第8話 UMA出現? 助けて! こっくりえもん!
「ねえねえ、聞いた聞いた!?」
「どうしたの? 『こっくりさん』はもう、こりごりよ」
「しんれーしゃしんもやめてよ」
「どっちも違うってば! UMAだよ! 最近わたしたちのすんでる市でもくげきされているんだって! しかもカッパらしいんだ!」
ある日の幼稚園。いつものように過ごしていた俊の耳に気になるワードが聞こえたので振り返れば、随分前に『こっくりさん』をやり、俊の思いついたイタズラの対象になった3人の女の子がいた。
あの「こっくりさん事件」以来『こっくりさん』に関しては自粛しているようだが、どうもその内の1人がオカルト系にのめり込んだもよう。俊が名前を確認しようとしても、その度に太陽や室内の光がうまい具合に胸元の名札を隠す。まるで世界が「まだその時ではないぞ」と干渉しているかと思われるぐらい、不自然に名前を知ることができない。
この女の子、以前水遊びの時間に恥じらいなんてまだあるか! とスッポンポンになって水着に着替えていた時も、謎の光が胸や下半身を隠していた。正直、俊としては魔術が使われたのではないかと疑うぐらい謎な光だった。
俊が後ろを振り向いているので、大悟と菜々美も気にしだす。
「ユーマって、みかくにん生物だっけ?」
「あ、カッパは聞いたことがある」
「そうなんだよ! 最初にもくげきされたのは1週間ぐらい前らしいんだけど、たまたまさんぽ中に川をながめていた人が見つけてしゃしんをとったんだって! それから出るばしょは毎回違うけど、この市を流れる川で見れるかのうせいがあるから、きょうみもった人は川にはりこんでいるんだって。わたしもお父さんにおねがいして、もくげきされたちてんを次の休みの日に回るんだ。」
河童。それは俊も興味を持った存在であった。
異世界エヴァーランドには魔獣と言う人に害を為す生物が多く、剣や弓の腕に自信のある平民が賞金目的で狩る場合もあれば、町や村に滞在する兵士が対処する場合もある。平民の魔術師が戦うことも珍しくない。どれも対処が難しい強力な魔獣が出現した際は、貴族が討伐することになっている。
俊はこの世界に魔獣が存在しないことは調べて分かったが、UMAと呼ばれる未確認生物も同時に知った。世界中で目撃情報があり、大半は偽物だそうだが、中には実在の可能性が非常に高いものもいる。
そして河童は日本で目撃されることがあるUMAであり、日本で1番と言っていいくらい有名な妖怪だ。妖怪も実在を疑われており、俊はUMAと何が違うんだ? と疑問を覚えたが、一緒くたにしてはいけないらしい。
聞こえてきた河童の話に反応したのは菜々美だ。
「カッパさんか~。会ってみたいな~」
「あん? 会ってどうすんだ?」
「おともだちになりたいの~」
「けどよ、今の話だと、いつどこに現れるのか分かんねえんだろ?」
「そ、そうだけど~」
いつもの菜々美ならすぐに引くところだが、動物好きとして本物なら河童とも仲良くしたいと本気で思っているらしい。
俊は菜々美の珍しく真剣な目を見て、そう判断した。
「よし! じゃあどうにかしよう」
「「え?」」
「近いうちに河童に会いに行こうじゃないか」
「で、でもどうやって~?」
「ふふふ、そ・れ・は――」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「助けて! こっくりえもん!!」
「「いや、意味分かんない」」
非常に珍しく語尾を伸ばす口調も忘れて、大悟と一緒にツッコむ菜々美。それほど唐突に俊が言い出したことが意味不明だった。
こっくりさんとド〇えもんの両名に謝罪すべきだ。
場所は麻倉家、俊の自室。
幼稚園からの帰りに俊は少し3人で遊びたいと母親たちを説得して、大悟と菜々美は今ここにいる。ボードゲームで遊ぶと言い、母親たちから離れて2人を俊の部屋に連れ込むのは意外と苦労した。隠れて何かをやるには精神に干渉する魔術も必要になってくるかもしれないと、俊は今後の予定として心の中のメモに書いていた。
「日本では本当に困ったことになった際、誰かに助けを求める時に『〇ラえも~ん!』と言って助けを求めるのがお約束らしい。今回はこっくりさんに協力を求めるため、2つを合わせてあのような言い方になっただけだ。断じて面白半分ではない」
そんなお約束があるなんて聞いたことがない。
そして、俊は間違いなく面白半分だ。
「なあ『こっくりさん』って、カッパの話をしてたあの3人がやってたやつだろ? なんつーかシュンらしくねーな」
「わたしもちょっと~」
「心配するな。実はあの『こっくりさん事件』の時から、そういうのにオレも少し興味を持ってな、ひそかに調べていたんだ。そしてついに! 度重なる交渉と信頼の末、自分1人でもこっくりさんを呼び出せるようになったうえに、こっくりさんが現れやすい時間と場所が分かるようになった! この近辺だと今の時間帯が1番現れる確率が高い。後は実行するだけだ」
「…………」
「え~と……」
俊は、大丈夫だ信じろ! と熱く語っているが、大悟も菜々美もいまいちピンと来ないというか、胡散臭さを感じていた。
しかし、それなりの付き合いの3人だからこそ、俊が意味も根拠も無くそのようなことを言わないのが分かるので、余計にどう反応すべきか困っていた。
そんなことを知らない俊は『こっくりさん』用の紙と地図、見慣れない透明な板を準備し始めた。もちろん10円玉も忘れない。
そして始まる『こっくりさん』。本来なら2~3人で10円玉に指を置かなければならないが、今回は俊1人だけである。残った2人は側で見ている。
「こっくりさん、こっくりさん、どうかおいでください。おいでになられましたら『はい』の方へお進みください」
最初は変化の無かった10円玉だが、3回目に突入した途端に急に「はい」の所へ10円玉が動く。俊は「来たか」とつぶやいた。
「こっくりさんに質問いたします。最近この市で話題となっている河童が次に現れるのはいつでございましょうか?」
――ズ、ズズ、ズズ、ズズ
再び動き出した10円玉。それが示したのは、
「……2日後か。こっくりさんに次の質問をいたします。次に河童が現れるのは何時ごろでございましょうか?」
そして三度動き出した10円玉が示したのは、午後3時。
「じゃあ最後だな」
そう言って俊は紙をどけて、俊たちが住んでいる市の地図と、その地図より少し大きい網目模様と鳥居がマジックで描かれた透明なプラスチックの板を地図の上に乗せる。
「こっくりさん、こっくりさん、先ほどまでと様子は違いますが、ご質問に答えてくださいませ。次に河童が現れるのはどこでございましょうか?」
普通の『こっくりさん』とはあきらかに違うやり方だが、10円玉は問題なく動き出し、網目模様になっている内の1つで止まった。
そこは俊たちの通っている幼稚園からだと、遠くはないが近くもない距離にある住宅地から少し離れた場所の川だった。
「ここか。幼稚園からだと少し距離があるな。バスを使えば行けるか。よし、大悟! 菜々美! 日にちも時間も場所も分かった。とりあえず詳しいことは明日幼稚園で話そう」
「……おう」
「……わかった~」
先ほどから大悟と菜々美は、俊が1人で『こっくりさん』をしているところを見たわけだが、やはりと言うかいまいち信用できずにいた。だというのに、俊は妙に自信満々で2日後のことをぶつくさ考えながら言っているので何も言えず、結局は心にモヤモヤしたのを残したままその日は帰っていった。
大悟と菜々美の2人が帰り、自室に1人でいる俊は、
「……本日はありがとうございました、こっくりさん」
そんなことを、誰もいないはずの空間に向けて言った。
俊が住んでいる市で河童が目撃されました。
菜々美は河童とお友達になりたいです。
『こっくりさん』とは何なんでしょう?
次回、俊の精神に多大なダメージが!?




