第30話 戦いを終えて・・・・・・もちろん怒られました
「終わったん、だよな?」
「ああ。初の実戦お疲れ様」
「くたくた~」
「動けない」
「…………」
ゴミの化け物を倒してから緊張の糸が切れたのか、俊・大悟・菜々美は大の字に転がっていた。音子と椿も近くで座り込んでいる。
戦いが終わったことで疲労が一気に来ていた。
そんな中で、黙ってた椿が口を開く。
「……あの、さ」
「ん?」
「今更なんだけど……助けてくれて……ありがと」
「良いってことよ」
「どういたしまして~」
恥ずかしがりながらもお礼を言う椿。怒涛の展開で言いそびれていたが、ようやく伝えることができた。
大悟はぶっきらぼうながら満足気に、菜々美は笑顔で受け取る。俊は椿のことを見た後、音子に視線を移す。
「礼を言うなら音子にもな。ソイツがすぐオレの携帯に連絡しなきゃ、大変なことになっていた。今日のMVPは音子だよ」
俊たちの秘密を自力で突き止めたことで、話をするようになった。肝試しの話を聞いて胸騒ぎがした俊が音子に連絡要員になってもらった。ゴミの化け物が現れた際に、動揺しつつも俊に電話をしたから駆けつけることができた。混乱してる子供たちをどうにかするため、いち早く行動した。ゴミの化け物の核がある位置を正確に割り出すことができたから、こうして倒せた。
音子がいなければ、この場にいる5人がこうして話し合うこともなかった。ゴミの化け物の目的は最後まで不明だったが、音子と椿を含む子供たちを殺そうとしたのは間違いない。何か1つでも抜けていれば、今回の事件は悲劇になっただろう。
そのことを俊が言えば、何やら音子は俯いて顔を隠してしまった。暗いせいで良く見えないが、耳が赤くなってピクピクしている。
これが音子の照れ方らしかった。
その時、遠くからファンファンファン! という音が聞こえてきた。
「この音って、パトカー?」
「こっちに向かっている」
椿と音子の言葉に俊が飛び起きて目を凝らすと、パトカーや消防車などの赤い光がうっすらと見える。よくよく考えれば、俊たちが駆けつけるまでも駆けつけた後もかなり大きな音が周囲に響いていたはずである。たまたま近くを通りかかった人が通報しててもおかしくない。
俊は今になって慌て始める。
「火~ノ浦さ~ん! 早急に話すことが!」
「へ? な、何よ?」
「口裏合わせだよ! 時間無いからちゃっちゃと済ませなきゃ! まず第1に椿はオレらと魔術のことを大人にしゃべるなよ。答えは『はい』か『イエス』か『OK』以外認めないし認めさせない! さあ、好きな方を選ぶがいい!!」
「いや、それどれも同じじゃ……」
「さあ、好きな方を選ぶがいい!!」
大事なことなので2回言いました!
「えと、その……はい……」
それから警察が来るまでの短い間に俊は詰めるだけ詰めた。どうせゴミの化け物のことなど誰も信じないが、変に話が食い違っていたら疑われる。
後はもう、なるようになれ! それ以外ならドンと来い! 難しいことは未来の自分に丸投げにしてしまえ! といった感じだ。
他はともかく、魔術のことさえバレなければそれでいい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――で、未来の自分に丸投げした結果、オレらも含めた子供たち全員の家族+先生+警察の人から、これでもかってぐらい雷を落とされました……と」
「……ねえ、麻倉の目が死んだ魚みたいになってんだけど?」
「(コクコク)」
「オレたちは幼稚園の時にも経験してんからな……あ、やべ。昨日のこと思い出したら何か身体が震えてきた」
「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナ――」
ゴミの化け物との激闘の翌日、放課後の屋上に俊・大悟・菜々美・音子・椿の5人がいた。すでに『人払いの結界』は発動済みである。
あの後、すぐに来た警察に保護された俊たち。少し聞いた話ではやはりゴミの化け物が出していた音を聞いた近くを通っていた人や音の聞こえる範囲に住んでいる住民などが通報したそうだ。
その後は保護された子供全員が同じ小学校だったこともあり、警察の方から学校で宿直をしていた先生に連絡が行く。
さらに当たり前のことではあるが、いつの間にか家から抜け出していた子供の捜索を行っていた警察の人がそれぞれの家族を引き連れてきたのだ。
気絶していた子供たちも警察の人が確認を取ってからすぐに起きたことで、病院ではなくそのまま関係者全員が学校に集まった。
雷を落とされた時の出来事はわざわざ言うまでもないが、警察と保護者たちが困ったのは、ほとんどの子供が「ゴミでできた化け物に襲われた」と証言したことである。途中まではうんうんと聞いていたが、そこでポカンとする大人たち。
落ち着いた状態で事情を聞いても結果は変わらず。
最終的には「何かがあって記憶が混乱している」と判断され、その日は軽く検査しただけで家族と共に家へと帰ることに。
事情聴取に関しては、また後日改めてということになった。
オカルト女子は最後まで自分たちはゴミの化け物に襲われたのだと言っていたが、カメラも録音機も紛失していたので結局信じられることはなかった。
ちなみに、オカルト女子のカメラと録音機は俊が預かっていたりする。
警察が来るまでの間に何か見落としがないかと探っていたら、オカルト女子だけ随分と格好が違うことに気付いたのだ。
悪いと思いつつも、急いで調べたら出て来たゴミの化け物がいたという証拠。俊たちが魔術を使って戦っている音や写真こそ無かったが、大人たちに知られると確実に面倒なことになる。俊も前世でいろいろあり、面倒ごとに敏感だ。
……ほとんどの場面で機能していないが、
現在オカルト女子のカメラと録音機は俊の『異空間倉庫』の中に閉まってある。何かの機会にデータを消して返す予定だ。
翌日の小学校は大きなケガも無かったからだろうが、音子と椿など肝試しに参加した子供の半数が登校していた。
残りは週明けに来るそうだ。
俊も疲れていたが教室にいる間ずっと椿の視線を感じるので、全部の授業が終わって帰る時間になった時、5人で話そうと屋上に連れて来たわけである。
いざ話そうとした時、昨日のことを思い出して遠~~~い目になってしまったのだが。菜々美もトラウマが掘り起こされたらしい。
俊・大悟・菜々美の3人にとっては、ゴミの化け物などよりも般若と化した母親の方がずっと怖い。小さい子供(約1名例外)が母親に勝つなど不可能なのだ! 狂暴化した河童やゴミの化け物の方がまだ勝機がある!
「そろそろ、いいかしら?」
やっと俊と菜々美が正気に戻ったところで椿が話しかける。
「音子にも聞いたけど、麻倉たちって、えーと、魔術師? って、呼ばれる存在なのよね? 昨日の不思議な現象は魔術によるものだって……」
「……もう隠しても意味ないから答えるけど、その通りだよ」
「今もその魔術で、ここに人が来ないようにしているの?」
「その通りだよ」
「……そう」
複雑な表情をする椿。
いろいろな感情が渦巻いているのが分かる。
しばらくは全員が黙ったままだった。
正確には、椿の次の言葉を待っていた。
「……昨日の化け物に殺されそうになった時に、音子に言ったんだけどさ、本当はね、魔法とか超常的なこと信じなくなったのって理由があるの」
「…………」
「少しだけ、聞いてくれるかしら」
そりゃ怒られますって。
音子は褒められるのに慣れてません。ケモ耳があったらペタンってなってます。
次回、椿が魔法を信じなくなった理由とは?




