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逆転生した魔術師にリアルは屈しました 【凍結】  作者: 影薄燕
第2章 あなたは魔法を信じますか?
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第19話 魔法を信じない者


 Q.麻倉俊くんに質問です。小学校に入って勉強が本格的に始まりましたが、実際に体験したうえでの感想は?

 A.国語なんかは新鮮でおもしろいと思ってます。もう少し上の学年になったら社会や理科などの教科もあるそうなので楽しみです。え? 算数や図工は? HAHAHA! そんなの決まってるじゃないですか。それは……


「それじゃあ、みんな。算数のおさらいから始めますよ。はい、1+1は~?」

「「「「「2-!!」」」」」

「よくできました~」


 ――こんなんだよ!


「いや、分かってたんですけどね。そりゃ最初から難しいのなんて始めませんよね。もうとっくに自分で学んだ範囲だったんですよね。けどオレとしては、もう少し応用なのをやってみたいっていうか、難しいかはともかく新しい発見との出会いを期待していたと言いますか……」

「ちょっと考えりゃ、分かったことだろうが。俊に付き合ってオレらも少し基礎になる部分はやったから、算数の時間は暇だし」

「ににんが4~にさんが6~」

忍忍にんにんが死んでー、兄さんがろくでもないー」

「いや待て俊。その覚え方はなんかマズい!」

「そこの3人。授業中に関係ない話はしないように。……それと俊くん、私もその覚え方はマズいと思うからすぐに直すんだよ?」

「「「はーい」」」




 俊・大悟・菜々美が小学1年生になってから、早いもので3週間近くが過ぎていた。入学式の翌日からのほとんどの時間はオリエンテーションで、学校の案内、クラスでの自己紹介、上級生が折った折り紙を貰って学校での話を聞く時間などが多く、帰る時間も早かった。

 そして幸運なことにも、3人とも同じクラスになれたのだ。クラスは1学年で5クラスあるが、そのどれに振られるかは発表の直前まで分からない。3人とも同じクラスだと分かった時は、手をつないでその場で回る踊りをした。


 国語や算数などの勉強が始まったのはここ最近で、俊からすると幼稚園の延長線のようにも感じていた。とは言え仕方がない。小学校では幼稚園の頃とはさらに環境も変わり、1年生は上級生や勉強関係のことに慣れることが最も必要なことだと思われる。


 実際、5、6年の上級生が教室に挨拶へ来たときは、ほとんどの子がどうすればいいのか分からないといった雰囲気であった。

 個別で話をする時間になると、大悟は体育の授業でどんなことをするのかを聞き、菜々美は飼育委員の人と盛り上がっていた。俊の場合、勉強のレベルや面白い行事についてまじめに質問をしていたが、俊と話していた上級生はそもそも勉強が苦手らしく別の話題にしたがっているようだったので、思い切って「好きな人はいますか?」と質問したところ、どんどん涙目になってトイレに行ってしまった。

 後でその上級生の友人が教えてくれたことだが、どうやら今年の卒業式で1つ年上の女の子に振られたばかりらしい。

 何というタイミングの悪さであろうか……


 国語や算数などの勉強が始まると、すごく嫌そうな顔をする子もいる。国語は漢字を覚えたり本を読んだりし、算数では簡単な足し算引き算しか今の所やっていない。他にも道徳や図工などもある。図工は幼稚園でもやった遊びと大差ないが、道徳に関しては俊は偉く感心した。

 幼いうちからやってはいけないことや褒められることを教えられるということに、改めて日本の教育水準の高さを知ったのだ。


 ……もっとも、その道徳の時間で先生が言った「動物を傷つけたらいけませんよ」という言葉を聞いた大悟と菜々美が2人して俊を見て、見られた俊が明後日の方向に目を向ける羽目になったが。

 ――すいません先生。自分、理由があったとはいえ、河童の皿を粉々にした前科があります。だから「みんなは、そんなことしませんよね」なんて笑顔で言わんでください。けっこう精神的なダメージが来てますので。




「『因果応報』って言葉があるけど、アレって普通悪いことした人を対象にして使う言葉だよな? 『河童事件』から1年近く経つのに、その言葉がまだオレを追っかけてくるんだけど……解せぬ」

「俊くん。いんがおーほー・・・・・・・って何~?」

「よく分かんねーけど、自業自得ってことじゃねーのか?」

「やっぱ解せぬ」


 今は給食の時間が終わって昼休みの時間だ。

 すでにいくつかのグループに分かれている子供もおり、教室にいる子や、校庭に遊びへ行った子などがいる。逆に1人でいる子供もいたりする。

 そんな中で俊たち3人は適当に教室にいたが、何人かの子供が議論している内容に耳を傾けることになった。


「ねえねえ、じゃあ魔法ってやっぱりあるのかな?」

「完全には否定しないけど……なあ?」

「そうだよな。テレビで紹介されてるのなんかも、9割がた偽物の映像だって父さんが言っていたし、最近じゃむしろ魔法だの魔術だの超能力だの言っているインチキの人を暴く番組だって多くなってきたって聞いたぞ」

「まあその通りなんだけどさ、実際にあったとしたらワクワクするじゃん?」


 どうやら魔法などの超常的な未知の力は実在するのか? という内容らしい。

 これを聞いた俊たち3人は苦笑い気味だ。そんな話を聞いている教室の中に本物の魔術師がいるのだから。俊は言うに及ばず、大悟と菜々美もすでに『未分類魔術』を使えるようになっていたので、いっぱしの魔術師を名乗れるようになっていたのだった。


「私たちが魔術師だって知ったら驚くだろうな~」

「菜々美」

「分かってるよ~。秘密だもんね~」


 声を小さくした菜々美に対し、念のため俊が注意をする。

 魔術と言う存在が無いとされているこの世界で、俊を含め大悟や菜々美が魔術を使えると知られれば大騒ぎである。だからこそ魔術を人前で使うのは余程のことが無い限り禁止としているのだ。うまく立ち回れる俊はともかく、大悟と菜々美の2人にはまだ対処ができるほど経験を積んでいるわけではない。なのでこの手の話にはボロが出ないよう十分に注意させている。


 と、そこで、


「その話待ったーーー!!」


 急に教室の扉がバーン! と開かれる。

 教室の中にいた全員の視線がそこへ集中した。

 扉の前の廊下に立っていたのは……


(オカルト好きの子だと!? 同じ学校だったのか!)


 『こっくりさん事件』から妙な存在感が出て、俊から「存在そのものがオカルトなんじゃ?」と言われたオカルト好きの女の子こと、名前がマジで分からない例のあの人・・・・・がそこにいた。よく見るといつも一緒にいた友達2人も後ろにいる。


 幼稚園にいた頃は特に変わった所も無い普通の髪型だったが、今は左側の一部を三つ編みにし、十字架の髪留めを身に付けていた。


「え? え? だ、誰?」

「隣のクラスの者よ! 私の名前h「こら! 大きな音を立てて扉を乱暴に開くんじゃない!」あ、すいませんでした先生、気を付けまーす。んんっ、仕切り直して、人はっていうか同じクラスの子は私をこう呼ぶわ。『オカルト女子』と!!」


 いつものごとく聞こえなかった名前に、俊は「小学生になっても名前が分かんねーのかよ」と半分諦めた気持ちになる。ついでに仕切り直すなら名前を言う所まで仕切り直せよという言葉はあえて飲み込んだ。そんなことを言ってもどうせ聞こえないし、話も進まないと思ったから。


「えーと……結局何しに来たの?」

「魔法とか超常的な現象に否定的な意見が聞こえてきたから、わざわざ隣の教室から駆けつけてきたのよ!」

「隣の教室って……そんな大きな声でもなかったのに聞こえたのか?」

「オカルト魂に不可能なんて言葉は無いわ!」

「ア、ハイ」


 幼稚園にいた頃と比べても、やたらとテンションが高いオカルト好きの女の子。何がそこまで彼女を変えたのであろうか……


「ふふふ、見なさい。学校での話題作り兼、オカルト好き仲間を見つけるために家から持ってきたこの『月間ヌー』を! ここには信用度の高い情報が詰まっているわよ。今月号の特集は魔法に関して。とくと見るがいいわ!」


 そこまで言われたら気になってしまうのが人間だ。先ほど議論をしていた子供たちがその本を見る。分かりずらい所はオカルト女子が丁寧に説明してくれているので、否定的な意見を持っていた子供も「もしかしたら本当にあるんじゃ?」と思い始めていた。


 そして、俊も少し興味があったので大悟と菜々美を連れて見に行こうかと考えている時だった。



「魔法なんてあるわけないでしょ!!」



 突然の大声に静まり返る教室。声のした先には、非常に不機嫌そうな表情で髪をポニーテールにした整った顔立ちの女の子がいた。


(あれって確か……火之浦ひのうら椿つばきだっけ……)


 俊もクラス全員の顔と名前を憶えているわけではないが、視線の先にいる女の子のことは印象的だったので覚えていた。


 名前は火之浦椿。

 初日の自己紹介では両親が神社で働いていると言っていた女の子だ。

 俊から見ても将来は美人になるだろうと分かるぐらい整った顔立ちだが、いつもムスッとしており、クラスの子供の誰も近づけないでいた。

 そんな子が目を吊り上げて、感情的になっているのである。


「何よ。否定的な意見があるのはしょうがないかもしれないけど、そこまで大声で言わなくてもいいじゃない」


 オカルト女子の言葉に余計睨みを利かせ、


「アタシは……魔法なんか信じない……!」


 そう言って、教室から出て行ってしまった。


「あそこまで否定しなくてもいいのにな」

「そうだよね~」

「…………」


 大悟と菜々美はいろいろと思うことがあるようだったが、俊は先ほどの火之浦椿の言動にむしろ違和感を感じていた。


 昼休みの時間に『魔法』が話題に上がりました。『魔術』よりも『魔法』の方が言葉としての認知度は高め。

 オカルト女子はパワーアップ。

 魔法を否定した子は神社の子なので、お守りをランドセルにいっぱい付けていますが、効果があるとはこれっぽっちも思っていません。


 次回、『魔術の修行開始 前編』


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