かけんだろーな。何か嫌な事でもあったのかってーの」
「イライラで、どこかにぶつけたいのかな~」
「そんな奴らの気持ちなんか分かるわけないわよ。むしろ理由があってそういう風になったって奴の方が珍しいんじゃない? 一体どんな頭の構造してんのか想像できないけど、迷惑なことに変わりないわよ」
「右に同じく」
話題は教室でも話になっていたこと。
不良を含むガラの悪い人の増加など。
つまりは治安の悪さに関してであった。
「大体よ、去年までそんな話なんか全然聞かなかったのに、何で今年になってから急に増えたんだろうな?」
「……急にって、訳じゃないと思うけどな」
「どうゆうこと?」
俊は屋上の柵に背を預けながら答える。
「元々それなりの数はいたんだろうさ。ただ、あまり目立たなかっただけ。でも数が徐々に増えてきたことで自然と人目に付く回数が多くなった」
普通に道を歩いている人たちの中にガラの悪そうな人がいても、他の人たちにまぎれ印象は薄くなり、記憶に残らなくなる。
そういった人物も四六時中騒ぎを起こすわけでもないのだから、目に着けば気になってしまうだろうが、そうでなければ記憶するだけ無駄だろう。
だが、数が増えれば違ってくる。
普通に歩いている中で何度も何度も見かければ、何もしていなくても印象に残るし、問題を起こすのではないかと不安になる。
数が増えればそれだけ行動パターンも多くなる。
自分の同類が増えたことによる安心感からくる増長。その増長からくる今まで控えていた目立つ行動。
数が増えればそれだけ馬が合わない者も現れる。
結果としてケンカ――というより乱闘が多発。当然目立つ。それを近隣住民が目撃してさらに不安に。
数が増えればそれだけ警察が動く回数も増える。
ケンカや乱闘、果ては一般市民を巻き込んだトラブル。そんなのが起これば警察だって通報から動く。警察が出動する頻度が高くなれば、不良やチンピラなどを見ていない人たちでも何か良くないことがあったのかと思う。
「そういう奴らもバカばかりじゃないから、頭のキレる奴がリーダーやら参謀みたいなことをしてまとめたりするものだけど、自分の監視できる数には限りがあるからなあ。組織と同じだよ。ボスは幹部には目を光らせることはできるけど、その目の光は末端まで届かないものさ」
大抵の場合、不良になら一番強い奴がリーダーとなって皆を率いる。チンピラやらヤのつく人なら頭がキレてカリスマのあるものが上として君臨する。
たった数人のグループと何十人、何百人ものグループとでは力関係が全く違う。統率されているなら尚更だ。
たまたまケンカしてボロボロにした奴が、実は地元1番の不良グループのメンバーでしたとか……全くもって笑えない。
翌日になって1対100のケンカになったら終わりだ。
大人の世界になればもっと怖い。
やられた側からすればメンツが丸つぶれになることもある。
そうなれば責任は“命”をもってするしかない。
運が良くて指1本だろう。
そんなグループや組織に所属していても全員が素直に指示に従うなどというのは、あくまでも理想でしかないだろう。
どんな所でも、人が増えればそれだけいろんな考え方の人間も増える。
大きなグループ・組織に入った者の中には、後ろ盾ができたことで調子に乗ったり、今まで以上に増長する者も現れる。
それが迷惑をかけるのだ。
たまに学校で出る少人数の不良ぐらいなら、騒ぎを起こしたら警察や教育委員会やらが動いて即終了となるが、人数が多くなればなるほど対処も加速度的に難しくなる。今はその人数が増えている時期だから問題なのだ。
「今まで平和だったのにどうして~って言う人もいるだろうけどさ、ほんのちょっとした切っ掛けでその平和が崩れるなんて、オレからしたら当たり前の話だよ。いつ、どこで、何が起こっても不思議じゃない。ガラの悪い人間の増加なんてカワイイものさ」
それは魔獣がいる世界で生きていた記憶を持つ俊だからこそ言える重み。
不良などの問題とは厳密には違うのだろうが、魔獣とは基本的に本能で生きているのだ。集団で行動することはあっても、「不用意に人を襲うと狩られるから考えて行動しよう」なんて思考にはならないのである。
人や動物を見つけたら、殺して餌にする。
村を見つけたら集団で襲い、殺して餌にする。
強い個体であれば、単独でも集団を襲う。
以前訪れた際に良くしてもらった村人たちが、再び訪れた時に村を守る自警団ごと全滅していた。
そんな経験をした人だってエヴァーランドにはいた。
「迷惑だとオレも思うし、目についたら自然公園の時みたいに可能な限り不自然にならない形で助けるのもありだけどさ、本格的にどうこうするのは警察の仕事だよ。心配ならそういう事態を目撃した時のマニュアルとか見たら? 見かけた自体全部に魔術で解決することなんて難しいし、親にでも頼んでインターネットで調べてもらえばマニュアルぐらいあるんじゃないか?」
オレら小学生だし、できることなんてほとんどないよ。そうあっけらかんと言う俊であったが……
「だったらよ、オレらでヒーローみたいなことできねえか?」
「あら、いいじゃない!」
「………………はぁ?」
ジト目で見る俊に気付かず、他の4人は盛り上がる。
「悪い人がいたら懲らしめるの~?」
「おう! 5人でうまく魔術も使えばいけると思わねえか?」
「でも、目立つ。魔術だって――」
「そこらへんはバレないように工夫すればいいんじゃないかしら? 顔を隠して、服もそれっぽいの用意いて。で、放課後や休みの日なんかに隠れてパトロールするのよ。そして不良とかが迷惑かけてたらさっそうと現れるの! あら? 自分で言っているうちにワクワクしてきたわね」
「世のため人のため~? 良さそう~」
「ん……正体が分からないようにするなら……」
「おお! 菜々美も音子も乗り気になってきたみたいだな! 俊もいいと思わないか? せっかく魔術もあるんだし、オレらでヒーロー活動的なことしようぜ! 悪人に有効な魔術なんてのもねえのか?」
「いい考えだと思うけど。アタシたちだけじゃ現実的じゃないし、俊も一緒に考えてくれるなら効率よくいくと思うんだけど……」
その言葉に、俊は、
「却下だ、バカやろう」
聞いたことが無いほど冷たい声で返した。
次回、『覚悟と目的』




