プロローグ3 2度目の人生の始まり
本日3話目となります。
これでプロローグは終わりです。
「いたっ! いたたたたたたたたた! いたい! いたいー!!」
「俊!? どうしたの!? どこか痛いの?」
ここは日本のとある一軒家。
今日は熱すぎず寒すぎないポカポカした天気で、その家に住む今年で3歳になる息子とその母親がリビングでのんびりとテレビを見ている最中にそれ(・・)は起こった。
テレビに映ったありふれた番組の内容を理解しているのかしていないのか、母親と一緒に見ていた息子の方が突然頭を抱えて痛みを訴えだしたのだ。
「あたま! あたまがいたいよ! われちゃうよぉおおおおおお!!」
「俊、しっかりして!! 今すぐ救急車を呼ぶから! 大丈夫だから!」
母親は突然の事態に混乱しているものの、すぐさま救急車を手配してもらい、仲のいい近所のママ友にも電話で助けを求める。
電話後も必死に痛がる息子を何とかしようと励まし続けた。
一方、俊と呼ばれた子供はあまりの激痛にそれどころではなく、母親の励ましの言葉など聞く余裕がまるでなかった。
(なに!? なんなの!? おかあさんがなにかいっているけど、ぼくわからないよ! いたいいたいいたいいたいいたいいたい!!)
近所の人も駆けつけ可能な限りのことをしたが、一向に痛みは治まらず、救急車がようやく到着した時には叫びすぎてのどが枯れ、涙と鼻水でグチョグチョになっていた。
母親が付き添って救急車に乗せられ、病院へ向かう頃になると頭を襲っていた激痛の種類が変わる。
今まではとにかく痛いとしか感じていなかったが、少しだけ考える余裕が出てきたうえに、まるで頭の中に何かが流れ込んでくるような痛みに変わったのだ。
流れ込んできたのは膨大な量の情報だ。
それこそ、頭がパンクしそうになるほどの。
――エヴァーランド、レイアラース王国、平民、貴族、父さん、母さん、リウス、王様、魔術、魔獣、遺跡、魔法陣、光――
そして……とある1人の男。
『オレは……魔術師、アレン?』
「俊? 何を言っているの?」
急に出てきた日本語ではない言葉を最後に、子供は意識を手放した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(……あれ?)
子供が目覚めた時、最初に目に付いたのは天井だった。
(うーん? 身体の感じからして今は横になっている状態だよな? だとしたら目線の先にあるのは天井だろうけど……知らない天井だな)
知らず知らずの内にネタを言うとは、将来有望である。
(そもそも、ここはどこだ? 確かボクはテレビを見ながら魔法陣を発動させて、強烈な光で頭が割れそうなほど痛くなって、キューキューシャに乗せられたところで死んで……うん?)
ごちゃ混ぜだった。
しかも中途半端に文章になっている。
(何かおかしいぞ? ボクはシュンって名前で……いやいやいや、違うから。オレの名前はアレンだから。30代後半の子供で、3歳の魔術師のオッサンで……って訳分からんわ!?)
意図せずノリツッコミをするとは、やはり将来有望だ。
子供が自分で自分が分からなくなっている状況で、誰かが部屋の中に入ってくる気配が。
「俊? あぁ俊!! ようやく目が覚めたのね!」
入って来たのは20代前半の女性だった。
目を潤ませながら近づき、こちらを覗き込んでいる。
その時、子供の頭の中で咄嗟に出てきた言葉は――
「……お母、さん?」
「ええそうよ。お母さんよ! 本当に心配したわ。丸1日以上も意識が戻らなくて、昨日は全然眠れなかったんだから。お父さんにも連絡したから、明日か明後日ぐらいには会えるわよ」
「えっと……?」
「あ、そうだ! すぐに先生を呼ばなきゃ」
自分の母親だと認識している女性が、自分の側にある何かを操作しているのを見ながら、子供の方は何とかグチャグチャになっている頭の中を整理しようと、目を閉じて1つ1つの事柄を確認していった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「問題ない? そんなはずは――」
「ええ、ええ。奥さんがおっしゃりたいことは分かります。しかし、昨日病院に運び込まれた時点で行った検査でもそうだったんですが、頭の中を機械で詳しく調べても1つも異常が見つからなかったんですよ。今日の検査でもね」
「でも、実際にうちの息子は尋常じゃないほどの頭の痛みを訴えて、救急車で病院へ向かっている最中に気を失ったんですよ? それで異常がないはずは……」
「ええ、ですからしばらくは入院という形で。一応、私の方でも似たような事例がないか調べてみますので。よろしければ病院の外にある庭を息子さんと一緒に見ては? 奥さんの顔を見ると息子さんと何か気分転換をした方がよろしいように思えます」
「……分かりました。その件に関しては先生にお任せします。俊、車イスのままで悪いけどれ、ちょっとお母さんとお外に出ましょうか」
「う、うん」
あの後、頭の中を整理している子供はそのまま車イスに乗せられて、検査室まで連れていかれた。
正直に言って、目に映ったもの全てが見慣れないものばかりで余計混乱したため、聞きたいことが山ほどあったが後回しにして、とにかく記憶の整理整頓を心掛けた。
その結果――
(間違いない。オレはレイアラース王国の魔術師、アレンだ)
ようやく『自分』の存在をはっきりさせた。
(けど、どういうことだ? オレはこの女性から「シュン」と呼ばれ、ボクという一人称でこの女性のことを「お母さん」と呼び、そういうものだと認識していた記憶がある)
そこが問題だった。アレンにとっての最後の記憶は、あの魔法陣を自分の命を対価にして発動させた所だ。
あの時、魔法陣は確実に発動した。魔方陣が放つ光に自分は飲み込まれた。
そして今の状況だ。訳分からんとしか言いようがない。
(これがあの魔法陣の効果だったのか? 一時的に記憶を無くした状態で幼児まで若返り、どこか遠くの国に転移した? つじつまは合うが、何か違う気がする。そもそもどこの国なんだ?)
自分は10年近く掛けて世界中を見て回ったが、その時に訪れたどの国の言葉でもない言葉をここにいる人たちは使っている。
そう、自分も使っている。
その国の文化や魔術にも触れる機会はあったが、先ほどまで自分がいた部屋にあった見慣れない魔術具(?)など見たことも聞いたこともない。
答えが見えないことを自問自答していると、気付いた時には病院の入り口まで車イスに乗せられて母親(?)に運ばれていた。
「ほら俊。お外の空気吸いましょうね。この辺は汚れた空気を出すような場所もないから、思いっきり吸っても平気よ?」
病院の入り口から出て、その先の光景を見たアレンの口から出たのは――
「な、な、な……」
そこら中を行き交う車。
遠くで車よりも速く走り去る電車
空を飛ぶ飛行機。
様々な形状の建物と、いくつもあるビル。
3歳の子供ではあまり深く考えず記憶にもほとんど残らない光景だろうそれは、30年以上生きてきた記憶を持つアレンには……衝撃的過ぎた。
「なんじゃこりゃぁぁぁあああああああああああああああ!?」
――どっかの殉職した刑事みたいな叫びだった。
ここは地球の大小200近くある国々の1つ、日本。
アレンがいた世界エヴァーランドではない、異世界である。
異世界の人からしたら、異なる世界という意味で地球も異世界ですよね。
しばらくは毎日1話ずつの更新になります。
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