第14話 事情の説明と怪しい影
「「てんせーしゃ?」」
「そ、転生者。それがオレの正体だよ」
あの河童事件から数日が経っていた。
事件の翌日にも俊・大悟・菜々美の3人は顔を合わせたが、3人とも疲れが全く取れていない様子で、幼稚園でもぼ~としているだけだった。
特に大悟は、一言もしゃべらずに真っ白に燃え尽きている。
一体何があったのだろうか?
ちなみに、その日は先生が必ず俊たちを監視しており、「あなた幼稚園の先生って仮の姿なんじゃ?」と言いたくなるほどの凄まじい眼光で睨みつけていた。真っ白な大悟は何も反応せず、菜々美はずっと涙目で、俊は「牢屋にぶち込まれて監視される凶悪犯ってこんな感じなのかな?」と若干ズレた感想であった。
それから数日して、疲れも取れ監視の目も無くなったので、明日にはあの日言えなかったことを話すと俊は大悟と菜々美に言ったのだ。
そして今、幼稚園の端っこにあるスペースに3人はいる。
大悟からは「こんなところで話してもいいのか?」と聞かれたが、魔術のことがすでにバレている今だから使える方法で俊は対処していた。
それが『人払いの結界』と『遮音結界』の2つの魔術である。
2つとも『結界魔術』に分類される魔術であり、『人払いの結界』は指定した範囲内に自然と魔術師以外の人が来なくなり、『遮音結界』は指定した範囲内の音が外に漏れなくなる。どちらも魔術師以外には存在を感じ取ることができないうえに、視認できる類の魔術ではないので、中途半端に範囲を大きくして不自然に人がいない空間ができないようにすればバレることもない。
だからこそ、堂々と幼稚園で秘密の会話ができるのだ。
「オレはこの世界とは違う世界、つまり異世界で生きてきた記憶があるんだよ。ほら大悟、覚えていないか? 3歳の頃にオレが病院に運ばれたことがあっただろ? あの時に前世でアレンって名前の魔術師として生きていた記憶が蘇ったんだ。そして、魔術も問題なく使えた。これが――って大丈夫か2人とも?」
「だいじょうぶかどうかで言ったら、だいじょうぶじゃねえな」
「チンプンカンプンだよ~」
「そりゃそうか。えーとできるだけ簡単に言うと――」
その後も俊は魔術について説明した時と同じように、1つ1つ丁寧にかつ分かりやすく、自分という存在について説明していった。
「さてと、一通り説明し終えたと思うんだけど、質問ある?」
「しつもんっていうか、ぎもんなんだけどよ。シュンって今の話だと母さんや父さんよりも昔は年上だったんだろ? あのころからみょーにしっかりしているとは思ってたけど、そのことふまえてもそんな年上に見えないっつーか……」
「前世じゃ割とノリのいい性格だったんだよ」
「あっそ」
これは本当のことである。最後の方では死にたがっていた前世の俊ことアレンだが、元々はかなりノリがよく今の俊とほぼ同じ性格だったのだ。
「えっと~、まほうとまじゅつって何か違うの~?」
「あ~そこらへんは少しややこしいんだけど、努力しないと使うことができないのが魔術で、理論もクソもなく適当に言葉を言うだけでありえないことが現実になるのが魔法だな。要は物語の中に出てくるようなものを指すんだよ。ほら、シンデレラだっけ? あれみたいな」
魔術は簡単に覚えられるようなモノではない。
素質が高い魔術ほど習得するのに掛かる時間は減っていくが、全く努力しなくていいなんてことはない。そのため、エヴァーランドの魔術師というのは強いか弱いか、性格が良いか悪いかの違いはあれど、一定以上の強さを持つ魔術師は皆が努力家なのである。
まともな性格であれば、魔術師で何か努力することをバカにする者などエヴァーランドにはまずいない。いたら大した奴じゃないと逆にバカにされる。
なので俊が初めてシンデレラの絵本に出てくる魔女が使った魔法を見た時は、大悟曰く、かなり苦虫を噛み潰したような顔をしていたらしい。
最後に大悟は、ここ数日で1番気になってる質問をした。
「じゃあ、オレらにもまじゅつって使えたりする?」
「普通は無理だな。そもそもこの世界って魔力も無いみたいだし」
俊の答えに大悟だけでなく、菜々美もガックリする。
やはり2人とも魔術に興味があったらしい。
しかし俊は「ただし」と続ける。
「普通じゃない方法なら、無くもない」
「「え!?」」
「いやそんな希望に満ちた顔すんな。できるかまだ分かんないんだから。とりあえずオマエら、背中向けてじっとしていろ」
聞きたいことはまだあったが、魔術を使える可能性があるということで、素直に背を向ける2人。その2人の背中に手を置いた俊は『分析』を発動し、2人を念入りに調べていく。
実際は10秒ほどしか時間は経っていないが、大悟と菜々美にとってはその10秒が数分にも感じられた。そして……
「……驚いたな。まさか2人とも適性があるなんて。これが運命ってやつか?」
「ど、どうだったんだよ」
「ドキドキ」
「まあなんだ。結論から言うとな、2人とも魔術を覚えることが出来そうだ。ただその方法をするにはここだとさすがに目立つから、もう何日かして母さんたちの警戒が薄れた時にオレの部屋で行う形になるだろうけどな」
その答えに、大悟と菜々美は、
「「やったーーーーーーー!!」」
「ちょ、オマエら! いくら結界やっているからって、そんな嬉しそうな動きしているのに何も聞こえないんじゃ周りから怪しまれるって! ああもうほら先生がこっちに気付いてるぞ! 嬉しいのはもう分かったから、早よそれやめんかーーー!!」
周りを気にして慌てる俊。これから先生への言い訳もあるので勘弁してほしいと思っている。しかし、その顔はどこか楽しそうであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
人通りの少なくなる真夜中。
俊たちの暮らしている市を流れる川の近くに2つの影があった。
その川のある場所は、河童の目撃情報があった場所でもある。
「では妖怪、というより河童の気配はもう無いのだな?」
「ああ。向こうのドタバタが続いているせいで、動くのが大分遅れたからな。最悪の事態も想定していたが、あくまでも毎年テレビに取り上げられる程度で済みそうだ」
「そうか。ではこの後は報告書作りか……」
「面倒だが仕事だからな。しかし、一体どこの河童だ? こんな目立つマネをするなんて。急にいなくなったことといい、この前のドタバタの原因も含めて、この世界で何が起きてるんだ……?」
これで第1章は終了です。第2章は閑話をいくつか挟んでからの開始となります。
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次回、『閑話 虫歯の恐怖』




