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逆転生した魔術師にリアルは屈しました 【凍結】  作者: 影薄燕
第2章 あなたは魔法を信じますか?
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閑話 火之浦椿 視点:日常⑤

 またも風邪に負けました。

 おかしい……マスクもしているし、うがい・手洗いもしてるのに。

 なんでじゃ?


――ピピピ! ピピピ! ピピピ!


「う~ん……あと5分……」


――コケコッコーーー!!


「……!? ち、ちくわー!? ……あれ? 夢?」




 アタシは火之浦椿。この火之浦神社のに住んでいる小学生よ。

 それにしても変な夢だったわね。まさか、ちくわがあんなことになるなんて……ただ、気のせいかしら? 夢の中で音子が大量のかまぼこ(?)に襲われているのが見えたんだけど……? まあ、気のせいよね! 所詮は夢だし。


 さてと、アタシも自分のことやりますか。神社の朝は早いからね。そしてアタシはそこの1人娘。任されていることもあるわ。


――ザッザッザッ


「あ~あ、もう落ち葉だらけじゃない。そういえば昨日は風が強かったっけ? 毎朝掃除の手伝いするこっちの身にもなってほしいわ」


 アタシがしているのは神社の掃除よ。子供用の箒を持ってせっせと掃除しているの。もっとも、アタシの担当は神社は神社でも、正確には神社の隅っこの方に建っている家の周りだけなんだけど。


 お父さんは祭壇でお供え物をしているし、お母さんはアタシがしている所以外を掃除している。もう何時間かしたらアルバイトの巫女さんも来る。

 アタシが中学生ぐらいになったら、祭壇の掃除やお母さんと神社全体の掃除をすることになっているわ。後5年も先のことだけど。

 今は見習い期間ってやつね。

 実際アタシも全部の仕事覚えているわけじゃないし。


「よし! 掃除終わり!」


 家の周りだけだから直ぐ済んだわ。

 来年からは別の場所も掃除の範囲になるらしいけど。


「早くいかなきゃ!」


 箒を元の位置に戻したら急いで鳥居に向かう。前に走って向かったらお母さんに「朝早く訪れる人もゼロじゃないんだから、はしたなく走ったらダメよ」って言われたから、早歩きで。将来巫女服を着るようになったら難しそうだけど。


 そして鳥居の前に到着っと。


「今日はちょうどいいタイミングだったわね」


 アタシの密かな朝の楽しみは、鳥居の内側から見える朝日。

 この神社って少し高い所にあって、神社側から鳥居の見える位置が太陽の出る位置と重なっているから見れる光景なのよね。


 わざわざこの光景の写真を撮るために来る人だっているし、うちの神社の自慢の1つね。今も2、3人がすでに来て見てるわ。


「今日もキレイねー」


 これを見ると、1日の始まりを感じられるのよね。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 そんなこんなで小学校に到着。自分のクラスに向かう。

 その途中で見覚えのある子が……


「ねえ、今度は何したのさ?」

「肝試しでも全然懲りてないよね……」

「あんなことで私のオカルト魂は消えなんてしないわ! 今は両親にこっ酷く怒られてるから無理だけど、あのゴミで出来た化け物の正体だって突き止めて見せる! あの時無くしたカメラと録音機があればみんな信じたのに……」


 出たわねオカルト女子。

 いつか真実に辿り着くんじゃないかって、俊が警戒してる子。そういえば、その録音機とカメラって俊が預かっているんだっけ?

 どうやって返すつもりなのかしら?


「昨日の夜、とある黒魔術を試したのよ。繋がりの強い人同士を夢で出会わせる魔術を……。フフフフフ」

「ふーん。それで? 成功したの?」

「てか、どうやって確かめるのよ。対象は誰と誰なのよ」

「分からないわ! 私が教えてほしいぐらいよ!」

「「ダメだ、こりゃ」」


 ……うん。無視するのがよさそうね。




 教室に入って友達3人を発見。音子はまだ見たい。


「おはよう」

「おはよう椿」

「オ~ッス」

「椿ちゃん、おはよう~」


 ただの挨拶なのに、今だに新鮮な気持ちが薄れないわ。

 妙に大人っぽい俊に、少し雑な感じの大悟、ポワポワした菜々美。これに無口な音子を加えた4人がアタシの友達。


 その友達の1人である俊は、こことは違う世界で生きてきた記憶を持つ転生者って言われる存在なんですって。

 魔術を使うために必要なものが魂にあるから、生まれ変わっても魔術が使えるんだとか。詳しい理屈は良く分からないけど、今アタシの魂に定着したばかりの『魔術因子』っていう存在が重要で、これがある人が魔術師になれるって。


 小学校に入学したばかりの時のアタシに、このメンバーが自分にとって掛け替えのない友達になるなんて言っても信じなかったでしょうね。

 早く音子も来ないかしら?


「3人で何話してたのよ?」

「ん? 大したことじゃないよ。今日、変な夢見たってだけ」


 ……何でかしら? 嫌な予感が……


「それで? 俊はどんな夢見たんだよ?」

「私も気になる~」

「だから大したことじゃないって。ドーナッツに乗っかって空を飛ぶ夢だよ。下の方に何かに追われる大悟と回転している菜々美もいたような気もするけど」

「「……え?」」


 あら? 2人の反応がおかしいわね?


「どうしたんだ?」

「……オレ今日、自分がせんべいに追われる夢を見たんだけどよ、遠くの方で菜々美っぽいのが何かの上でクルクル回って、人が乗ったドーナッツが空を飛び回ってる夢見たんだ」

「……パンケーキの上でクルクル回ってた~。目が回ってたからよく分からないけど~おせんべいが走ってたり、ドーナッツが飛んでた~」

「え? 何コレ怖い」


 本当に怖いわね!? そういえば私が見た夢でも音子がいたわよね!? さっきのオカルト女子の話って……まさか……まさか!?


「ねえ、この話やめた方がいいんじゃないかしら?」

「「「賛成」」」


 触らぬ神に何とやら、よ。深く追求しちゃダメな気がするわ。とりあえずオカルト女子の警戒度をアタシの中でMAXにしておこうかしら。


 もうこの話はここで終了ってことになったところで教室に音子が来たわ。夢の件は聞きたい気もするけど聞けないわね。


「みんな、おはよう」

「おはよう音子」

「オッス」

「音子ちゃん、おはよ~」

「おはよう」


 相変わらず無表情ね。しかも無口だし。

 そういえば最近は早口言葉が日課になっているって話だったかしら? あの日、屋上での出来事の時に妙にしゃべらないと思ったら、まさかの口やのどの筋肉痛……。さすがに本人も思う所があったみたい。


 今日はアタシと音子の事情聴取の日だし、フォローしなきゃ。今日は音子が日直だけど、もう1人の日直が風邪を引いたらしいから手伝いもしよ。

 俊たちにも言わなきゃね。


 本当に今更だけど、最近アタシって余裕が出てきたのよね。

 前はいつも眉間にしわが寄ってたし、ずっとイライラしてた気さえするわ。魔法の話題になると余計に……

 魔法、というか魔術が本当にあるって分かったからよね。

 今日の放課後は念願の魔術の修行だから、どうしても朝からニマニマしちゃう。そのせいか、変に見られてるし。特に男子。


 そうしてやってきた昼休み。

 アタシは今、音子の手伝いもかねて職員室に持っていくプリントの半分を持っている。どうせ事情聴取で職員室まで行くことになるし、音子って無口無表情だからなのか、どうにもほっとけないのよね。アタシの予想では頭の中でかなり考えていると思うんだけど。


 何となく今もいろいろ考えてそうな雰囲気だし、やっぱ事情聴取の件かしら? 無口な音子の代わりに基本アタシが答えて、音子は一言で済むようにするべきね。ちゃんとアタシに直接頼ってきてもいいんだけど。


「音子、プリント職員室に置いたら例の事情聴取だけど、アンタが無口なのは先生なんかが伝えていると思うから気楽にしなさい」

「? 事情聴取?」

「ほら、この前の事件であの化け物に襲われた件で、しばらくしたら2人ずつ昼休みに警察の人が聞くことになっていたじゃない? それで今日はアタシと音子の番でしょが。まさか忘れてたの?」

「…………あ」


 ……音子にしては珍しくに顔に出たわね。それ、本気と書いてマジで忘れてたって顔だわ。一応聞いてみるけど……


「アンタ、本気で忘れてたの?」


――プイ


 顔ごと目背けるんじゃないわよ。

 さっきまでのアタシの心配やら返しなさい。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 事情聴取に来たのは現役の婦警さんと警察学校に今年入ったばかりだっていう婦警候補のお姉さんだったわ。

 事情聴取の件、素で忘れてたのはどうかと思うけど、それとこれとは別だから予定通りアタシが説明して音子が少し補足する感じになった。

 事前に俊たちと口裏合わせもしたから、問題も無し。


 一応婦警さんたちも音子が無口なのは事前に聞かされていたからなのか、特に何か言われるってこともなかったわ。


 そうして問題なく事情聴取が終わろうとした瞬間、それは起きたの。まさかそんな行動を取るなんて思いもよらなかったのよ。

 ぶっちゃけた話が、音子がやらかした。


「ニャン♪」


 音子が突然、猫のマネしたと思ったら、


――ブバッッッ!


 婦警候補のお姉さんが鼻血を噴き出したの。


――バタンッ!


 そして倒れる婦警候補のお姉さん。


「え、えええええええええっ!? ちょ、大丈夫ですか!?」

「何事か!?」

「ちょっと鈴木さん! 急にどうしたの!?」


 もうどうにもならない空気になったわよ。

 アタシは目が点になるし、後ろにいた教頭は狼狽するし、婦警さんはお姉さんこと鈴木さんをゆすりながら意識を確認するしで。

 当のお姉さんが幸せそうな表情だったのも意味不明だったわ。


 で、騒ぎの元凶(?)に目を向ければ、


「……テヘッ」


 無表情のままそんなこと言ったんで、軽く頭をはたいた。手元にハリセンがあったら、それで思いっきり叩いてるところね。

 少しは反省しなさい!




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 放課後、1度帰宅してから自転車で出かけて学校近くで待ち合わせ。他の4人と合流したら、俊たちの修行場所って所へ向かったの。

 向かう前に俊がアタシと音子に何か魔術を掛けたみたい。今から行くところは結界で普通の人が近づけないようになっているんですって。

 アタシたちはまだ完全に魔術師じゃないからって。


 ……聞いた話じゃ音子は執念だけで強引に結界を突破して、俊たちが魔術を使っているところを目撃したらしいけど、何がそこまで音子を突き動かしたのかしら? 説明していた俊や、隣にいた大悟と菜々美が遠い目をしてたのが気になるわ。




 そして、ついにきた魔術の修行!

 自分でもテンションが上がっているのが分かるわ。けど、仕方ないじゃない! すぐにできるって訳じゃないからアタシの努力次第だけど、ついに魔術師になるための一歩を踏み出せるのよ。どうしたって興奮するに決まってる。

 だから……


「ちょっと音子、落ち着きなさいってば」


 さっきからあっちへこっちへ行ってる音子の襟首を掴んで止める。俊たちも苦笑いしてないで手伝ってくれたらいいのに。


「だって、河童と戦ったって」

「それが何よ?」

「甲羅やお皿の破片、あるかも?」


 何か探してると思ったらそんなこと……

 そりゃアタシだってビックリしたけど、それだけよ。今のアタシにとって大事なのは魔術の修行だし。とにかく落ち着きなさいっての。


 その後、俊がすごくまじめな顔で音子に詰め寄ったりしたけど、予定通り魔術の修行を始めることになったわ。

 いつもは大悟や菜々美が修行して、俊がアドバイスしたりしてるらしいけど、今日はアタシと音子のために少し離れた位置から見てるだけ。


「安全だから、これに触りな」


 そう言って俊が出してきたのは『魔力玉』って言う、基本中の基本となる魔術。アタシたちが魔力を感じられるようになったら、最初に使えるようにする魔術なんですって。簡単で攻撃性が無いから初心者にピッタリだとか。


 そして、その『魔力玉』に触ってみると――


「……あれ?」


 不思議な感じの力がアタシに伝わってくる。

 けど、驚くのはそこじゃない。その不思議な力に触れた瞬間、どうにも言葉で表せない感覚が全身を巡ったの。それも2種類。


 1つは『魔術因子』だと思うわ。前に俊が魔術の才能が高い子供がまだ慣れないうちに魔術に触れると、自分の『魔術因子』が強く反応するって言っていたから。いえ、それ自体は嬉しいのよ。アタシに魔術師としての才能があるってことだし……


 問題はもう1つの方。

 身体全体が活性化したような、自分の大好きな食べ物をものすごく久しぶりに食べた時のような、感情で表すなら……嬉しさ。

 アタシには漠然としか分からない。分からないんだけど、まるで、最初からアタシにあった何か・・・・・・・・・が目覚めた感覚。


 一体これって……?


「――椿」

「へ!? な、何よ音子?」

「負けない。競争」

「あ、うん」


 横から掛けられた音子の声に反応したら、さっきの感覚は消えていた。

 まあいいわ。音子はどうやらアタシとどっちが先に魔力を感じられるか勝負したいみたいだし、さっきのことはいったん忘れましょう。

 とは言っても、大悟や菜々美なんかは魔力を感じられるようになるまで何日も掛かったらしいから、すぐに着くわけじゃないでしょうけど。

 さあ、勝負と行くわよ音子!




 そうして音子との勝負が始まったわけだけど……

 予想外過ぎたわ。まさかその日のうちにアタシが自分の中の魔力をしっかり感じ取れるようになるなんて……


 その時は「すごい! すごい!」って嬉しくなっちゃったけど、落ち着いた時に隣を見たら、そこにいたのは四つん這いになった音子が。

 生まれたての鹿みたいに震えていたわ。


 何ていうか、その……ごめんなさい?


 椿はまだ自分が男子に意識され出しているのに気付いてません。まあ、その男子の方もちょっと興味がある程度ですが。小1ですし。

 元々世話焼きの面もあるので音子のことを気にかけてます。

 椿の魔術の才能は俊をして異常なレベル。理由はまだ不明。


 次回、『閑話 鈴木あやか 視点:研修中婦警は忙しい』


 ついにオカルト女子に次ぐ、2人目の準レギュラー登場。


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