第29話 VSゴミの化け物 後編
戦闘描写難しい。後で書き直すかも?
先に動いたのは、ゴミの化け物の方。
俊たちに狙いを定め、巨大な腕を大きく振り上げる。
「さっきと同じかよ。じゃあ同じく『中規模衝撃波:レベル5』!」
しかし、そんなことは俊が許さない。
先程ゴミの化け物の胴体にした攻撃を、今度は振り上げた腕の付け根あたりに対して発動する。目に見えない衝撃によって、胴体に喰らった時と同じように腕の付け根部分が大きくへこみ、そのせいで攻撃が中断されてしまう。
俊は通常の『衝撃波』以外にも応用として『中規模衝撃波』と『大規模衝撃波』の2種類を会得している。どちらも通常の『衝撃波』とは別の魔術とすることで、魔力の効率を良くしたり自分の中のイメージを区別して発動しやすくしているのだ。
レベルというのは、それぞれの威力を1~10までに分けたもの。発動する際に消費させる魔力量によって威力が変わってくるというだけだが、こちらも俊の中でイメージしやすいようにした結果だ。後は何となくカッコイイと思ったから。
本来なら『中規模衝撃波:レベル10』でバラバラにする程のダメージをゴミの化け物に与えたいところではあったが、転生後の今の身体にまだ慣れていないためか、今の俊にできるのは最大でもレベル5までである。
ゴミの化け物が大きくのけぞったのを見て、今度は俊たちが動き出す。すでに俊と大悟は『身体強化』を発動済みだ。
「大悟、今回は相手の特徴からオレは一歩引いた所で援護して、早々に決着をつける準備をする。当然オレも攻撃するわけだが、どうしても頻度が少なくなる。初戦闘で悪いが、大悟とポチ、タマの2匹がアタッカーだ。信じて任せるぞ」
「おうよ!」
「菜々美、さっき言った通り音子と火之浦を含む気絶した子供たちの側にいてくれ。簡単な指示でもポチとタマなら理解してくれるはずだ。落ち着いて指示しろ。この後すぐに2匹を強化。ピンチになったら例の防御魔術。まずはこれだけだ」
「は~い! いっくよ~! 『従魔強化』ポチ&タマ!」
俊に言われた通りに、すぐに魔術を発動する菜々美。
ポチもタマも見た目に変化はないが、全体の能力が上昇する。
『従魔強化』はその名の通り、自身の従魔を一時的に本来よりも強くする支援型の魔術だ。今の菜々美では2匹の従魔にほんの数分間、無いよりマシ程度の強化しかできないが実戦ではバカにできない。俊のスパルタ修行でなければ今日までに扱えるようになることはできなかっただろう。
「とにかく、このゴミ片っ端からぶっ壊してやる!」
前に出た大悟はとりあえず、1番近くにあったゴミの化け物の一部となっているゴミを殴って粉々に。その次に近くのゴミを粉々に、と繰り返す。
『魔拳』によって殴りつける攻撃がかなりの威力となっており、子供が(実際に大悟は子供だが)おもちゃのブロックを崩すように、家電製品から机などまでおもしろいくらい殴った衝撃で吹き飛んでる。ゴミの化け物が新たにゴミを補充してもお構いなしだ。
……殴ってる大悟の顔が非常に生き生きとしていることだけが、少々不安ではあったが。今後の小学校で習う道徳の授業はマジメに聞いてほしい。
当然黙ってやられる筋合いは無いので、ゴミの化け物もその巨大な腕で大悟を攻撃しようとするが、その度にポチとタマが腕に体当たりをして邪魔をする。
「ポチは右~! タマは左~! あ! 『瞬間防御膜』!」
菜々美の簡単な指示でもどうしてほしいかは伝わっているので、ポチとタマはすぐに行動に移す。腕の攻撃が当たりそうになれば、一瞬だけ従魔の身体を覆うように出現する『瞬間防御膜』が攻撃から従魔の身を守る。
従魔を――動物を大事にする菜々美は可能な限り傷ついてほしくないと、防御用魔術を発動するタイミングを見極める。
俊から見ればまだまだ粗が目立つものの、小学1年生の年齢でする初めての実践での動きと考えれば、2人ともよくできましたの花丸をあげるほどだ。
「魔術……やっぱり、すごい」
「何なの、コレ? あの化け物と、戦ってる? ウソでしょ……」
「ウソじゃない。魔術は、魔法はある」
「藤野崎、魔術って……」
「椿、ちゃんと見て。今ここで起こっていることは現実。まやかしなんかじゃない。俊たちが魔術を使って、戦ってくれてる。目に焼き付けて」
「…………」
椿は目の前で繰り広げられてる戦いを改めて見る。
自分と同い年の子供のパンチで化け物の体になっているゴミが吹っ飛び、犬と猫が信じられない動きで化け物の動きを妨害し、2匹の妨害が間に合わなくても突然化け物の一部が大きくへこんで動きが止まる。
自分の頬をつねると痛みを感じる。
間違いなく、自分の目で見てる光景は夢ではなく本物だ。
自分が否定し続けた、同時に待ち望んだ、光景だった。
「クソッ、やっぱダメか……」
音子の耳に聞こえてきたのは、俊の苦々しいつぶやき。途中までは大悟と菜々美の間の位置にいたはずなのに、いつの間にか音子の方まで来ていた。
「どうしたの?」
「あのゴミの化け物の核が見つからないんだよ」
俊が今回の戦いで一歩下がった位置にいたのは現在戦っているゴミの化け物、それの核を『分析』を使って探し出すためだった。
前世の世界でも周囲の岩を取り込んで4~6メートル程の人型になる魔獣で『ギガンタス』というのがいた(ゲームでいうところのゴーレム)。
そいつらは表面が硬質化した岩や土なので、体の一部を破壊しても時間を置くと周囲にある岩や土を取り込んで元通りになってしまうのだ。
しかし、倒し方はそれほど難しくない。ようは本体である核と呼ばれるものを破壊すればよいのである。個体によって核の位置は違うものの、『分析』を使えばどこに核があるか分かるのでそこを重点的に攻撃すればよい。
魔術師の実力者なら面倒だと、体を創っている岩ごと範囲魔術で内部の核を破壊してしまうのだが。
俊はゴミの化け物を一目見た瞬間から、体のどこかに核があり、それを見つけなければいつまでたっても倒せないと分かっていた。
高火力の攻撃手段がない現状では、早々に核のある場所を特定して一点突破の魔術で直接核を破壊するしか勝つ方法が無いのだから。しかし――
「さっきからゴミが流動してるせいで、『分析』が妨害されてる」
核が分からなければ倒せない。お荷物の子供たちを全員ここから連れ出すには人数が足りない。誰か1人が順次安全な場所へ連れて行くにしても、1人でも抜けられたら今の戦線を維持できない。いっそのこと『火属性魔術』か『雷属性魔術』でゴミの化け物を燃やそうかと考えたりもしたが、生き物でない以上、燃えた状態でも動く可能性もある。そうなったら目も当てられない。
さらに大悟と菜々美の残りの魔力のこともある。
実はかなり積んでいる状況なのだ。
「ねえ」
どうしたものかと俊が悩んでいると、音子が声を掛けてきた。
「何だ? こっちは考え中で――」
「核って、要はすごく大事なんでしょ?」
「まあ、命そのものだからな」
「だったら、咄嗟の出来事の時に、1番守るよね?」
「? さっきから何が言いたいんだ?」
「……私が見つける」
「はあ? 一体どうやって――」
『OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』
俊が音子の言いたいことを理解できずにいた時だ。ゴミの化け物が体にくっつけていたゴミの1つをボンッ! という音と共に飛ばしてきた。
音子や椿のいる所に。
「――っ! 『衝撃波』!」
咄嗟に飛んできたゴミ――大きな鉄の部品を『衝撃波』で弾き飛ばす俊。しかし安心したのもつかの間。次々と飛ばされてくるゴミ。ゴミ。ゴミ。
「大悟! 一旦こっち戻れ! オレだけじゃ防ぎきれねえ!!」
「お、おう!」
「へ? ……わあああ~!? 早く早く~!」
いつの間にか自分のことそっちのけで気絶して動けない子供たちにゴミを飛ばしていた相手。急いで大悟は俊たちの所へ戻る。ポチとタマも一緒だ。菜々美もずっと集中していて俊と音子の会話にも気付いてなかったが、俊の叫びでようやく自分たちのいる方へいくつものゴミが飛ばされてきてるのに気づいた。
「『硬化』!」
急いで戻って来た大悟は飛んでくるゴミが後ろに行かないよう、発動中に防御力を上げる『硬化』を使って正面から飛んでくるゴミに対処。俊は上から降ってくるゴミに対処。ポチとタマは万一に備えて菜々美の側にいる。
(オレらが後ろの子供たちを庇ってるの見越して攻撃し始めたのか? あのゴミの化け物の核がアレだとしたら納得だけど、そんなことどうでもよくなるくらいマズいな。……しかたない)
「音子。さっき核を自分が見つけるって言ったけど、本当にできるのか?」
「俊の見えない攻撃。アレをそれほど強くない威力でもっと全体を攻撃してくれれば、たぶん見つけられると思う」
「たぶんって……ああもう! 時間ねえし注文多いし面倒だな! 1度だけだぞ! たぶんじゃなくて絶対見つけてくれ!」
「OK」
音子がどうやって核の位置を割り出すのか知らないが、もうそれに賭けるしかなかった。俊は注文通りの魔術を発動する。
「……『大規模衝撃波:レベル2』!」
発動された魔術によって、ゴミの化け物の胴体だけでなく全体に衝撃が襲う。
『OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!?』
これにはゴミの化け物も驚いたのか一瞬だけ動きを止めた。だが、大した威力でないことにすぐに気付いて攻撃を再開。ゴミを飛ばしまくる。
「ほら注文通りにしたぞ! これでどうやって分か――」
「頭と胴体の間部分。つまり首。核があるとすれば、そこ」
「はい?」
「さっきから戦い見てるけど、俊たちの攻撃を受けるたびに、流動しているゴミの動き方が違っているように見えた。いつも胴体の上ぐらいにゴミが集まりやすかった。さっきの全体攻撃の時に、首にあたる部分に集まったゴミの方が、多かった」
人間でも突然攻撃を受けた時、咄嗟に守るのは急所だ。
頭や胸、男であれば股の間など。
ゴミの化け物の思考回路など音子には当然分からないが、少なくとも最低限考えて行動してるのぐらいは分かった。ならば、命そのものと言っていい核を意識してか無意識でか、1番に守ろうとするのではないだろうか?
つまり、攻撃された際に最もゴミを寄せた場所にあるものは……
「大悟! 最後に10秒だけしのげ! 菜々美! 2匹にオレがしてた上からのゴミの対処をさせろ! ケリをつける!!」
そこまで分かってからの俊は早かった。
2人の返事も聞かないうちに、ゴミの化け物に向かって走り出す。
ゴミの化け物は格好の餌食とばかりに俊に向かって、ゴミを集中させて飛ばす。そうなることなど分かりきっていた俊は『異空間倉庫』から即席の武器――木製の短槍を取り出す。そしてすかさず、武器の攻撃力・耐久力を上昇させる『武装強化』を発動。
一切止まることなく、飛んでくるゴミで直撃しそうなものは『衝撃波』で吹き飛ばし、それ以外で当たりそうなものは強化した短槍で弾く。
上から振り落とされた巨大な腕を避けるように跳躍。
一気にゴミの化け物の首付近に到達する!
『OOOOO!?』
危機感を覚えたのだろう、首周辺のゴミが集まりだしたが、
「もう遅い。『魔力超槍』」
俊が短槍を首部分目掛けて突き出す瞬間、強化された短槍に魔力のオーラが纏わりついて二回り以上大きな槍の形を生成する。
そして槍はやすやすとゴミの装甲を貫き……核へ届いた。
『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?』
響き渡る絶叫。
その核――黒い煙の塊は『魔力超槍』に抵抗しようとするが、
「いい加減に終われ『アンノウン』!!」
俊は残りの魔力をありったけ槍へと込める。
より一層魔力の光を輝かせた『魔力超槍』が『アンノウン』と呼ばれた存在を貫くのと、その負荷に耐え切れず木製の短槍が粉々になるのは同時だった。
『――!!』
直後、黒い煙の塊が霧散する。
同時にゴミの化け物の目に当たる所で光っていた電球の光も消えた。
次の瞬間には俊を巻き込んでゴミがガラガラと崩れていく。
「「俊!?」」「俊く~ん!?」「えぇ!? 麻倉!」
ゴミの化け物だったものが、ただのゴミの山になる。
急いで駆けつける大悟・菜々美・音子。ついでに椿。
ポチとタマは気絶した子供の側で待機だ。
とりあえずゴミを退かそうと大悟が手を伸ばした瞬間だった。バーンッ! という音と共にゴミの一部が吹き飛び、俊が姿を現す。
「ブッハー! ハア、ハア、死ぬかと思った……」
言葉とは裏腹に無傷の姿で。
「たく、心配したじゃねえ……か……よ……」
「「「…………」」」
「?」
無事な俊の姿を見て駆け寄ってきた大悟の言葉が不自然に途切れる。見れば女子3人も何とも言えない表情で俊を、正確には俊の頭の上を見ている。
そこで俊はようやく自分の頭の上に何かが乗っていることに気付いた。恐るおそる手に取ってみたそれは――と~ってもアダルティーな女性用のパンツ!
黒のスケスケでほとんど紐! 下着としての機能? そんなの2の次3の次だ! と言わんばかりの大人なパンティーだった!
そんな大人の下着を持ったまま、俊は夜空を見上げる。
「……河童との戦いの時といい、今回といい、何でオレってこう、最後が締まらないのかなー?」
死んだ魚のような目で。
Q.俊「何で最後が締まらないのかなー?」
A.作者「だって『逆転生』ってそういう作品だし(笑)」
ゴミの集まり方は戦闘に集中してる俊たちには分からないレベルです。音子の観察眼が飛びぬけていたために分かりました。
今の俊には『魔力超槍』は結構消費が激しいです。1番の原因は武器がただの木だったから。
次回、激闘を終えた俊たちに待っていたのは?




