第26話 あ~あ、だから言わんこっちゃない
「監視?」
「言い方はアレだけど、概ね間違いない」
「ホウレンソウみたいな?」
「そうそう。報告・連絡・相談ね」
現在俊は小学校の玄関から少し離れた所で音子と話していた。内容は今夜、音子も向かうつもりだというゴミ処理場での肝試しの件についてだ。
ちなみに、大悟と菜々美は先に帰らせた。
今日の修行は中止にし、自宅で待機ということに。
「何で?」
「うーん……妙な胸騒ぎというか、河童と出会う直前にも感じた嫌な予感がしてな。オレの思い過ごしならいいんだけ――」
「河童って、あの河童!? 見たの!? 会ったの!?」
「うおっ!? 急にテンション上げるな!」
普段が無口無表情な分、音子のテンションが急に上がると、どうしても驚いてしまう俊。
河童と会ったことがあるという情報に音子の目はキラキラだ!
「さっき携帯の連絡先交換したろ? それで連絡できる時に簡単にでもいいから今の状況を教えてほしいんだ。……ちゃんとやってくれたら河童の話してやる」
「イエッサー!」
目をキラキラさせた状態で、「君、軍の訓練でも受けたことあるの?」と疑問を覚えるくらい完璧な敬礼で答える音子。
なお、俊は河童の話に関して仲間になった時点で教えるつもりであったが、当然『俊、河童の命である皿を粉々に!』の件を音子に話すつもりはない。
わざわざ非難の目を向けられるようなことを話せようか!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夜。辺りが電灯無しでは心細くなる暗さになった頃。
俊たちが通っている小学校の側にある公園に、複数の影があった。
いずれも背は低く、懐中電灯などを手にしている。公園の端には彼らの物なのであろう自転車が人数分あった。
そう、肝試しのために家を抜け出してきた俊のクラスメイトたちである。
メンバーの中にはすでに音子と椿の姿がある。
今は最後の1人を待ってる最中だ。
と、そこへ、
「ゴメン、待ったー?」
チリンチリン、と自転車のベルを鳴らして現れた女の子。
自称、オカルト女子である。
「ギリで遅刻だよ」
「何してたんだ?」
「ゴメンってば。最低限の準備したうえで、家から抜け出さなくちゃいけなかったから、思ってたよりも手間が掛かっちゃって……」
「最低限って……え? その姿で来たの? え?」
子供の1人が困惑する。
それはそうだろう。みんなが普通の私服で持ってきたのは懐中電灯だけという中で、どこの探検家だと言いたくなるような装備で来ていたのだから。
「いやー、1年ぐらい前に河童がこの市の川で何度も目撃されたことあったでしょ? その時に絶対見つけてやる! って意気込みで整えた装備各種よ。結局、河童は見つけられなかったけどね。服なんかがギリギリ着れる大きさで……よかったよかった」
――いや、そういうことじゃなくて……
子供たちのほとんどがそう思ったが、何となく口にしても意味なさそうだと、結局言わないことにした。それ以外では、
「河童とか……妖怪なんているわけないのに……」
「……もしかして?」
椿が妖怪の存在を否定し、音子は俊が出会ったという河童とはもしや? と正解にたどり着いていた。2人とも小声だったので、誰も気付いていないが。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……よし、通り過ぎた」
「じゃあ移動再開」
メンバーが全員揃ったところで目的地のゴミ処理場へと移動を開始した子供たち。大人に見つからないよう慎重に進む。
そんな中、暇だった音子はふと、隣にいるのが椿であったことを思い出し、移動中の時間つぶしに話を振ってみることにした。
「ねえ」
「……え、もしかしてアタシ? ていうか、藤野崎から話しかけてくるなんて珍しいわね。いつも無口なくせに。で、何か用?」
「何で魔法信じない? 理由あるの?」
「――っ、ア、アンタって随分直球ね。普通聞かないわよ」
「他人は他人。私は私」
「何かやりにくいわね……別に、大した理由なんて無いわよ。魔法を信じない、ことになんて、そんな、理由、なんて…………」
段々と声が小さく、途切れ途切れになる椿。
音子はそれだけで、椿に何かあって魔法などの存在を頑なに否定するようになったのだと察した。本当なら魔法――魔術はあると言いたい。同じクラスに3人も魔術師がいるんだと、魔法のような不思議な力は現実に存在するんだよ、と教えてあげたい。
しかし、それは俊から固く禁止されている。
さすがに3日で約束を破るわけにはいかない。
なので、どうせだから今度この件を俊に相談しようと音子は決めた。俯いた椿の横顔がとても痛々しく見えたから。
「よーし、到着!」
そんなこんなで、ついにゴミ処理場に到着した子供たち。
近くの空いたスペースに自転車を置いて、フェンス越しに中を覗き込めば、処理施設に続く道とそこから少し離れた場所にあるゴミの山が見えた。
暗いことには変わりないが、施設の近くにある電灯で最低限の明るさが確保されているだけでなく、雲一つ無い夜空と引き込まれるような輝きを見せる満月によって、懐中電灯を使わなくても施設の中を確認することができた。
「懐中電灯いらなかったかもな……」
「そういえば昨日は雨だったからねー。余計お月様が光って見えるね」
「今更だけど、警備の人なんかもいないな」
「わざわざゴミ処理場で何かする奴なんていないからじゃない?」
「よっしゃ。とりあえずフェンス超えんぞ!」
ついにゴミ処理場に侵入する子供たち。
閉まっているフェンスをよじ登って敷地内に入る。女の子も普通に上っているが、特に気にした様子はない。これがもう少し成長した子なら、スカートの中が見えるからと言って上るのを躊躇ったり、下から登ってくる男の子に蹴りをおみまいするのがパターンであるが、残念ながら彼女らはまだ小学1年生。恥じらいの気持ちは持ち合わせていなかった。
例え音子が短いスカート姿で脚を大きく広げてよじ登っていても、誰も気にしない見向きもしない。音子本人も気になんかしていない。
で、全員が侵入してから少し。
「何も無いわね」
オカルト女子が帽子に装着された小型ライトを光らせ、双眼鏡で周りを見渡しても特に変わった所は見られなかった。
すでに場所は施設内でも奥の方だ。
敷地が無駄に広く、人が通れるような道があるとはいえ、薄暗い中で小山になっているゴミに当たらないよう気を付けて歩くのは地味に疲れる。
椿なども「やっぱり何もないじゃない」と若干ドヤ顔だ。音子には期待が外れたような表情にも思えてならなかったが。
そして、もう帰ろうか、と誰かが言い始めた頃だった。
辺りを見ながら歩いていた音子が急に足を止める。
「ストップ!」
「わ!? お、驚いた。どうしたんだよ急に」
「……今、何か動いた」
「はあ? アンタの見間違いじゃなくて?」
「あそこ。誰もぶつかってないのにゴミが動いた」
「あははは。やだなー音子ちゃんはー。そんなわけ――」
――ガラゴロガシャン!!
そんなわけないよ、と言おうとした子供の言葉が途中で止まる。
音子が指さした方のゴミの山が大きく動いたから。
「え?」
「な、何?」
一瞬の静寂。そして――
――ザ、ザザ、ザザーザザーザーザーザーーー!
砂嵐の状態になったテレビやラジオような音が聞こえ――
『ooooo……OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』
聞こえるはずのない叫び声が聞こえた。
「――っ!?」
「な、何なのよ一体!?」
「……は!? 録音装置オン!」
音子が目を見開いて警戒を最大にする。椿は突然の事態に狼狽えてしまう。オカルト女子はすぐに正気に戻って持ってきた録音機のスイッチを入れる。
他の子供は何が起こってるかも分からないという表情だ。
そして――ゴミが大移動を始めた。
ガラゴロガシャガシャと騒音を立てながら一か所に集まっていき、どんどんと形を作っていく。音が鳴り止んだ時、呆然とする子供たちの目線の先にいたのは、
『OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』
人の上半身のような姿をとった、ゴミの化け物であった。
「「「「「………………」」」」」
誰も、何も言えない中、いち早く行動に移したのは音子。
自分の携帯で俊の携帯に連絡を入れる。
――プルルル ――プルルル ――ガチャ
「もしもし俊? ミックスピザ1枚。チーズ多めで」
電話の向こうから「うちはピザ屋じゃねえ!!」という俊のツッコミが聞こえてきた。
音子、実はものすごく動揺しまくっていたりする。
次回、『ピンチに駆けつけるヒーローズ』




