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逆転生した魔術師にリアルは屈しました 【凍結】  作者: 影薄燕
第3章 結成! マギア・クインテット!
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第33話 時は経ち、小学2年生

 新章突入です。


「相変わらず足が短い件」

「はあぁ?」

「……いきなりどうしたのよ」

「「?」」


 朝のホームルーム前に教室に集まった俊・大悟・菜々美・音子・椿の5人だったが、初っ端から俊の唐突過ぎる一言に頭の上に?マークを浮かべる他の4人。


「いやだってさ? 何十年も大人として生きてきたわけだけど、今だに足の長さに違和感があって……。最初の内はそれどころじゃなかったから気にならなかったんだよ。生活に慣れて来たらまた気になり始めたけど、菜々美と出会って、河童と出会って、魔術の修行して、卒園式と入学式とあって、ゴミの化け物と戦って、音子と椿と友達になって……イベントが連続していたじゃん? けど、また落ち着いて気が付いたら小学校も2年目。腕の長さはそれほど気にならないけど、足が気になって仕方ないんだ」

「転生者の悩み?」

「あ~そっか~。俊くんたまに足気にしてたもんね~」


 そう、俊たちは小学2年生になった。

 あの『ゴミの化け物事件』から約1年。ちょっとしたことは多々あったが、概ね平和に日々を過ごしていた。


 俊たちが通う小学校では2年ごとにクラスが分かれるので、今はすぐに集まることができる。来年からはさすがに別々のクラスになるだろうが。


「はあ~、早く大きくなりたい……」

「そのセリフだけなら、アタシたちと同い年ぐらいの子がたまに言っているけど、アンタが言うとすごい実感がわいてくるわね……」

「数年前まで大人」

「俊を見てると全然そうに見えねえけどな」

「牛乳のも~モーモー」


 4人は俊が転生者だということを知っている。

 なので「早く大きくなりたい」という言葉が通常よりも重く感じられた。

 ついでに大悟のセリフも同意している。

 そんなこと4人揃って言おうものなら確実に俊は落ち込んでしまうが。たとえ精神は大人でも、俊の心は繊細なのだ!


「ところで、具体的にどんくらい成長してえんだよ?」

「う~ん、戦闘に支障が出ないレベルだと最低でも10歳。前世の強さに戻るためには14歳ぐらいの年齢でないとキツイな」

「何が基準?」

「身体の出来上がり具合と歩幅。後は戦闘の際のズレの問題」

「どういうこと~?」

「オレは大悟ほど『強化魔術』の才能は無いから、自分の身体に合わせて魔術を発動させないとすぐにガタが来る。無理に身体能力を上げると身体が悲鳴を上げるんだ。そして足が短いと一歩の移動距離も短くなる。これは油断を許さない戦闘の際には致命的だ。1番の問題が前世で何十年も大人の身体で戦っていたせいで、子供の身体だと感覚がおかしくなるんだ」


 例えば先ほどから言っている足。

 子供と大人とでは同じ100メートルを走るにしても、歩幅が違う分移動距離に差ができ、移動距離に差ができる分歩数にも差が出る。

 これは単純に大人と子供の差であり気にする必要はない。本来なら。


 しかし、普通に成長している4人にはいまいち理解できないが、俊にとっては大問題だ。今の人生より、前世の人生の方が長いのだから。


 俊は戦闘の際に前世の経験を元に敵の行動を予測したり、自分がすべきことを考える。つまり麻倉俊としてではなくアレンとして行動するのだ。

 創作物でいえば、通常モードから戦闘モードへの移行。

 ここで問題になるのが俊の言ったズレである。


 俊はアレンとしての人生で長く戦ってきた。長く戦いすぎた。

 河童との戦いでもゴミの化け物との戦いにおいても嫌でも感じたことだが、敵に向かう時や攻撃を避ける時に、自分の感覚ではすでに敵の懐に入ったつもりで半分しか距離を詰めていなかった。攻撃を完全に避けたつもりでもギリギリの回避になってしまう。

 つまり、記憶と経験からなる戦闘感に身体が付いてこれないのだ。

 ……物理的な問題で。


 そのせいでタイムラグが出来てしまう。

 短い時間とはいえ、いちいち頭の中で「この距離だとまだ届かない」「普通に躱せそうだけど念のために大きく避けよう」と考えなければならない。

 これは足だけでなく、手の長さや目線の高さにも影響している。


「今までの戦いで無事だったのは、敵がそれほど強くないうえに激しく動くタイプじゃなかったからだ。これからのことを考えると、せめて後2年は何事も無く平穏が続いてほしい。そうでなきゃちょっとした戦いのたびにヒヤヒヤする」

「なるほどな。それなら納得だ」

「ね~俊くん~、今更なんだけど~……」


 大悟が納得した所で、菜々美は疑問をぶつける。



「今の話って、これからも戦うこと前提だよね~?」



 全くもってその通りだった。

 大悟、菜々美のもっともな意見に顔を背ける。

 ――何がなるほどだよ。恥ず!


「確かに。俊の世界にいた魔獣ってのもいないんだし、そこまでマジメに考える必要ないんじゃないかしら? その2つの事件が異常だっただけでしょ?」

「…………」


 椿は楽観的だったが、音子は真剣に何かを考えていた。


「音子? どうしたのよ?」

「……俊」

「……何だ?」


 俊が見た音子の目は真剣そのものだった。


「河童は狂暴化。何が原因だった?」

「……」

「ゴミの化け物には核があった。その核って何?」

「それは……」

「俊、何隠してる? 今後、何と・・戦うつもり?」


 音子には半ば確信があった。

 元々、観察が趣味なのだ。特に俊たちは初めてできた友達。今ではほんの些細な変化でも分かる。本来は体調を把握したい程度だったが。


 実を言えば、とっくに不思議に思っていたことだった。

 ただ、俊が言いたくなさそうだったので音子の方からも踏み込んだ質問をしなかっただけである。しかし、あれからもう1年だ――


「友達の悩み、聞きたい」


 自分にできることかは分からない。

 それでも、相談ぐらいはしてほしかった。


「………………今は・・言えない」

「そう。じゃ、その時まで待つ」


 短いやりとりだったが、音子には十分だ。

 「今は・・言えない」と俊は言った。なら、いつか・・・は話してくれるということだ。


 大悟と菜々美はいまいち分かっておらず、椿は音子程ではないが今聞くべきことでないと雰囲気で分かったので何も言わないことにした。


 その後は教室に入ってくるクラスメイトの数も増えてきたことで内緒話も終わり、その場は解散して俊たちは自分の席に着くことにした。




 4人が離れた後、俊は聞き取れないぐらいの声で、


「……オレが戦うって言ったら、オマエら黙っていないだろが」


 そんなことを呟いた。



 

 平和な日本から異世界に転生した人と、俊のように何十年も戦ってきた人間が日本に転生するのとではいろいろな違いがあります。

 経験が豊富だからこそ、困ってしまうことも。

 音子も俊も、どちらも信頼できる友達だからこその心配があります。自分たちのことを信じてほしいという気持ちも、本当のことを言えば意地でも俊に協力するのが分かってしまうからこそ中々言えないでいる気持ちも、どちらも正しいことです。


 次回、『音子と椿の魔術……そして謎』


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