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逆転生した魔術師にリアルは屈しました 【凍結】  作者: 影薄燕
第1章 異世界の魔術師が現代日本に転生!?
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閑話 虫歯の恐怖

時系列は『河童事件』の数週間後です。


 それは、とある日の幼稚園での出来事だった。


 幼稚園では子供たちが良い子に育つように遊び以外でも様々な事をする。

 絵本を読んで読解力の向上に繋げたり、おもちゃで遊ぶ際のマナーを教え込んだり、食事の時の「いただきます」と「ごちそうさまでした」を自然に言えるようにしたり、歌・絵・運動を楽しく学んだりするのだ。


 この日は歯磨きの大切さを先生が教えていた。

 先生が歯ブラシを持って「虫歯にならないように、しっかり歯を磨こうね~」と言いながら、磨き方をレクチャーするのである。


 子供たちの反応はそれぞれだ。

 俊はまじめに先生の話を聞いて、しっかり覚えようとしている。

 大悟は母親から散々聞いたことだと飽きていた。

 菜々美は磨き方が次の段階に進むと、前の磨き方を忘れそうになっていた。


 そんな歯磨きレクチャーが終わった後の休み時間のことだ。


「あ~あ、聞いててあきるな。もうおかーさんから耳にタコができるぐらい言われたよ。今さらわすれないってば」

「だよね。さいきんじゃ、1人でできるようになりなさいって」

「はみがきしないと大変だぞってみんないうよね」

「ちゃんと大切なのは分かるからするんだけどさ」


 どうやら、歯磨きの話をしているグループがいるようだ。

 話の内容は、親から歯磨きのことをもうずっと聞いているんだから、ここでわざわざしなくてもいいのに、というものであった。


 その話は近くにいた俊たち3人も聞いていた。


「まあ気持ちは分からなくはないけど、歯磨きは生活習慣の中でも得に大事なことだからな。親だって何度も言いたくなるし、我慢してほしいね」

「どこの家でも言ってることだもんな」

「はのうらが1番むずかしいんだよね~」


 俊たちがそんなことを話していると、歯磨きの事を話していたグループの所に別のグループの子供がやってくる。


「バッカだなーオマエら。何をそんなまじめに言ってるんだよ? はみがきなんてめんどくせーし、パパッとおわらせればいいじゃん」

「そ-だよ。大人のとはちがって、オレらはそんなにみがく所ないし」

「さっさとねちゃいたいもんな」


 近づいてきたのは歯磨きのことを軽視している子供たちのようだ。


「えー、でもむしばになると大変だっておかーさんが……」

「そんなのその時に、はいしゃさんに行けばいいんだろ?」

「でもなー」

「どうせ何年かしたら、はが生え変わるんだし今ぐらいサボってもいいじゃんかよ。オレの兄ちゃんが言っていたけど、むしばになってもすぐにはいしゃさんに行けば、てきとーに口をあけている間にちりょうはおわるって聞いたぞ?」

「でも、はいしゃさんってお金とるんでしょ? おとーさんが汗水たらしてがんばったせいかだから、むだづかいしちゃダメだって……」

「べつにむだづかいにはならな――」

「ボクは――」

「わたしは――」


 2つのグループはそのまま歯磨きが重要か否かを話し合う。周りにいた子供たちも面白がったのか、どんどん集まりだして話に加わっていく。


 近くに先生もいるが、ケンカしているわけでもなく、ちょっとした意見の違いを話し合うのは将来的にもいいと思っていたので、長続きするかヒートアップするまでは見守ることにしていた。


 気付けばその組の子供が全員集まった。

 それぞれ意見し合い、少し話に熱が出てきたので、見守っていた先生も「そろそろ止めに入ろうかしら?」とイスから立とうとした時、



「オマエら、本気で、歯磨きを、軽視、しているのか?」



 この場に似つかわしくない、地の底から聞こえてくるような声がした。


 そこにいる全員が声のした方を向く。

 そこには、仁王立ちした俊がいた。

 「ゴゴゴゴゴ!」と謎の音が聞こえてきそうな、鋭く目をとがらせた、「え? 声変わりしてないよね、君?」と言いたくなるような麻倉俊が!


「ど、どどどどうしたんだよシュン?」

「はわわわわわわ~」


 俊のすぐ側にいた大悟と菜々美は尻もちをついていた。

 当然だろう。歯磨きの話を、というよりも歯磨きのことを軽視している子供の話を聞くたびに、目に見えないオーラのようなものをどんどん纏いだし、目が怖くなっていっていたのだから! 段々と時間を掛けて変化するぶん余計に怖いのだ!


 目に見えないオーラを纏い仁王立ち状態になった俊は、本当にそうなったわけでもないのに髪の毛が逆立っていると錯覚するほどの威圧を放っている。

 ノリのいい人物ならば、思わずフキダシで「クリ〇ンのことかー!!」と入れたくなってしまうかもしれない。そんな雰囲気の麻倉俊5歳!


「な、何だよイキナリ……」

「本当にどうしちゃったの?」


 先ほどまで話し合っていた子供もメチャクチャ引いている。


「貴様ら、虫歯をなめるとは何事だ!?」

「「「「「ひっ!?」」」」」


 まるで劇画のような顔つきになる麻倉俊5歳!

 中身は30年以上異世界で生きてきたオッサンだが、可能な限り子供に見えるよう努力してきた俊。しかし、そんな事情を知らない人からしたら、その変わりようもあってより一層引いていた。先生も硬直してしまっている。


「いいか? 虫歯というのが一体どれほど恐ろしいものなのか教えてやる。最初はほんのちょっとしみるぐらいだろう。冷たい飲み物を飲んだ時なんかに感じるが、気のせいだと放置する。だが、それがどんどん気になり始め、何もしていなくても気になってきたらすぐに治療しなくてはならない。だと言うのにめんどくさがって放置すればどうなるか……!」


 俊はズイッと前に足を踏み出す。

 みんなは逆に一歩下がる。


「ついには毎日歯が痛くなってくる。歯の痛みは頭にもきて何をするにしても集中できず、イライラする。周りに八つ当たりしても何も解決しない。痛みはどんどん酷くなる。日常生活を送るのさえ困難になるほど……な」


 また俊は足を一歩前に踏み出す。

 またみんなは一歩下がる。あ、下がる時に滑って転ぶ子が何人か。


「普通の治療をしようにも、もう遅い。仕方なく歯を抜くことを決意する。それが本当の地獄の始まりだとも気付かずに。ものすごい痛みを我慢してついに抜けた虫歯になった歯。これで一安心だと思ったら大間違い。歯が抜けたのを見計らったかのように、歯があった穴に入り込む無数のバイキン! 口の中が壊死していき、最早治療は不可能。もっとまじめに歯を磨いていればと後悔しながら、死ぬ最後の瞬間まで苦しみ続けるのだ!」

「「「ぎゃあああああああああああああああ!!」」」


 想像してしまったのか、半数近い子供が絶叫をあげる。


 今の俊が言っていることは前世で子供が親から教えられることを、嘘を言わず可能な限り恐怖を与える言い方で言っているのである。

 この話は大抵の場所で親から子へと言われ続けていることであり、ずっと昔に本当にあったことでもあるのだ。

 この話を聞いてまじめに歯を磨かない子供などいなかった。

 半数以上がトラウマになるのだから!


 そんな話を知っている俊からしたら、歯磨きを、虫歯を軽視するなど、とてもではないが見過ごすことなどできようがない。


「で、でも、むしばになったら、はいしゃさんに行けば――」

「たわけが!!」

「ひい!?」


 反論しようとした子供を一喝して黙らせる俊。

 もう完全にキャラが崩壊している。


「貴様らはまだ歯医者に行ったことが無いからそのようなことを言えるのだ。オレは以前、テレビで歯の治療の様子を見たことがあるが、それはもう怖ろしいものだったんだぞ!?」


 俊は大きく一歩を踏み出す。

 みんなは大きく一歩後ろに下が――壁にぶつかってしまった。

 もう逃げ場が無い!


「最初は優しい声を掛けられてイスに座らせられる。そして執行者が助手を1人か2人引き連れて、自分の座っているイスの周りを囲むんだ。まるで逃げられなくさせるために。そして油断を誘うように再び優しい言葉をかけて、口を開けさせるのだ。それが地獄の始まりだと本人が気付かないように、な」


 ゴクッと、息をのむ音が聞こえる。

 まるで怪談話でもしているかのような雰囲気である。


「そして口を開ければ、まず入れられるのは細い針とそこから流し込まれる謎の液体! こちらの不快感なんぞ知らぬとばかりにどんどん口の中を刺され、液体を注入させられる。ようやく抜き取られたかと思えば、口の中の感覚が一部麻痺する。真の地獄の幕開けのために!!」


 それはただの麻酔だ。

 物は言いようである。


「そしてついに入り込むドリル! 不快な金属音を響かせ、自分の体の一部と言ってもいい歯を、虫歯を除去するという名目を持って、無慈悲に削り取る!」


 無慈悲も何も、それが歯医者の仕事だ。


「日常生活ではまず感じることの無い痛みに何か言いたくとも、口を開けた状態ではほとんど伝わらない。しかし、ドリルが口に突っ込まれている状態で無理に口を動かせば、どうなるかなど幼い者だとて想像できなくもない。手足で何かを伝えようとしても全く気にしない。何が『痛かったら手を上げてくださいねー』だ! 歯の治療に集中していて気付かないことがほとんどだろうに!」


 これに関しては一部正論である。

 全員とは言わないが、余程大きく反応しなければ歯医者は気にせず続ける。歯医者からすれば少しの反応で止めてたらいつまでたっても終わらないのだから。

 そして口の中という繊細な所にドリルという危険なものを入れるのだから、かなり集中して事に当たらなければならない。それこそ治療を受けてる人が小さく邪魔にならない程度に上げた手など、気付かないほど集中するのだ!


「今の話を聞いて、貴様らはまだ歯磨きを、虫歯を軽視するのか?」

「「「…………」」」


 もう誰も、何も言わなかった。

 首がちぎれんばかりに横に振る者、涙目になって怯える者、ガタガタと震える者と様々だが、もうこの場に歯磨きと虫歯を軽視する者などいなかった。




 余談だが、この年にとある幼稚園にいた子供は生涯虫歯になることはなかったという。

 みんな仲良くトラウマを植え付けられたらしい。


 作者は歯磨きが下手で、よく世話になっています。


 次回、『閑話 麻倉俊 視点:日常①』


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