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逆転生した魔術師にリアルは屈しました 【凍結】  作者: 影薄燕
第2章 あなたは魔法を信じますか?
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第17話 てーへんだ! てーへんだ!


 大悟と菜々美の得意魔術が分かってからすでに1ヶ月以上が過ぎ、幼稚園の卒園式まで後2ヶ月ほどとなっていた。


 この頃になってくると、菜々美だけでなく、他の子供たちも舌足らずなしゃべり方では無くなってきており、俊は逆に前のしゃべり方の子供たちが懐かしくなってきていた。その時の表情も考えも、子供ではなく年を取った親のそれに近かったが、本人は全く気付いていない。

 母親や先生から「急に大人っぽい顔つき――というか、老人みたいな雰囲気になっているような……」などと思われていたが、本人は全然気付いていなかった!


 俊は前世の記憶が戻る前から元々よくしゃべる性格で舌足らずさがあまり無かった事に加え、記憶が戻ってからはハッキリと何を話すのかが分かっていたのでスラスラと言葉が出た。

 大悟は舌足らずさはあったが、俊とよく一緒にいるようになったことで他の子供と比べると年齢の割には子供っぽいしゃべりでは無かった。

 菜々美は元々の性格からか今でも子供らしいしゃべり方だが、俊や大悟と行動するようになってからか、河童との出会いと別れの経験からか、普段の言動と比べると内面はかなりしっかりしてきた印象だ。相変わらず語尾を伸ばす独特の口調は変わらなかったが……


 すでに大悟と菜々美の2人は魔力に身体が慣れてきたので、しゅん監修のもと『未分類魔術』を使えるように努力している。俊としては日常で魔力を感じる機会がない分、習得には少し時間が掛かると予想していたが、思った以上に2人とも真剣に取り組んでいるので、『未分類魔術』であれば意外と早く習得しそうだった。




「そういえば俊の母さんって最近どうなんだ? もうすぐ生まれそうだから父さんが付きっ切りでいるんだろ?」

「出産予定日は来週らしいけど、体調崩したりすることは今のところ無いよ。お腹の中にいるのが双子だし、明後日辺りには病院に入院しちゃおうって話」


 現在しゅんと大悟がいるのは、大悟の母親の運転する車の中だ。

 ここ最近は幼稚園の帰りを大悟の母親にしてもらっている。

 さすがに俊の母親もお腹も大きくなって運転が厳しくなったので、大悟の母親に頼んでいる形だ。快く引き受けてホッとした。


 父親の方は万一に備えて、双子が生まれるまで余裕を持って家にいられるよう仕事の予定を調整していたので、しばらく前から家にいる。事あるごとに母親を心配するため、逆に母親の方が精神的に疲れ始めた時は「ちょっとOHANASIしようかファザー?」となった。

 30分ほど。


 父親への説教の後で、俊がお腹にいた時もそんな感じだったと母親はフォローしたが、本当にちょっとしたことでも「大丈夫か?」「一緒に付いていこうか?」「本当の本当に大丈夫なんだよね? ね!?」などと毎日言われ続けたら嫌になるだろうが、と俊は思った。

 その話を聞いて、ようやく足の痺れが取れてきた父親を再び正座させたのは言うまでもない。母親のフォローは逆効果になっていた。

 父親が解放されたのは、それから1時間後でしたとさ。


 ちなみに、話の流れでその時の出来事を先ほど大悟の母親にしたところ、大笑いしてハンドルをバンバン叩いていた。念のため信号待ちの時にしといて正解だ。運転中であればハンドルが乱れていたかもしれない。叩かれたハンドルからミシッと嫌な音がした気がするが、


「いやーきれいな夕焼け空だなー」

「え、いきなりどうした?」


 唐突に窓の外を眺めながら、俊はそんなことを言った。この後の運転に支障が出てもきっと自分のせいではないはずだ。そうに決まっている。

 だから無事に家に帰れますように!




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 家には無事に着いた。

 車から降りる際に大悟の母親がハンドルを触りながら「おっかしーなー?」とつぶやいている姿が目に映ったが、きっと幻覚と幻聴だ。


「ただいまー」

「おかえりなさい俊」


 家のドアを開けると、出迎えてくれたのはお腹が大きくなった母親だ。いつもなら父親が出迎えてくれているのだが、どうも仕事関係で電話中とのこと。


(今更だけど、このお腹にオレの弟と妹がいるんだよな……)


 毎日少しずつ変化していたため実感が無かったが、自分の母親の大きくなった重そうなお腹に2つも命があると思うと何とも言えない気持ちになった。

 と、そこでふと疑問が。


(あれ? 何ていうか、この気持ちって……もしかしなくても、兄としての・・・・・気持ちと言うより父としての・・・・・気持ちに近いんじゃ……?)


 麻倉俊、6歳。精神年齢は今世の父親よりも上。

 玄関で立ち止まったまま、オレ兄ちゃんとしての役割果たせるのかなん? と自問自答した。父親役が2人もいたら変だろう、と。




 事態が急変したのは、俊がリビングでテレビのクイズ番組に挑戦し、母親が父親の手を借りて夕食の準備をしている最中だった。


――ガシャーーーン!


「――っ!?」


 いち早く反応した俊が振り向いた先で目にしたのは、床に落ちて割れた食器と、お腹を押さえて苦しげな表情をする母親の姿であった。


「陽子!? どうした大丈夫か!?」

「だ、大丈夫じゃないみたい……生まれちゃうかも」

「な、なんだってー!?」


 どうやら予定日よりも1週間ほど早く産気づいたらしい。

 真一はかなり焦った。俊が生まれる時はほぼ予定日通りに生まれたので、今回もそうだろうと何となく思っていた所でこれだ。

 とにかく救急車を呼ばなくてはと電話を取ろうとすると、


「ええ、母が予定日よりも早く産気づいたそうでして。ええ、救急車の手配をお願いします。幸い緊急を要するほどではありませんが早急にお願いします」


 父親である自分よりも先に、息子である俊が救急車を手配していた。


(えええぇぇ~~~~!?)


 自分が焦っている間にさっさと病院に電話していたらしい息子の行動に、真一は心の中で驚く。

 ――オレの息子、まだ6歳だよね!?


「あの、俊――」

「父さん何やってるの! 母さんの側で手を握るぐらいしなくちゃ! 余裕があるんだったら、きれいなタオルに、石鹸・ぬるま湯・きれいなハサミ・汚れてもいい母さんの服なんかを用意して! それと夕食の準備していたんだったら、火は? 水は? すぐに止めて! 割れた食器は母さんやこの後来る救急車の人がケガをしないように、さっさと片付ける! 保険証とか大事なものはそこの引き出しに纏めてあるんだから忘れないように!」

「ア、ハイ」


 完璧な対応だった。

 俊はもしもの時に備えて、本棚にあった妊娠中の女性に関する本を全て読み、その中で重要な内容を暗記していた。

 父親の運転で母親を病院に連れて行かないのも、病院がそれ程遠くの位置ではないこと、今の時間帯で病院から家までのルートが比較的いていることを事前に調べていたからである。


 父親が行動し始めたのを見た俊は、母親を心配しつつ、坂本家に電話を掛けた。


「もしもし、坂本さんですか? 麻倉です。ええ、俊です。こんばんは。早速本題に入りますが、母が産気づきました。すでに病院には連絡を入れたのですぐに救急車が来ます。自分も父と共に救急車に乗る予定ですので、事前に説明した通りプランBでお願いします」

「ちょっと待て、プランBって何だ!? 坂本家の人と何を話した!?」

「父さん手を止めない! 後1、2分で救急車が来るはずだからしっかりする!」

「ア、ハイ。ワカリマシタ」


 息子がしっかり過ぎて、こんな状況でも無ければ口からエクトプラズムでも吐き出してしまうかもしれなかった真一。

 心を無にして作業に取り掛かる。


 ちなみにプランBとは、俊が母親の出産予定日が近づいてきた時に、大悟の母親と2人で話し合って決めておいた、緊急事態に陥った場合の対処法の1つだ。

 と言っても、俊が1人でいくつかの予測しうるパターンとその対処の仕方を先に考えて紙に書き、どこか不備が無いかを大悟の母親に見てもらうという形であったが。


 その時、大悟の母親は「俊くんは賢いねー。うちの息子には無理だな!」とケラケラ笑っていたが、大悟じゃなくても6歳の子供はそんな事できない。普通に考えて俊が異常なだけであった。大悟の母親の感じ方が少々ズレていて助かっていた。


 それから俊が言った通りすぐに救急車が到着し、俊は父親と共に母親に付き添う。救急車の中で父親と一緒に手を繋いで母親を安心させる以外、もう俊にできることはなかった。


 そして……


 俊の母親が産気づきました。

 父親が軽くパニックになっている中、俊は超テキパキ行動しています。

 大悟の母親と事前に決めておいたプランはA~Jまでの10個。

 最初は笑っていた大悟の母親も、最後は引きつった笑みに・・・


 次回、ついに舞台は小学校へ


 ふすまの張替えが終わったと思ったら、第2、第3、第4、第5&6のふすまが・・・

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