表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖怪タロウと夏休み  作者: 広越 遼
オオハス舟
6/13

オオハス舟.1

 3 オオハス舟




「お帰りなさい。まあまあ、またそんな泥だらけになっちゃって。すぐお風呂で流して来なさいね。もう温まっとるよ」

 晩ごはんの準備をしてたおばあちゃんは、サクヤをちらっと見るとそう言った。ごはんを作っているときのおばあちゃんは、いつもよりもっとぱたぱたしている。

「はーい」

 サクヤが返事をするよりも早く、台所にかけ戻っていった。

 サクヤはお風呂場に向かって歩いた。おばあちゃんちはお風呂に行くまでろうかを二回も曲がる。

お風呂場に行く途中、台所からお母さんとおばあちゃんの話し声が聞こえてきた。

「珍しいな。サクヤが泥だらけになるなんていつぶりだろ」

「大人しい子だもんね。あんたらにお風呂入れなんて言ったら三十分はぶーたれてたよ」

「えー? 私も?」

 お母さんにもそんな子供時代があったんだ。サクヤは少しおかしくて一人でくすくす笑った。

 おばあちゃんちのお風呂は、うちのお風呂より背が高い。またいで湯船につかるのが大変なくらいだ。ざぶんと湯船に入ると、お湯がいっぱいあふれた。

 お湯はすごく熱くて、サクヤの顔はすぐ真っ赤になった。

 ちょっとお鍋になった気分。

 だなんてことを考えた。

 お風呂から出るともうごはんだった。うちはお母さんが帰って来てから作るから、もっと遅い。今日のごはんは山菜鍋だった。お鍋を見たら、お風呂で考えたことを思い出して、思わず笑顔になった。

「おっ、サクヤは鍋が好きか? こいつはじぃちゃんが取ってきたキノコだ」

 顔を真っ赤にして酔っ払ったおじいちゃんが言った。

「家のキノコより大きいね。それにおいしい」

 お母さんが言ったのに、サクヤはうんうんうなずいた。

「じいちゃん頑張り過ぎちゃってね、まだまだたんとあるのよ。今回はお土産で持って帰ってね」

「うわー、助かる。最近じゃキノコなんかも高くてさ」

 ごはんを食べ終わったら、サクヤはすぐに眠たくなった。ごぉー! と酔っ払っていびきをかくおじいちゃんの隣で、サクヤも一緒に眠ってしまった。


 オオハス舟に乗る夢を見た。もっと窮屈になるかと思っていたのに、オオハス舟はとても大きくて、サクヤがごろんと横になって手と足を広げても、まだまだ余裕があった。カオルとタロウは別のオオハス舟に乗っている。サクヤの舟にはミッケが乗っていた。サクヤに寄り添って甘えてきてる。白いふわふわの毛が気持ちよかった。大きな池を三人と一匹で漂っていると、遠くに大きなキノコが見えてきた。

「あそこに行こう」

 タロウが人差し指を向けてはしゃいだ声で言った。オオハス舟は勝手にすいすい動き出した。

 ちょっと進んだとこで、突然ミッケが毛を逆立ててにぎゃーと鳴いた。ミッケを見ると、ミッケは空を見ていた。

 サクヤも一緒に空を見ると、緑色の大きな蛇がサクヤたちに向かって飛んできていた。頭に光る輪っかがあって、羽根もないのに空を泳いでいる。

「竜だ!」

 タロウがあわてた声で言った。すると竜が大きな口を開けて火をふいて来た。

 ごぉー! ごぉー! ごぉー!

 真っ赤に燃える火柱が、サクヤたちに向かって一直線に飛んでくる。

「大変! どうしたらいいの?」

 カオルはオオハス舟をとんとん叩いた。するとオオハス舟がすいすい動いて、三本の火柱をよけてくれた。

「うまいぞ! よーし、急いでキノコの下まで行くぞ」

 竜はキノコの下までは追って来なかった。キノコのかさが大きくて、竜のいる空が見えないのだ。

 帰る時はどうするんだろう?

 サクヤはそう思ったけど、すぐにこれが夢だと思い出した。だから帰りは心配ない。

「ねーねーほら、このキノコ、足から小さいキノコが生えて来てるよ」

 カオルが大きなキノコのそばで言った。

 いつの間にか大池はなくなって、三人と一匹は地面に立っていた。

 学校の一番大きな桜の木よりも、キノコの足は太かった。そんなキノコの足から、小さいキノコが生えていた。

「これ、取っても平気?」

 サクヤがタロウにきくと、タロウはしわくちゃ笑顔でうなずいてくれた。

 これでおじいちゃんにお返しできるか考えたけど、夢の中だからやっぱり無理だ。

 そこから先はカオルもタロウもいなくなって、サクヤはおじいちゃんとおもちゃの車に乗っていた。どうして乗っているのか考えたら、おじいちゃんが迎えに来てくれたんだって気がしてきた。

 おもちゃの車はがたごと揺れて、サクヤをおばあちゃんちまで運んでくれた。


 次の日目が覚めると、サクヤは布団の中にいた。となりを見ると、お母さんが寝てた布団がきれいにたたまれている。

 サクヤとお母さんが泊まっている客間には、古い時計がかかっている。古すぎてガラスが黄色く曇って少し見にくい。少し壊れかけてる時計は、一秒に三回、ぱちぱちぱちと音を立てる。目をこらすと、時計はもう十一時を指していた。

 サクヤは起き上がって布団をたたんだ。家ではいつも適当にたたむけど、おばあちゃん家だから少し見栄をはってみた。だけどお母さんのほどきれいにはたためなかった。

 サクヤが居間に行くと、カオルがもう遊びに来ていた。お母さんに宿題を見てもらってる。

「あ! サクヤ君おはよ」

「カオルちゃんおはよう。ずいぶんねぼうしちゃった」

 サクヤはお母さんにもおはようと言って、カオルちゃんの宿題ノートをのぞき込んだ。ノートはアルファベットしか書かれてなかった。

「サクヤ君はもう学校の宿題終わったの?」

「ううん。けどもうそんなに残ってないよ」

 カオルは少しお姉さんぶった感じで、えらいえらいとほめてくれた。

 サクヤは行儀よくカオルとお母さんが宿題をするのを見ていた。カオルは宿題をするのにも元気いっぱいで、二人とも楽しそうだ。

 一時間くらいすると、おばあちゃんがおそばをゆでて持ってきてくれた。

「鳴坂さんとこには電話しといたから、カオルもたんとお上がり」

 それからおじいちゃんと大おばあちゃんも来て、みんなでお昼ごはんを食べた。

 今日は昨日よりも五度も暑いらしくて、冷たいおそばがつるつるのどを通っていくのがおいしかった。

 お昼ごはんを食べ終えると、早速サクヤとカオルは遊びにでかけた。

 今日はタロウがオオハス舟に乗せてくれるのだ。

 二人の足取りは昨日よりもずっと速くて、滝のあるみずうみまであっと言う間に着いた。

 みずうみの向こうに黄色い花畑は見えない。

 二人はまた手をつないで、滝の裏の道を渡った。

 昨日と同じで、おとぎの道はとても長く感じた。

 滝の裏から抜け出すと、不思議なことに、やっぱりそこは黄色い花畑だ。向こう側を見てみると、そこは今までいたごつごつした岩場だ。

「おーい」

 サクヤたちが花畑に入ると、森の手前からタロウが手を振ってきた。

 白い毛むくじゃらが、顔をくしゃくしゃにしながらかけよってきた。

「こんにちは」

「こんにちは」

「おお、こんにちはだ」

 カオルとサクヤが続けてあいさつすると、タロウの顔はよりいっそうくしゃくしゃになった。

 タロウは自分の身長よりも三倍は高い竹の棒を持っていた。両端をまっすぐに切りそろえた細長い竹だ。

 どうしてそんなものを持ってるんだろう?

「それなあに?」

「これか?」

 タロウはとんとんと竹で地面を叩いた。

「これはかじって言んだ。これでオオハス舟操縦すんだ」

 サクヤもカオルも想像がつかなくて、二人で目を合わせて首をかしげた。

「ははは。まあ見てのお楽しみだな」

 タロウはにまっと笑って二人についてくるように言った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ