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逆転生した魔術師にリアルは屈しました 【凍結】  作者: 影薄燕
第2章 あなたは魔法を信じますか?
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閑話 鈴木あやか 視点:研修中婦警は忙しい

 今回、若干下ネタがあります。


「それでは鈴木さん、今日の実習の内容は覚えていますか?」

「はい! とある小学生2人への事情聴取です!」

「そうですね。その子たちは犯罪をしたと言う訳ではないので、威圧したり睨み付けたらいけませんからね。優しく接してください」

「し、小学生にそんなことしませんよ~。私、小さい子供とか大好きですし可能な限りフレンドリーに――って、置いていかないでください先輩!?」




 私は鈴木すずきあやか。

 今年、警察学校へ入ったばかりの18歳。


 私が婦警を目指すようになったのは、今からたった1年ほど前。

 高校3年生になって間もない私は、未だに進路を決められずにいた。

 ぶっちゃけた話が、将来なりたいモノというのが無かった。


 親からは心配されるし、先生からも夏になる前までにハッキリさせないと間に合わなくなるぞ、と念を押される日々。

 クラスメイトや友人が、やれ「海外の大学に行く」だの、「美容師学校に行く」だの、「年上の男性から卒業後に1年交際して結婚しようって誘われた」だの、そんな話を聞くたびに余計どうしたらいいのか分からなくなっていた。

 結婚が~とか言っていたのが、まさかの友人だった時はビックリ仰天だったけど。スマホの待ち受けになっている写メに写ってた男性が誠実そうだったのもビックリ。高校生に手を出したの!? って最初は思ったけど、世間の事とか冷静に考えられる人だったみたいで、まだデートもしていないんだって。

 これが最近話題のリア充ってやつなのかな? って思った。


 そんなある日。どうにも気分が落ち込むもんだから散歩に出かけることにした。

 しばらく歩きながら、無難に近くの大学にでも通おうかな~と考えていると、おかしな人だかりがあった。

 ここは何の変哲もない川の近くなのに、どうしてカメラを持った人たちが多いんだろう? と疑問に思ったところで今朝の新聞の記事を思い出す。


『○○市の川で河童の目撃情報が多発!!」


 確かこんな記事だったはずだ。

 見ればどこの秘境に行くつもりなんだろう? って格好をした小さい子が父親らしき男性に肩車をさせてもらっている体制で、随分と熱心に双眼鏡を使って川を見続けている姿もあった。

 そんな子だけならいいんだけど、人が多いせいで向こうに続く道が中途半端に通れなくなっていた。ここを通る人のことも考えてほしい……


 本当は嫌だけど、ここを通らないとなると大きく迂回しなきゃいけないし、何か負けた気がする。意地でも通ろう。そんな軽い気持ちだった。


 集まっている人たちの合間を縫って向こう側に行こうとした時、思いっきり押されたせいで転びかけた。そう、転ぶことはなかった。

 咄嗟に、婦警さんが支えてくれたから。


 聞けばどうも近隣住民から苦情が入っていたらしく、たまたま近くにいた婦警さんが河童を見ようと集まっていた人たちに注意するため来た所、私が押されて転びそうになったのが見えて慌てて支えたんだとか。


 婦警さんに注意されて、やっと帰ってくれた人たち。それを見届けて帰ろうとする婦警さんを呼び止めてお礼を言った。

 婦警さんは「気にしなくていいわ」と行ってしまったが、その姿がとても眩しく見えた。早い話が私は婦警に憧れた。


 それからというもの、警察学校の試験まで猛勉強の日々。

 親や先生が目を丸くしてたのは笑っちゃった。

 口調などについても学ぶようになった。教官となる人や先輩にはしっかりと、年下の子供などには優しく、犯罪をした人には厳しく、その時その時で使い分けることができるように。


 そして、警察学校の試験に合格。

 人って嬉しすぎても泣くんだな~って実感した。




「まあ、その後入った警察学校がかなりスパルタで、勉強だけじゃなく定期的に実習もやらなくちゃいけなくて、頭がパンクしそうですまる」

「さっきからブツブツと何言っているの?」

「いえ、何か朝からおかしな電波を受信していまして……。急に今の自分の人生を少し振り返りたくなった次第です」


 世界中でたまに例があるらしいですよ?

 何かの中心的な人物とか、個性的な人なんかに。


「……ノイローゼとかじゃないのよね?」

「心配いりません。さすがに警察学校入って半年もしない内に病むような半端な覚悟じゃありませんから。この前もがんばりましたでしょう?」

「まあ、がんばったと言えばがんばったのかもしれないけど、例の万引きの男性、後から来た私に向かって『何でもっと早く来てくれなかったんだ!?』って言っていたのよ? 警察関係者が犯罪者とはいえトラウマを植えたらダメでしょ」


 むしろ、犯罪をしなくなると思いますけど……


「何考えているのか予想したうえで言うけど、それでも男性の……その、アレというか、ナニというかを、潰そうとしなくても……」

「アレ? ナニ? ……ああ、“ピーッ”のことですか」

「直球すぎよ!」


 それは万引きの男性が悪いと思うんですけど。

 前回もこの婦警さんと一緒だったのですが、たまたまお昼を食べるために立ち寄ったコンビニで万引きしている男性を目撃。私が「ああっ!?」って声を出したら逃げたんですけど、よりによって近くにいたお婆さんを突き飛ばしたんですよ!


「だから、その場で捕まえた後に『抵抗するようなら、コレ、グシュッと逝きますが、本当にしてみましょうか?』と言っただけですってば」

「……突然肉食動物みたいに跳躍して捕まえた時に、実際に手で掴んだ状態でそんなこと言われたら犯罪者でも怖いわよ……」

「睨みながらドスのきいた声で伝えると、シュンってなりました」

「目に涙を溜めてガクガク震えていたけど?」

「いえ、私が強めに握っていた男性のナニが」

「oh……」

「突き飛ばされたお婆さんがサムズアップしてました」

「最近の老人は逞しいわね……」


 男性の弱点はハッキリしていていいですね。

 一応、警察学校に入るためのアピールポイントとして、護身術なども身に付けているので、わざわざそこを狙わなくてもいいのですが。

 え? じゃあ何でそんなことしたか?

 女性を突き飛ばすような男なんて“ピーッ”を潰しておやり! って死んだばっちゃんが遺言で言っていたんですよ。

 じっちゃんの遺言はありません。生きてますから。


 あ、そうそう。


「でも私の父よりは大きかったと思います」

「突然のカミングアウト!? どういうことよ!?」

「小さい頃は私も父と一緒にお風呂に入っていたのですが、父のソレを見て『ちっちゃくてカワイイ』と言ったところ、ホロホロ泣きました。父が」

「お父様の尊厳のために墓場までその話は持っていきなさい」

「その日の風呂上りに母へ『あやかね、そろそろ妹がほしいの』と言ったところ、死にました。母と父の周りの空気が。特に父が酷かったです」

「よりによって何でその日に言ったの……」

「ちなみに妹はできました。5年後に」

「相当がんばったのね……」


 父と母がやり切ったという顔をしていましたからね。


「嬉しくなった私はお礼に内緒で父の部屋を掃除したのですが、本棚の掃除中にとある本の間から怪しいお薬の請求書を見つけました。葛藤したものの、何も見ていないということにしました」

「5年で成長したわね」

「ただ、どの本に挟まっていたのか思い出せなかったため、仕方なく父の机の上に置いておきました」

「あなた、わざとやっていない?」

「家に帰って来た両親と妹にがんばって掃除したことを伝えると褒めてくれたのですが、次に夕食の席で会った父が私をチラチラ見ていました」

「間違いなく机の上にあった請求書のせいよね」

「非常にビクビクした様子でした」

「もうこの話やめましょう。小学校に着いたわ」


 いつの間にか目的地に着いていた。

 今日も1日研修がんばるぞ!




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 職員室で出されたお茶を飲みながら先輩と話します。


 改めて今回の研修内容を先輩と確認すると、最近この小学校の1年生が何名か肝試しと称して、少し離れた場所にあるゴミ処理場でケガをしたとか。

 しかも、肝試しをした子供のほぼ全員が「ゴミで出来た化け物に襲われた」と話しているため、先生方や保護者が首を傾げることになったそうです。

 近隣住民や通行人から「大きな音が何度も聞こえてくる」と連絡を受けて警察が到着したところ、何人もの子供が意識を失って倒れていたので何か・・があったのは間違いないようなのですが、その内容が内容だったので、混乱しているようだから詳しい事情聴取は後日に、ということになったそうです。

 一応、警察の方でも件のゴミ処理場で調査及び関係者からの聞き込みをしたそうなんですが……


「不可解な点が多すぎる?」

「ええ、私も調査した知り合いから聞いただけなんだけど――」


 まず、そもそもの原因である子供たちの肝試しですが、しばらく前からそのゴミ処理場で夜遅くに何かが崩れる音や謎の影が目撃されていると、ネットでちょっとした話題になったのが肝試しの場所として選ばれた理由。

 昼間に作業をしている方は「そんなの見たこと無い」と言っていたそうですが、子供たちが肝試しをした後のゴミ処理場での様子に酷く困惑していたそうです。

 ゴミ処理場には当然大量のゴミがわんさかあるわけですが、作業員が作業しやすいようゴミの位置や種類が分かりやすくなっていたというのに、一夜ではありえないほどゴミが移動して散らかっていたとか。

 子供たちが犯人だと考えても現実的に不可能。子供たちがゴミ処理場の敷地内に侵入してから警察が駆けつけるまで1時間も無かったはずだというのに、その時間内でどうにかできるようなレベルでは無かった。


「それで、ようやく落ち着いただろうからってことで子供たちの事情聴取を小学校の昼休みの時間を使ってすることになった、ってことですね」

「その通りよ。今日私が――ついでにあなたも事情聴取することになっているのは、この件に関わっている子供たちの中で明らかに話が食い違っているか、後から合流したっていう5人の中の2人の女の子よ」

「そういえば、ほぼ・・全員がゴミで出来た化け物に襲われたと証言したんでしたっけ。つまり、今日会うのはその例外の子?」

「ええ」


 さらに先輩から話を聞くと、今日会う女の子2人は他の子供たちと共に肝試しをしたメンバーのはずなのに、事前に聞いてた話では「ゴミで出来た化け物なんて知らない。よく覚えていない」と2人揃って話してた。

 これだけだと、そういう子が1人2人いてもおかしくないって話になるそうですが、その内の1人の藤野崎音子という子は事情が違うそう。


「他の子供たちの証言だと、そのゴミの化け物とやらに襲われ始めた時にみんなを出口まで誘導しようとしたらしいの。しかも何人かは本格的に化け物が追いかけてくる直前にどこかへ携帯電話で連絡を取っていたのも目撃している」


 そして、その連絡していたというのが先日事情聴取を終えた3人。

 正確には麻倉俊という男の子だそうで、麻倉くんの母親によると、リビングで携帯電話に出たと思ったら何やら慌てだす。そのすぐ後に残りの2人へ連絡を取り、外に出て自転車で爆走。その2人に関してもいつの間にか家からいなくなっていた、と。


 その後も細かい部分を聞きましたが……


「え~と話をまとめると、この小学校に通っている1年生数名が、肝試しを最近話題になり始めていたゴミ処理場で行う。その後、ゴミ処理場の敷地内で突如ゴミで出来た化け物に襲われる。ほとんどの子が襲われた時の衝撃で気を失ってしまう。藤野崎音子さんは襲われた直後に麻倉俊くんに連絡を入れたり、出口まで他の子を誘導しようしていた。けど本人は何も覚えていない。先に目を覚ました火之浦椿が近くで気絶していた子供たちを起こそうとするも、起きたのは藤野崎音子さんだけ。火之浦椿さんも何が起こったかよく覚えていない。うまく立つこともできず途方に暮れていたら麻倉俊くんたち3人が合流。5人で話している内に警察が来た、と。……何ですかそれ? 不可解の塊じゃないですか」


 もうツッコミどころのオンパレードですよ?

 その5人、何か隠しているんじゃないですか?


「そもそも、ゴミの化け物って何ですか。生き物ですらないし。これなら野犬に襲われたっていう方がまだ信じられますよ?」


 日本で野犬とかずっと昔の話ですけど。

 野犬狩りで狩りつくされたはずですし、捨てられた犬の線もありますが。

 何せ有名な某忠犬も野犬狩りに会うほど徹底的だったそう。


「私もそう思ったんだけど、まだ不可解なことがあって……」

「不可解はもうお腹いっぱいです」

から今回の事情聴取を最後に、この件に関する調査を終了する旨が伝えられたそうよ。ね? 不可解でしょ?」

「……先輩、上ってまさか……」


 上。つまり警察の上層部からの命令。

 明らかにおかしいじゃないですか。


「今回みたいに上から調査をやめるように言われるケースって数年前から多いみたいなの。マスコミの中には自分たちで調査しようとしたり、上に取材を申し込んだりしていたそうだけど、それ自体いつの間にかピタリと止まるのよ」

「マスコミがですか? あの、『ネタをよこせ! 無いなら意地でも探し出せ! ヒャッハー!!』な連中であるマスコミが!?」

「……そうよ」


 まさか、


「ゴミで出来た化け物に襲われたって話……ガチ?」

「分からない。でも首を突っ込んでも良い結果にはならないでしょうね。鈴木さんも、無闇にこの話題を他の人に話さないように」

「……はい」


 ドラマにありそうな警察の裏側に巻き込まれるのはゴメンです。


「ああ、そうそう。今回事情聴取する藤野崎さんだけど、先生方から言われていることが1つあったから、そういう人もいるってことで覚えてほしいんだけど……」

「はい。何をですか?」

「その子、すっごい無口らしいの」

「はい?」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「カ、カワイイ……」

「? 何?」

「いえいえ何でもありませんのことよ!」


 すごい無口だって聞いたからどんな子だろうと思ってたけど、昼休みの時間になって職員室までやって来た藤野崎さんは目がパッチリして、ちょっと小柄で、興味深そうにこっち見て、猫ちゃんみたいです♪


 ……ハッ! ま、マズい。

 元々小っちゃくてカワイイ子は好きだけど、あくまでも常識の範囲。それが常識を飛び越えちゃいそう。私が同い年の男の子だったら恋愛的にも物理的にもアタックしちゃいたい。あぁもう! そんな「どうしたの?」って言いたげに首を傾げちゃって♪


「えと、お姉さん? その、大丈夫ですか?」


 そんなこと考えてたら藤野崎さんの隣りにいた子が話しかけてきました。

 確か、火之浦さんでしたね。藤野崎さんはカワイイ系ですが、この子は美人系です。将来モテそうですね。


「……鈴木さん? 今が研修中だということをお忘れなく」

「了解です先輩!」


 危ない危ない。何だかんだで研修でも卒業するための単位が取れるのですが、まじめにやらなければ単位を貰えません。

 浮ついた気持ちを切り替えてまじめにやりましょう。


 そうして事情聴取を開始しましたが、予想以上に藤野崎さ――もう音子ちゃんでいいですね。音子ちゃんが無口で、ほとんど火之浦さんが答えていました。音子ちゃんは「うん」とか「はい」ぐらいしかいいませんでしたが。

 しかし、やはりカワイイ。

 猫じゃらしとかフリフリしてみたい気分です。

 そんなことしたら先輩から拳骨確定ですが。


 特にめぼしい新情報も無く(実際、上からストップが掛かっているので踏み込んだ質問は避けましたが)事情聴取が終わろうとしました。


 音子ちゃんともっとお話ししたかったんですけどね……


 ションボリして俯いていた私が顔を上げると、目の前に座っていた音子ちゃんがジーーーっと私のことを見ています。

 ? どうしたのでしょう?

 そんな姿もカワイイですが。


 ……その後起こった事を、私が忘れることは一生無いでしょう。


「ニャン♪」


 突然音子ちゃんが猫っぽいポーズでそんなことを言ったのです。


 カ、カワイすぎ――!!


――ブバッッッ!


 アレ? 急に目の前が赤く……? 意識が――


――バタンッ!


 ??? もしかして、私が倒れている?

 一体何が起こって――

 ………………




 次に私が意識を取り戻したのはどこかの病院のベッドでした。

 先輩から何があったか聞くと、音子ちゃんが猫のマネをした瞬間、尋常じゃない量の鼻血を噴き出して倒れたもよう。


 部屋の中が殺人現場みたいになったそうです。

 安静にしているように言って先輩は部屋を出ましたがそれどころじゃありません。大問題です。


「今回の研修で貰える単位、どうなるの?」


 あ、そうだ。

 今のうちに脳内フォルダに音子ちゃんの映像保存しておきましょう。




 ちなみに、後日単位は取れました。

 診察代は自腹でしたが。


 鈴木あやかのお父様のライフは日々減り続けています。父の日に贈られたのは育毛剤。誕生日に贈られたのは口臭用スプレー。

 満面の笑顔で渡しています。

 嬉しくてお父様は泣きました。・・・嬉しくて。


 次回、『閑話 麻倉俊 視点:筆舌に尽くし難し美味を①』


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