第22話 修行の成果
「私もね~? 魔術を使えるようになりたいから『未分類魔術』はすごくがんばって覚えたし~、1番素質がある『創造従魔』だって手探りだけど~、私なりに真剣に修行して使えるようになったんだけど~」
「わうん?」
「それまでの間がすごく厳しかったというか~、もう少し優しくしてほしかったな~って、思うんだよね~」
「にゃー……」
「やっぱりそう思うよね! 2時間ぐらいっていう短い時間だけど、その間ず~~~っと隣で『魔力の流し方が違う』『やり直し』『あ、ごめん。見てなかったわ。もう1回やって』って言われ続けるんだよ! よ~~やく、ポチを創造できた時も『ついに出来たか! おめでとう菜々美。よし、2匹目いってみようか』って、もう少し褒めてよ! 文章でいったら3行分は褒めてよ! 一言で終わらせないでよ! 2匹目のこと考えさせられる前に3週間分の努力を褒めてって! やけくそでその日のうちにタマを創造したよ! たまには愚痴を聞いてもらいたいんだよ~! 俊くんの鬼~~~!!」
「…………いや、それについては一応謝ってるじゃん。オレも悪かったかな~? って思ってるんだよ? だからさ、せめて人のことディスるなら本人のいない所でしてくれよ。オレが数メートル後ろにいるの忘れてない?」
本格的に大悟と菜々美が修行を初めて、すでに1ヶ月が過ぎた。
その日の学校や家庭の予定によってはできない日もあったが、基本的に毎日約2時間程度の修行をしたことで2人とも目に見えて成長した。
本来ならたとえ毎日のように修行したとしても、1日に2時間程度ではそれほど進歩しないが、そこは俊式スパルタ修行術。
短い時間の中でも成長できるよう、それはそれは厳しく指導しました。
菜々美がふくれっ面になるぐらい……
「実際の話、普段の生活で魔術に触れる機会がない分、短い時間の中で詰め込まなきゃ結構時間が掛かっちゃうし……反省してるから機嫌直せって」
手を合わせ、「ゴメン!」のポーズの俊。
それに若干ジトッとした目つきで見る菜々美。
「……ここに来るまでの道にあるパン屋さんの菓子パン。ポチとタマの分も含めて3つ。それで手を打とう~」
「わん!」
「にゃおーん!」
「ホント逞しくなったよな。食べ物を要求してくるとか……。さりげなく2匹の分も入れてるし。まあ、いいんだけど」
言葉での謝罪をするぐらいなら誠意(美味しいもの)で!
小学1年生にして、菜々美は社会の常識の1つを身に付けていた。
そして先程から菜々美の側でお座りのポーズをして尻尾を振っているのは、約3週間という期間の果てに、ついに創造された従魔のポチとタマである。
ポチは柴犬の姿。
タマは三毛猫の姿だ。
これは俊からのアドバイスだったのだが、魔獣が存在しない地球で最初に創造する従魔は普通に側にいても怪しまれない動物にするべきだと提案した。
いかにも強そうな狼やドラゴンなども魅力的ではあったものの、時と場合によっては菜々美をすぐ側で護る役目があるのに、街中で狼など連れていたらパニックになること間違いなし。ドラゴンに至っては論外もいいところである。
で、菜々美と俊は相談した結果、『創造従魔』によって創造されたのがポチとタマだ。
2匹とも一般的な柴犬と三毛猫の姿であるものの、テレビなどに出れば一躍有名になるほど賢く、身体能力も凄まじい。
ちなみに、菜々美は2匹の言っていることが分かってたりする。
どうやら『創造従魔』によって従魔を創造したことで、動物が何を言っているのかが大まかに分かるようになったらしい。
ポチとタマはもっと具体的に分かるとのこと。そして、自分の言葉も従魔でなくても正確に動物に伝わることも判明した。
リアル「ドクター・ドリ〇ル」である。
もちろん、普段は気をつけるよう注意している。
最初の『創造従魔』での問題点、創造された従魔は出現したままなのか? という疑問の答えはすぐに分かった。
ポチを想像できた時点で『召喚』と『送還』という魔術を菜々美が使えるようになったのだ。
調べてみた結果、菜々美の『魔術因子』の中に従魔の疑似魂を保管する領域が新たに創られていた。ポチとタマは普段、その領域で疑似魂と記憶や経験などの情報として存在し、『召喚』によって菜々美の周囲半径10メートル以内に現れる。そして『送還』によって再び菜々美の『魔術因子』の中へ保管されるのである。
『召喚』は使うたびに魔力を消費するが、『送還』はそうではないらしい。俊は仮説として、従魔の身体を創るのに魔力を必要とするのではないかと考えている。
「話は変わるけど~、謝るにしてもちょ~と頭が高いと思う~」
「何だと? ちゃんと頭下げてるというのに」
「……結果的に私が見上げなきゃいけない所で頭を下げても~、物理的に高い位置だから~、何か釈然としないんだよね~」
先程から俊がいる場所、それは……
「んぎぎぎぎぎいいいいいぃぃぃーーー!!」
「ただでさえ重そうな岩の上であぐらかくとか~、下にいる大悟くん顔が真っ赤っかだよ~」
「大丈夫だって。オレの体重ぐらい誤差だ誤差」
大悟が必死に持ち上げている大きな岩の上だった。
確かに誤差の範囲かもしれないが、それでも重くなることに変わりはない。俊が岩の上に乗った瞬間、大悟から抗議の声が聞こえていたが当然聞こえないふりだ!
大悟もこの1ヶ月で成長した。
俊の予想よりも早い段階で『強化魔術』を使えるようになり、最初の目標であった岩も持ち上げて見せたのだ。
これには素直に感心する。
なので今はもっともっと大きくて重たい岩だ!
麻倉先生は、がんばる子にはより高いハードルを用意するのだ!
最初の目標の岩よりも大きな岩を見た瞬間の大悟の表情は傑作だった、と後に俊は語る。
間違いなく鬼だ。
普通であれば、身体能力が上がっていても大悟の身体がおおきな――巨大な岩を支え切れるわけがないのだが、『魔術耐性』がその問題をクリアしていた。
『魔術耐性』とは、素質のある魔術に類する攻撃・現象に対して、防御力や耐性が増すことだ。
例えば『火属性魔術』の耐性を持つ魔術師なら、炎を使った魔術や普通の火を身体に受けても、一般人よりもダメージが少なくなるのである。
そして素質が高ければ高いほど、防御力・耐性も高くなる。
大悟の場合『強化魔術』の素質が突出して高いので、物理攻撃に関してはほとんどダメージを受けることはないだろう。
もうトラックに轢かれたってへっちゃらだ!
どうでもいいが、事故で大悟が異世界転生することはほぼ不可能になったと言っていい。
「いいから……早く降りやがれええええええええぇ!!」
ちょっと大悟、限界が来てるらしい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ぜぇー、ぜぇー、ぜぇー」
「大悟くん、お疲れ様~」
本日の修行は終わった。
荒い息を吐いて大悟は倒れ、菜々美は近くにあった大き目の葉っぱをうちわのようにして仰いであげている。
ポチとタマはすでに『送還』ずみだ。
「………………」
そんな中で俊は難しい顔をしている。
「? 俊くん、どうしたの~?」
菜々美の言葉に俊は小声で話す。
「……実はさ、今日修行場所に来てから、何か視線を感じる気がするんだ。気のせいだと思っていたんだけど……誰かいる」
「「!!?」」
菜々美は目を見開いて、すぐに従魔を呼べるようにする。
大悟も倒れた姿勢のまま、周囲を警戒した。
「……おい、どうする?」
「炙り出せないか試してみる。今から『衝撃波』をそれ程強くない威力でこの辺りを対象に、オレを中心にして発動するから備えとけ」
大悟と菜々美は目で了解する。
「……『衝撃波』」
そして、俊を中心にして波紋のように広がる『衝撃波』。
最初に影響を受ける2人が踏ん張り、近くを流れる川が波打ち、木々が大きく揺れる。そして、
「わ」
俊たちから30メートル以上離れた所から、第3者の声が聞こえた。
距離は離れていたが俊の耳は聞き逃さなかった。
「誰だ! 出てこい!」
すでに大悟は起き上がり、菜々美はポチとタマを呼び出す。
1秒、2秒、3秒と時間が過ぎていき、ガサガサと草をかき分けて出てきたのは……
「ばれた」
年は俊たちと同じくらい。ぱっちりした目に、大して驚いてなそうな表情。所々に葉っぱをくっつけたまま出てきた女の子。
「……あれ? おい、アイツって……」
「……ねこちゃん?」
俊たち3人は、その女の子のことを知っていた。
「オマエは……藤野崎音子。何でここに?」
「てへ」
当然だ。同じクラスなのだから。
(=・ω・=)ニャー!
次回、ここまでのニャンコの行動とは?




