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逆転生した魔術師にリアルは屈しました 【凍結】  作者: 影薄燕
第2章 あなたは魔法を信じますか?
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閑話 藤野崎音子 視点:日常④

 音子の内面を書いてたら予想以上の文字数になって遅れました。

 その分、今回は長めです。


――チュンチュンチュン


「う……ん……」


――ジリリリリリリリリリ!


「!! か、かまぼこ!? ……あ、夢?」


――ジリリリ!(ガチャッ)リ……


「ふあ~~~あ。……ねむい」




 皆さん、おはようございます。藤野崎音子です。

 いえ誰におはようと言っているんだ、という話ですが。

 どうにも重い目をこすりながらドアを開けます。おそらく弟もそろそろ起きるでしょうし、姉として先に朝食の席に着かねば。


 それにしても今日の夢は怖かったです。まさか、かまぼこがあんな……。今日食べるご飯に、かまぼこが出ないことを祈りましょう。


 あ、そうです。最近の日課です。


「なまむぎなまごめなまたまご~なまむぎなまごめなまたまご~なまむぎなまごめなまたまご~なまむぎなまごめなまたまご~」


 最近の日課、それは朝の早口言葉です。

 先日の『ゴミの化け物事件』の時、今までに無いぐらい声を張り上げたり喋ったりしたため、翌日に口やのどが筋肉痛らしき痛みで喋ることができず、身振り手振りでその日を過ごすことになりました。ご飯食べる時が1番辛かったです。どうしても口を開けて、食べ物をのどに通らす必要がありますからね。さすがに自分でもどうなんだと思ったので、早口言葉を何度も繰り返して喋ることに慣れるよう努力してるのです。


 まあ何だかんだで落ち込んだのは、椿の心がせっかく救われた感動シーンでみんなが手を置いて名前を言う時、私だけ首を縦に振ることしかできなかった件です。私だって「これからよろしくお願いします。椿、と呼ばせてもらいますね」って言いたかったんですもん。……例え口が利けたとしても、実際には「よろしく、椿」ぐらいしか言えなかったんでしょうけど。


 どうにも私は感情が滅多に顔に出ないうえに、実際に思っていることを口に出して言うのが異常なレベルで苦手なんです。

 結果、みんなから無口無表情が普通の子という、間違ってはいませんが何とも認めたら負けな称号(?)を貰いました。これでも私も何とかしようとした時期があったんですよ? けど、どうにもなりませんでした。あの存在自体が冗談のように思えるオカルト女子の言う呪いのたぐいかと疑ったほどです。それほど私はアレ・・なのです。


 こんなこと俊たちには言えませんね。初めてできたと言ってもいい友達に言えませんよ。……俊はかなりいろんな事のできる魔術師だそうですが、頭の中で何を考えているのか正確に分かる魔術なんてありませんよね? あったら非常に困ります。身悶えます。

 転生者というのは大抵「チート」というのを授かっているそうなので油断できません。まだ私は俊と友達になったばかりですし。


 いつも無口無表情な私の中身がこんなんだと知れたら大変です。次の日からどんな顔で会えばいいのか分かりません。それこそバレた日には、以前お母さんが言っていた「責任を取ってもらう作戦」を実行するしかありません。女性が男性にこの作戦を実行すれば、高確率で相手を従わせることができるそうです。お母さんはそれでお父さんをモノにしたとのこと。

 その話を近くで聞いていたらしい当のお父さんはその日の夜、2人きりの時に妙に真剣な表情で「音子、お酒には気を付けなさい。結果的に私は幸せになったが、あくまで結果論だ。特に異性からお酒を進められる際は警戒を最大限にしておきなさい」と言ってきました。


 私は未成年ですからお酒はまだ飲めないんですけどね……? ちなみに「責任を取ってもらう作戦」の具体的なやり方までは教えてもらえなかったので、万一の時はお母さんから聞き出しましょう。そうしましょう。


 そんなことを考えてたら、リビングに到着してました。

 すでにお母さんが朝ごはんの準備をスタンバってます。


「おはよ」

「あら♪ 音子おはよ~。朝ごはん出来てるわよ。あ、そうそう。お父さんね、今日はお仕事の関係で音子が来るずっと前に会社へ行ったの。だから心配しないでね。お寝坊さんなわけじゃないのよ。ちゃーんと朝食も食べたし、身だしなみも整えて出勤したから安心してね? それで、音子は今日の朝は何が食べたい? 昨日買い物した時いろいろ買ったから一通り用意できるわよ?」

「ん……卵……ごはん」

「卵かけご飯ね。醤油ももちろん付けるわよ。それだけじゃ足りないからインスタントだけど味噌汁も用意するわね。最近のインスタント味噌汁って本当おいしいわよねー。私の子供の頃とは大違いよ。飲み物は牛乳でいい? いいわよね?」

「うん」


 このものすごくお喋りな女性が、私のお母さんである藤野崎ふじのざき初音はつね。表情だっていつもコロコロ変わります。

 この1年程思っていることですが、本当にお母さんはよく喋りますね。テレビに出てる人もビックリだと思いますよ? お母さんの血が半分は流れているはずの私はなぜ無口無表情なのか世界7不思議レベルで分かりません。


 お父さんの名前は藤野崎ふじのざき茂雄しげおです。何とお母さんとは8つも年が離れています。お父さんの方が年上です。お母さんは高校を卒業してすぐに私をお腹に宿したとのことですが、その話題になる度にお父さんが遠い目をする理由は観察が大好きな私をもってしても未だに分かりません。「いつかきっと突き止める」とお父さんに宣言したら、「頼むからやめてくれ。音子は一生知らなくていいことだ」と言われました。解せません。


「おはよー。今日も姉さんに先を越されたか……」

「おはよ、良太」


 ついに来ましたね弟よ。

 というわけで、この子が私の1つ下の弟である藤野崎ふじのざき良太りょうたです。

 基本的におとなしい性格で、趣味は読書というインテリ系なるものです。眼鏡を掛けていますが読書のし過ぎでなったわけではなく、生まれつき少々目が悪いそうです。今も眼鏡を掛けていますが、寝ぼけているせいかズレてます。

 

 と、そんなこと考えているうちに卵かけごはんのセットが来ました。ではいただきましょう。……やはりシンプルながらもおいしいですね。外国の人は生で卵を使うことに躊躇する人もいるとの話ですが、残念ながら近所にも学校にも海外から来た人はいないので、はっきりしたことは分かりません。


 おっと、話が脱線してしまいました。

 そろそろ学校へ行く準備をしておきましょう。時間的にはまだ早いですが、私には最近している早口言葉以外にも昔からの日課があるのです。


 そんなこんなでパパっと準備して、やって来ました我が家の庭。そこそこ広いのが自慢です。さてさて、今日はどうでしょうか?


「……5ミリ伸びてる」


 本日2つ目の日課、植物の観察です。未だに成長し続けているのが特に見ていて飽きません。今見ているのは今年植えたばかりのものですね。中々芽が出ないので心配しましたが、今ではすくすくと育っています。お寝坊さんだったのでしょうか? それとも学生の何割かが体験することになる、夏休みの始めをダラダラ過ごした後で最後の方になってお尻に火が付き、溜まりに溜まった宿題を片付ける的な心境だったのでしょうか?

 やはり観察はおもしろいですね。いろんな考えが浮かびます。というわけで、本日3つ目の日課をしましょう。


 アリです。庭の隅に巣を作ったらしいアリさんです。引っ越しが得意な方じゃありません。生き物のアリです。

 何だか見ているだけで楽しい気分になります。さすがの私もアリ1匹1匹の違いは分かりませんが、いつまでも見ていられるんですよ。学校の帰りに見つけたアリたちを時間を忘れて見ていたら、日が沈んでいたって時はやらかしたと思いましたが……。

 そういえば、菜々美には違いが分かったりするのでしょうか? 動物であれば間違いなく彼女なら見分けがつくでしょう。


 む、そろそろ学校へ行く時間ですね。楽しい時間は早く過ぎる。不思議です。ではアリさん、また帰宅後に会いましょう。さらばです。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 通学路を数人の小学生が歩いてます。はい、私もそこに含まれます。

 他の子は前後の子と喋っていたりしますが、私は参加しません。というか、できません。無口無表情な私のコミュニケーション能力の無さを甘く見たらいけません。俊たちの魔術を使っている光景を見てたら見つかってしまったあの日も、説明するのだけで相当時間が掛かってしまいました。俊なんて途中で「カー」と鳴いていただけのカラスに八つ当たりしたほどです。


 あらためて、俊・大悟・菜々美・椿と出会えたことは幸運と言っていいでしょう。私、幼稚園の頃はお友達と言える子がいませんでしたから。


 なんせ当時から変わっていませんからね。あ、内面の話ではないです。外面の話です。他の子はキャッキャッ言っているのに、私だけ表情が変わらなければ滅多に口を開くこともありませんでしたから。先生方も困ったことでしょう。1番困らせたのは歌をみんなで歌う時ですね。最初から決まった言葉を言うだけなら何とかなりましたから、がんばって歌ってみました。


 失敗しました。歌に感情が籠っていないそうです。棒読みみたいとのこと。せめて笑顔になってほしいとのこと。無理です。客観的な意見だけを言うのは簡単でしょうが、どうにもならないことがあるのです。しかし、その日はさすがにへこみました。同い年の子からの非難の眼差しは堪えました。帰ってお母さんの胸に飛び込みました。優しく頭を撫でてくれたのが救いです。

 ……胸に飛び込んだ時、思っていたほど弾力が無かったのは残念でした。お母さんは胸にある母性の象徴が小さかったのです。しかし、正直に言うのはやめました。その時の私は胸の小さい女性への気遣いなるものは知りませんでしたが、直感的に言ったらダメだと感じたのです。


 ちなみに、以前母の友人が家に来た時に挨拶しましたが、軽く話をしていたらなぜか私の胸のあたりを見た後、聖母のような微笑みで頭を撫でてくれたのが不思議でなりません。優しい手つきだったのに、どういうわけか素直に喜べませんでした。本当に不思議です。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 小学校です。相変わらず人がたくさんいます。

 ようやく教室に到着しました。そして俊たち発見。


「みんな、おはよう」

「おはよう音子」

「オッス」

「音子ちゃん、おはよ~」

「おはよう」


 順番に、私・俊・大悟・菜々美・椿です。

 ……ちょっとした事のはずですが、やはり友達との挨拶はいいですね。胸の中心がポカポカします。今なら幼稚園の頃に時折感じていた胸の痛みが寂しさだと分かります。無口無表情な私と仲良くしてくれる友達が4人もいるというだけで幸せです。『ゴミの化け物事件』を切っ掛けに救われたのは椿だけではありません。もっと4人には私の気持ちをストレートに伝えたいのですが、いざ伝えようとすると非常に恥ずかしくなってしまいます。こればかりは許してもらいたいですね。


 それにしても椿は本当に最近ますます自然と笑えるようになってきましたね。あの日の花が咲いたような、同じ女の子であるはずの私でさえドキリとしてしまうような笑顔は、あの日以降見ていませんが、ちょっとしたことでも笑えるようになってきたようです。

 知っている先生の1人は「ああいうのを凛々しくも美しい笑み、って言うのか……などと感心していました。


 今までの刺々しい雰囲気が無くなったことで、クラスの子とも話をするようになりました。ちょっと戸惑っている場面は多いですが、そこで登場するのが友達です。椿以外の私たち4人が会話に参加したりしてフォローします。これこそが友情というものです。


 それに椿は何かにつけ私に気を配ってくれますね。本当にちょっとしたことですが、普通にうれしいです。今も昼休みに職員室まで持っていくプリントを半分持ってくれてます。今日の日直は私なのですが、残念ながら相方の男子が風邪をひいて来れなくなったようで困ってましたから助かりました。俊も黒板消しをやってくれるそうです。そういえば、妙に急かしてましたが何ででしょう?


「音子、プリント職員室に置いたら例の事情聴取だけど、アンタが無口なのは先生なんかが伝えていると思うから気楽にしなさい」

「? 事情聴取?」

「ほら、この前の事件であの化け物に襲われた件で、しばらくしたら2人ずつ昼休みに警察の人が聞くことになっていたじゃない? それで今日はアタシと音子の番でしょが。まさか忘れてたの?」

「…………あ」


 大変です。すっかり忘れてました。

 椿の視線が冷たいです。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「それじゃあ、その夜のことはあまり覚えてないんだ?」

「うん」

「火之浦さんも言っていたけど、たくさんのゴミが崩れてきた辺りで意識を失ったらしいと、そして藤野崎さんたちのことを心配した麻倉くんたちが来るまで子供たち全員意識を失ったままだった、と」

「はい」


 事情聴取中ナウ、です。

 今回来てくれたのは話しやすいようにという配慮でしょうか? 20代後半ぐらいの婦警さんと、まだ18歳だという警察学校に通っている婦警候補さんでした。

 最初は椿も高校生ぐらいの年齢のお姉さんが一緒で驚きましたが、話を聞くとここ数年の警察学校の方針だそうです。


 なんでも、警察関係の人が犯罪に手を染めるケースが近年になり多くなってきたため、警察の方でも何とかしようとしたらしいのですが良い案は思い浮かばず。しかし何もしないわけには行けないと、試験的に警察学校に通ってる人を実際の警察関係者を付けて実習させる方法を取ったそうです。今までにも似たようなことをしたりしたそうですが、頻度を増やして割り当てられた地域(無事に卒業出来たら働くことになるだろう地域が近くの場合はそこ)の人々とも交流を持って、警察関係者としての自覚を早いうちから付けさせるとのこと。


 実際に2人が話したのはもっと分かりやすいことですが、私に掛かればこれくらいの理解は造作もありません。ドヤ顔です。心の中で。


 それにしても……この婦警候補だというお姉さん、妙に私に熱い視線を送ってますね。どこかで見覚えがある視線です。

 あ、思い出しました。犬や猫が大好きで仕方ない人が構いたくて仕方がない時の目です。こう、ウズウズした気持ちがこちらにも伝わるような。

 

 仕方ありません。サービスです。前にお母さんが「音子に興味のある人にこれをやれば、いちころよ!」と言っていたものをやって見ましょう。

 婦警候補のお姉さん、最初の生贄になってください!


 まずはジーーーとお姉さんを見ます。ジッと見続けます。

 目が合いました。ここです!

 右手を中途半端なグーの形にして首まで上げる。すかさず首を傾げるような動作。可能な限りスマイル(私にとっては非常に難しい)をして、ウインク!


「ニャン♪」


 猫のマネです。できるだけカワイらしくしました。


――ブバッッッ!


 何ということでしょう……。婦警候補のお姉さんが鼻から血を出しました。しかも尋常な量じゃありません。ちょっと怖いレベルです。


――バタンッ!


 そのまま倒れ込むお姉さん。今も鼻から血が出て床を汚しているせいで、テレビで見た殺人現場なるものみたいです。正直シャレになりません。

 「キャー人殺しよー!」と言えばいいんでしょうか? 犯人は誰!? ……はい、この場合私しかいませんよね。ちょっとふざけました。


 見れば、婦警の女性も椿も後ろで事の次第を確認していた教頭先生も大混乱してます。何というか、すみませんでした。テヘッ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 祝☆魔術の修行です。

 今私がいるのは俊たちが魔術を修行するための場所にして、何と1年ほど前に俊・大悟・菜々美が本物の河童と出会った場所だとか。ここに来てそれを聞いた時は興奮しました。キョロキョロしまくりました。でも仕方ないと思います。私の反応は至って普通。

 椿だって目を見開いて驚いていたのだから普通です。

 しかし、私の言い分を言ってみたところ、


「いやいや、アタシと音子の反応一緒にしないでよ。アンタ河童と俊がここで戦った~って辺りからメチャクチャ移動して何か探しまくってたじゃない? 石を持ち上げて下確認したり、顔が触れそうなくらいの近さで水中を覗いたり……」


 当然じゃないですか。どういう経緯にしろ河童と戦ったのならば、どこかに痕跡があるかもしれません。例えば甲羅やお皿の破片とか。


「無いからな? ここに甲羅や河童の命とも言えるお皿の破片なんて絶対に無いからな? もしそれらしきものが見つかっても、きっとまやかしだから」


 俊がものすごく至近距離で私の目を見ます。

 そこまで言うのなら無いのでしょうか? ただし、後ろにいた大悟と菜々美が見たことないぐらい冷たい目で俊を見ていたのが気になります。

 何か隠してそうな気がしますが……

 やっぱりやめましょう。急に俊の肩を掴む手の力が強くなりました。こういう時は「空気を読む」なるものが大事だそうです。

 この件は忘れましょう。そうしましょう。


 私と椿はすでに俊から魔術師になれる魔術を施してもらっていました。その時の椿は落ち着いた態度を取りたかったのかもしれませんが、顔が完全に「嬉しくて仕方がない」の表情でした。良かったですね椿。


 『魔術因子』が私たちの魂に定着するまでは基本的に何もせず大人しくするように言われました。ええそれはもう念入りに。魂という繊細な場所に作用するのだから可能な限り不安要素を無くしたいそうです。


 本来なら魔力を感じ取るための訓練もしゅん監修の元、もう少し早くしたかったそうですが、家の事情やら警察関係のアレコレで中々時間が取れなかったそうです。さらにその取れた時間でも、いつされるか分からない事情聴取のための口裏合わせに時間を取られてしまいました。俊から言わせると、口裏合わせは人数が多くなるほど難しいそうです。特に私たちはまだ小学1年生。単純に経験が足りず、どこでボロが出てしまうか予想できないとか。


 そんなこんなで時間は掛かりましたが、ついに魔力を感じるための訓練です。私と椿はお互いにリラックスできる姿勢で座っています。そして前には『魔力玉』という魔術を発動させている俊が。『魔力玉』に関しては以前にも見せてもらいましたが、今回のはより魔力という普段感じることのできない力を知るために特別な『魔力玉』にしたそうです。


「安全だから、これに触りな」


 俊がそう言ったので『魔力玉』に触ります。

 ……随分と不思議な感じです。どのような言葉で表すのが適切なのか分かりません。しかし、これが魔力なのでしょう。これが私の中にもあるはずなんです。ハッキリと感じ取ることが出来れば俊たちのような魔術師に一歩近づけます。

 隣を見ると、ものすごく真剣な表情の椿が。

 いいでしょう。競争です。どちらが先に魔力を感じ取れるようになるか。真剣さなら私だって負けません。いざ勝負!




「すっごい!! これが魔力なんだ! へー! ヘー!」


 負けました。

 隣の椿がはしゃぎまくってます。近くから聞こえる「コイツ絶対オレより才能あるだろ……」とか、「オ、オレが何日も何日も掛かってようやく感じ取れたのを、1日で!?」とか、「椿ちゃんすごいすごい~!」とか、聞こえてきましたが私の心はそれどころじゃありません。


 これが、敗北感なのでしょう。四つん這いの姿勢のまま、うまく立てません。いえ、本来なら椿に「おめでとう」と言う場面なのでしょうが、残念ながら今の私にそんな気力ありません。見かねたらしい俊がやって来て、


「あんま落ち込むなって。椿の魔術の才能が異常なだけだから。普通こんなに早く魔術に今まで関わらなかった子が魔力を感じ取れるわけないから」


 などと言ってきましたが、そういう問題ではありません。




 家に帰りました。すぐに自室に籠りました。

 何が何でも魔力を感じ取れるようになります。明日まで!


「絶対に、魔力感じる……!」


 それから夕飯の時もお風呂の時も、それ以外の時間でさえ魔力を感じるために集中し続けました。なにやら家族の口元が引きずっているように見えたのは気のせいでしょう。「第3回藤野崎家家族会議を~」と聞こえた気がしましたが気のせいでしょう。




 朝です。おはようございます。

 ついに魔力を感じ取れました。これで私も魔術師です!

 深夜まで起きてたせいで寝不足ですが……

 もう無理です。2度寝します。

 おやすみなさい。


 無口無表情なのに頭の中はお喋りな音子。

 実は音子も俊たちに救われていました。

 魔力を意地でも感じるため、集中した音子は迫力があります。家族は全員ドン引き。

 椿には負けましたが、音子も魔術の才能の塊です。


 次回、『閑話 火之浦椿 視点:日常⑤』


 少し前に新作短編で『アルビノ少女の異世界旅行記』を投稿しました。よろしければご覧ください。

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