第9話 河童の好物はキュウリ! それ以外は認めん
今日はついに『こっくりさん』で判明した、河童が現れると出た日だ。
俊が『こっくりさん』で河童が現れる日時と場所を特定した翌日の幼稚園で、俊・大悟・菜々美の3人はどうやってその時間前に出現場所まで行くかを話し合った。
その結果、当日母親たちに「今日は少し長く遊ぶ予定だから、迎えは遅くてもいいよ」と言い、バレるのを遅らせる。そして以前から貰って溜めていたお小遣いでバスに乗り、目的地の近くで下車。目的地で時間まで静かに待ち、河童が出たら大きな声で友好を結べないか試す。
これが大まかな作戦内容である。
そして、現在の時刻は午後2時過ぎ。
河童出現予定時刻は午後3時なので、そろそろ行動する時間だ。
幼稚園でやることは終わり、今はみんなが思いおもいに遊んでいる。
ここで最初のミッションがスタートする。
幼稚園の外、その隅っこにいるのは俊たち3人。
「大悟、菜々美。準備はできているな?」
「は~い」
「なあ、今さらだけど本当にそこにカッパが出てくんのか?」
「問題ない。こっくりさんを信じろ!」
「……そこは『オレを信じろ!』じゃないか?」
大悟が何か言っているが、俊はまるっと無視する。
「ではこれより『初めてのおつかい。河童にキュウリを届けよう編』作戦を開始する。総員、いつでも動けるようにしておけ」
「「何その作戦?」」
相変わらず俊の作戦名は酷かった。というか、幼稚園児のする初めてのおつかいとしては難易度が高すぎるのではないだろうか。
「では最初のミッションとして、隙を見て幼稚園から抜け出すとしよう」
「う~ん、けどせんせーもいるし、見つかるよ~?」
当たり前のことだが、子供たちに何かあるといけないので常に先生が最低1人は外で目を光らせている。万一のことがあると、すぐに責任問題にされてしまう可能性が高い現代社会。先生も要人を護るため周囲を気にするSP並みに目を鋭くして見張っていた。
鋭すぎて怯えている子もいるが、そんなのお構い無しだ!
「問題ないと言ったろ? 合図したらすぐ行くぞ」
不敵な笑みを浮かべながら指パッチン(モドキ)をする俊。
――『念動』発動!
――ガッシャーーーン!!
「うわっ!」
「な、なに!?」
突如響いた大きな音に驚く子どもたち。
見張っていた先生はすぐに音のした方へ向かう。時代劇なら「何奴!?」という声が聞こえてきそうな顔をしていた。
「よっしゃ! 作戦開始だ。今のうちに行くぞ!」
「お、おー!」
「え!? な、なに? 何なの~?」
俊がしたのはそれほど難しいことではない。
普段は子供たちが近づかないように柵で通れないようにしている道具置き場に密かに細工をし、『念動』で置かれている道具の1つを動かすと、大きな音が出る崩れ方をするようにしただけだ。
俊たちはみんなの意識がそちらに向いている間に幼稚園を出る。
これが1つ目のミッションだった。
「なあ、シュン。一体何をしたんだ?」
「手品だ」
「え? でも~」
「手品だ。OK?」
「「ア、ハイ」」
魔術を使って困ったら、強引にでも「手品だ」で通す。
最近になって俊が覚えた誤魔化し方である。
無事に幼稚園の外に出た俊たち3人。少し早足で向かったのは1番近くにあるバス停だ。ここで2つ目のミッションが待っている。
今の俊たちの格好はザ・園児といった水色のカワイイ服に黄色の帽子の姿である。いくらお金を持っていても、そんな服装の子供3人が乗車したら運転手や乗客に怪しまれる。 最悪、幼稚園に連絡を取られてしまうかもしれない。
だからこそ、その問題を突破する方法を俊は事前に考えていた。
元々バスが来る時刻を確認したうえで作戦を起こしているので、ちょっと待てばすぐにバスは来る。俊からは一瞬だけだが困惑した顔のバスの運転手が見えた。おそらく、人がいるのでバス停に止まる準備をしたものの、いざ近づいたら保護者の姿も見えない園児3人だったので訝しんでいるのだろう。
一応バスの扉は開けてくれたが、俊たちが乗り込んだ時に目の前にはその運転手のおじさんがいた。わざわざここまで来たようだ。
「坊やたち3人かい? お母さんや大人の人はいないのかな?」
運転手は優し気に聞いてきたが、目は真剣だ。
ここで中途半端に誤魔化しても意味はないだろう。よく見ればバスの中にいる数人の男女がこちらを怪しんだ目で見ている。
だから俊は事前に決めた突破方法を行う。
「あのね、今日はおともだちと3人でおつかいするの。ようちえんから来たんだ。せんせーも『がんばってね』って言ってくれたんだよ? はなれたとこでテレビの人がついてきてるから安心なんだって、おかーさんが言っていたんだ!」
俊に精神的ダメージ!
精神HP:72/100
大悟と菜々美が目を見開いて「オマエ誰だよ!?」みたいな表情をしているが、今の俊にそちらを気にしている余裕はない。
「テレビ……何のおつかいだい?」
「あのね、明日はおかーさんのたんじょーびなんだ。それでみんな来るからお花あげようって話になって、それでなかのいい3人でお花を買おうって、テレビのぼしゅーがあったからでんわしたらOKだったんだって!」
俊の精神に追撃ダメージ!
精神HP:59/100
「テレビの人はどこにいるんだい? 見当たらないけど……」
「あのね、ついてきてる人たちはプロだからかんたんには見つからないんだって。いどうするばしょに何人もいて、何かあってもだいじょうぶなようにしているんだって。ボクもさがしてみたんだけどみつからないんだ。すごいよね~」
「……そうか。お金は持っているんだね? 降りる場所も分かるかい? 何か困ったらおじさんに相談していいんだよ」
「うん! おじさん、ありがとー!」
俊の精神にクリティカルヒット!
精神HP:40/100
そんな会話の後、無事バスに乗車した3人。
1番後ろの席に座り、バスは問題なく目的地に向かう。
乗客の何人かは窓からテレビカメラを探していたりするが、先ほどから俊がずっと俯いたまま微動だにしないため、恐るおそるといった様子で大悟と菜々美が心配する。
「……」
「シュン、大丈夫か?」
「……」
「ど、どっかいたいの~?」
「…………ガハッ!」
「「わ!?」」
俊が吐血した。
正確には吐血していないが、そうとしか見えない。
どうやら予想以上に精神的なダメージが大きかったようだ。
「ここまで来れば後は河童に会うだけだ」
あの後、数分してようやく精神が回復してきた俊。
自分でやった事とはいえ、もう2度としたくないと、早く言動が周囲から変に思われない年齢になりたいと強く思っていた。
「でだ、古来より動物と……いや、妖怪だったか。それと友好を結ぶのは単純ではあるが、食べ物でつるのが1番いいとされる。それは昨日話したよな? と言うわけで、再度荷物チェックだ。河童にあげるものは持ってきたな?」
「もちろんだよ~」
「一応、家からクッキー持ってきたぞ」
「「え?」」
ポケットからどこにでも売っていそうなシンプルなクッキーを出して答えた大悟に、信じられないとばかり目を見開く俊と菜々美。
「……大悟、まさかと思うがそれしか持ってきてないのか?」
「え? 何かおかしいか?」
「今から会うのはカッパさんだよ~。ダメだよ~」
「じゃあオマエらは何を持ってきたんだよ?」
若干不機嫌になりながら訪ねた大悟に、俊と菜々美の2人は園児用の小さなカバンからあるものを取り出した。それは――
「カッパさんと言えばキュウリだよ~!」
「河童と言えばキュウリに決まっているだろ!」
2人が取り出したのは何本ものキュウリ。
「キ、キュウリ? え? 何で?」
「河童の好物はキュウリだと古来からの常識だろ!」
「そうだそうだ~」
そんな古来からの常識があったかどうかは不明だが、2人は河童と友好を結ぶためにどれだけキュウリが必要不可欠かを大悟に教えこんだ。
きちんと作戦を立てていた俊。
制限時間は母親たちが来るまで。一応子供が外に出ないよう鍵の掛かった扉がありましたが、俊がピッキングで事前にこじ開けていました。
自分の立てた作戦で自分がダメージを負う事態に。
次回、ついに河童登場?




