第15話 大悟と菜々美の魔術
第2章の開始です。
「あ~あ、カッパの目撃情報がとだえてずいぶんたつなー。結局お父さんと目撃された場所を見てまわっても、なーんにもなかったんだもん」
「そう言えば最近はぜんぜん聞かないね」
「どっか行ったんじゃないの?」
「あ~、やっぱりそうなのかな? お父さんからカメラとか借りて、じゅんびばんたんで挑んだのに。しょうこ写真をとるための最新カメラも、高性能録音機も、双眼鏡も、探検用の帽子・ゴーグル・手袋・上着・ブーツのセットまでそうびしてたけど結局使わなかったし、ゆうこうをむすぶためのキュウリは帰りにやけ食いしたし……」
「え~と……何? そのテレビの人がひきょーに行く時のそうび? え? まさか買ったんじゃないよね? カッパのためだけに!?」
「ていうか、何でキュウリ?」
俊たちが河童と出会ってから数ヶ月が経った。
ある程度事情を知っている俊たちはともかく、何も知らないはずの一般人からしたら、テレビでも頻繁にやるような未確認生物の特集の話題の熱がすでに冷めている状態だ。実際、俊たちと別れた正気に戻った河童は特に問題なく故郷に帰れたからこそ、目撃情報がピタリと無くなったのだろう。
俊・大悟・菜々美の3人もオカルト好きの子が話している横を通り過ぎて、あの後で問題なく河童が帰れたのであろうことを安心していた。
「カッパさん元気にしているかな~?」
「ぜってー元気だろ。案外今もオリンピックの選手ぎょうてんの演技で、川に飛び込んでるんじゃねーか? もうおどろかねーよ」
「ははは、確かに。あの河童なら新技の開発もしてそう。いつか3人で河童の故郷を見つけ出して、遊びに行くのもいいかもしれないな」
「さんせ~い!」
「……おいシュン、どうやって見つけるつもりだ?」
「それはもちろん、『こっく――」
「やめろ!!」「やめて~!!」
河童に再び会うことには賛成の大悟と菜々美だったが、『こっくりさん』だけは断固として拒否する姿勢だった。
だって、怖いから!
「何がそんなに不満なんだよ!?」
「全部だよ! 『こっくりさん』はもういいんだよ! それよりもオマエの魔術で何とかするって考えはねーのか!?」
「わたしも『こっくりさん』だけはイヤ~!」
「あのな? 索敵とかに関係した魔術はあるけど、特定の生物だけを探し出す魔術なんてのは無いから、オリジナルで創らなくちゃいけないんだよ。そんなのはっきりと系統があるわけじゃないから、年単位で時間掛かるだろうし面倒だ。最悪がんばったけど無理でした、なんてことになる」
オリジナルの魔術を新たに創り出すのに特に重要なのがイメージだ。
だからこそ、属性系のオリジナル魔術は長い年月の中で徐々に増えていき、創った本人以外でも習得できる者がいる。それは属性系の魔術が基本的に見て、どんなものかを知ることが難しくないからだ。
例えば、螺旋状に回転する炎の槍を生み出す魔術が新たに創られたとしよう。最初は分からなくても、どのように炎が動いて、どのような効果があるのか、それを分かりやすい形で知ることができる。後は自分も何度も見て説明を受けた魔術を再現できるように、何度も練習すればいい。素質によってできる魔術できない魔術というのも出てくるが、基本は先ほどの通りだ。
人から直接教わる以外にも、本として記録に残されるようになってからは絵と説明だけでも再現できる魔術師だっていた。
ただし、これが『強化魔術』や『空間魔術』のような分かりやすく目で見ることができない、イメージが難しい魔術になると、途端にオリジナル魔術を創り出す際の難易度が跳ね上がる。
『強化魔術』を他人に教える時の場合、どのような魔術であるのか、どのように習得したのかを説明して自分で使うことはできるかもしれないが、大抵の場合は見た目に変化が無いことが多いので、実際に自分でやってコツを掴むしかない。後は本人次第だ。元々、感覚的に覚えるものだというのもあるが。
『空間魔術』はさらに難しい。何が難しいのかと言えば、うまく説明することができないのだ。
空間というただでさえ曖昧なものに、ほとんど自分が掴んだ感覚で使用する魔術の1つである『空間魔術』についてもどのようにできるのか、説明が言葉で表せないのである。このような魔術に関しては結論から言うと「自分の力で努力しろ」以外何もアドバイスできない。
現在も俊が母親に使っている無事に元気な赤ん坊が生まれるようにするオリジナル魔術も、たまたまリウスの奥さんが妊娠していることが分かる前に、アレンが研究していた魔術を応用の形で使えることが判明したから、数ヶ月という短い期間で開発することができた。
俊はその辺りの魔術事情を2人に分かりやすく説明する。
「ふ~ん、つまりシュンの使うオリジナル魔術の『衝撃波』も『空間魔術』にあたるわけだからスゲーってことだな」
「すご~い」
「ぶっちゃけ、すごいで済まないくらい苦労して創り上げたんだけど、そこ話したらキリが無くなるから今は置いておくぞ。ようはオレの魔術の素質で、今からどこにいるかも分からない河童を見つけ出す新しい魔術を作るのは現実的じゃないってことだ。だから、やっぱり『こっくり――」
「「却下!」」
「ちくせう」
2度目の提案も最後まで言い切ることなく却下された。
どんだけ『こっくりさん』を気に入ったのであろうか……
「そんなに言うんだったら自分で創ればいいんだよ。ついに魔力を感じられるようになったんだろ? 何の魔術の素質が高いかにもよるけど、場合によってはオレが作るよりも早く創れるかもしれないんだし」
「あ、そうか。そう言えばそうだったな。今日だったっけ? オレらがどんな魔術が得意なのか調べるの」
「まりょく感じるまでがんばったからね~」
現在、大悟と菜々美の2人には『河童事件』の前まで無かった『魔術因子』がその魂に存在する。そして先日、ついに魔力を感じ取れるようになったのだ。
『魔術師覚醒用特殊魔術』
それが大悟と菜々美を『魔術因子』を持つ者、つまりは魔術師にした普通の方法ではない、俊が前世で1人前の魔術師となってからの目標として、10年近い年月を掛けて創り上げたこれまでにない全く新しい魔術であった。
まず魔術師ではない者にこの魔術を施すことができる適性を持つかを調べる。適性を持つのであれば次の段階へ。適性を持たないのであれば残念ながら魔術師になるのはあきらめるしかない。適性が無い者に対して無理にこの魔術を使おうとすれば拒絶反応が起こり、最悪の場合、魂に修復不可能な悪影響が出る可能性がある。そのため、適性者以外は絶対にしてはいけない。
そして次の段階であり最大の難関は、この術を使う魔術師、つまりは俊になるわけだが、その魔術師の魔術因子の欠片を対象の魂に移して定着させるのだ。
『魔術因子』は魂に宿る。その『魔術因子』から切り離しても時間が経てば元に戻るほどの、その魔術を使う魔術師に悪影響が出ない小さな欠片を適性者の魂に移し、安全に定着させるのがこの魔術だ。定着した対象の魂に存在する『魔術因子』の欠片は徐々に適性者の魂と1つになっていき、個人差はあるがしばらくして適性者を魔術師にする。
聞くだけなら簡単そうに思えるが、自分の魂から『魔術因子』を後で再生するほどの欠片とは言え、それを切り離す作業はとても難しく、上級者の魔術師でなければ危険と隣り合わせとなってしまう。取り除いた欠片もすぐに再生するわけでは無いので、最低でも1度に2人までとし、半年から1年は時間を空けなければならない。
俊の前世であるアレンがこの魔術の完成を目標としたのも、アレンが生まれた時点でとある事情によって魔術師の数が目に見えて減ってきたからだ。前例など全くない未知への挑戦であったが、アレンはやり遂げた。そして他の魔術師でも使える可能性を残すために分厚い本にまとめ上げ、それを国王に献上した。しばらくして、アレンが何人かの適性があり、魔術師になりたいと希望する平民を魔術師したことでついに認められる。そして国王直々に表彰された。
(あの時は誇らしかったな……でも……)
自分が胸を張ってやり遂げたことだ。他の誰にもできなかったことだ。たくさんの人から褒められた。本当にうれしかった。
だから、気付けなかったのだ。
それが、悪意にさらされる事と隣り合わせであることに。
「シュン! どうしたんだよ!?」
「え!? ああ、ごめん。ちょっとトリップしてた」
「ずっと、ボ~としてたよ~?」
今3人がいるのは俊の部屋だ。
幼稚園が終わり、大悟と菜々美の魔術の素質を確認する時が来たのである。
結界もはってあるので母親たちが来ることもない。
「く~! どんな魔術が使えるのか楽しみだぜ!」
「まあ、今回は1番得意な魔術を調べるのが目的だからな。1種類しか魔術の素質がないなんてことはあり得ないけど、1年ぐらいは得意な魔術を伸ばして、次に繋げるようにしたいと思っているよ」
「わたしも楽しみ~」
「大悟は『強化魔術』が得意なのは決定として、菜々美はどんな魔術の素質が1番高いんだろうな? 世界そのものが違うから、未知の魔術が出る可能性も捨て切れないし……やっぱり後方支援向きの魔術とかか?」
「ちょっと待て! オレの1番得意な魔術が『強化魔術』ってのが決定ってどういうことだよ!?」
その場で立ち上がり、俊に詰め寄る大悟。
「だってなー、オマエが頭使うような難しい魔術や後方支援向きの魔術が得意だなんて想像つかないし。万一にでも後方支援向きの魔術の素質が1番高くても、絶対に痺れを切らして突撃する未来しか見えないよ。杖持って魔術放ってたけど、敵が近づいたから鈍器代わりに杖で殴り飛ばすっていう光景が簡単に想像できる」
「ぐっ……! ひ、否定できねえ」
もし本当に大悟の1番得意な魔術が後方から魔術を放つタイプなら、魔力制御や効率化のための魔術具の杖は特別なのを用意しなきゃ、と俊は思った。
――杖の先端部分をハンマーにするべきか?
「とりあえず後ろ向け。『分析』で調べて、どの魔術の素質が1番高いか見てやるからさ」
「よ、よーし、ドンと来い!」
そしてついに、俊が大悟の背中に手を置き、『分析』を発動させた。
俊は大悟の持つ魔術の素質を念入りに調べ上げる。
――その結果、
「おめでとう大悟。オマエは『強化魔術』に天賦の才があるぞ」
「いや何となく分かってたけどな!」
俊の予想通りになった。
調べて分かったのが、他の魔術の素質がほとんど平均よりも低いのに対して、『強化魔術』だけ突出して高かった。
よく言えば、大悟は接近戦では無類の強さを誇る魔術師になれる才能を持っている。悪く言えば……脳筋確定だった。
そのことを俊が伝えると案の定、微妙な顔になる大悟。
「次はわたし~!」
何とも言えない雰囲気の大悟など知ったことかと、俊の側に駆け寄り背中を向ける菜々美。非常にワクワクした顔をしている。
本当にコイツも成長したよな、と思いつつも大悟と同じように『分析』で菜々美の持つ魔術の素質を調べた俊は、
「な!? ま、まさか……?」
驚愕の表情になった。
「ど、どうしたの~?」
大悟の時とは全く反応が違うことに不安を覚えて、菜々美は先ほどまでとは変わり緊張した様子で俊に尋ねる。
「まさか本当に……『創造従魔』?」
『河童事件』からそれなりに時間が過ぎて、いろいろと成長した大悟と菜々美。俊が『こっくりさん』をやろうものなら、チョークスリーパーをしてでも止めます。
大悟は脳筋です。考えるのは俊に任せます。
そして菜々美の魔術に俊がビックリ。
次回、『創造従魔』
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