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妖怪タロウと夏休み  作者: 広越 遼
妖怪まつり
10/13

妖怪まつり.1




 五 妖怪まつり


 昨日いっぱい泣いたから、次の日はお母さんたちに会うのが恥ずかしかった。だけどお母さんたちは、何もなかったみたいに普通にしててくれた。

 お昼のあとにカオルが来た。気付いたらカオルは最初の日よりもずっと真っ黒だ。

 サクヤは自分の腕を見た。自分の腕もカオルとおそろいだった。

 カオルは今日も台風みたいないきおいで、サクヤの手をひっぱって連れ出した。

「今日はタロウ来るかな? あ、もし今日もタロウがいなかったら、ちょっと二人だけで探検してみよ」

「えっ、大丈夫かな?」

 そんな話をしながらおとぎの道を抜けると、ちょうどタロウの声が聞こえた。

「おーい! サクヤー! カオルー!」

 タロウは森の中から出てきたところで、二人に大きく手をふっている。

「あ、タローウ! 昨日はどうしていなかったのー?」

 カオルが遠くのタロウに、大きな声でそうきくと、タロウがかけよってきた。タロウはとても足が速くて、あっという間に二人の近くまで来た。

「おお、昨日はごめんだ。言い忘れてた」

「ううん、サクヤくんと二人で遊んだから大丈夫だよ。昨日はなにかあったの?」

 タロウが近くに来たから、二人とも普通の声に戻った。

 カオルの質問に、タロウはいつものしわくちゃ笑顔じゃなく、しっとりとほほえんだ。

「昨日はおれの父ちゃんと母ちゃんの命日だったんだ。だから墓参り行ってた」

 カオルの目が大きくひらいた。サクヤは命日という言葉は知らなかったけど、タロウの言葉から、その意味がだいたい分かった。

「タロウくんのお母さんとお父さん、死んじゃったの?」

「ああ、そうだ。もう六年前だ。だからおれ、今はおっちゃんと暮らしてんだ」

 サクヤの学校にもお母さんやお父さんがいない友達はいた。だけど二人ともいないなんて話は初めてだ。

 サクヤはミッケが死んでしまったとき、みんなからかわいそうと言われるのが、すごくいやだった。だからそれは言っちゃいけないと思った。

 だけど他になんて言っていいかが分からなかった。

「六年も前のことだから、おれはもう大丈夫だ。おっちゃんもいるし、今はサクヤとカオルとも友達だ。だからすごく幸せもんだぞ」

 タロウはいつものしわくちゃ笑顔で言った。

「私もだよ! 私もタロウと友達になって幸せもんだ」

 カオルが少しタロウの口まねをして言う。タロウがそれにげらげら笑うと、サクヤもほっとした。

 それから三人はキョジンイセキに向かった。タロウが言うには、この妖怪の森には、むかし巨人が住んでいたのだそうだ。

 巨人の古い家が六軒、森の真ん中にそびえ立っていた。いくつもの大きな岩で組み上げられた家には、森のつたがぐるぐる巻きついている。

 家の中には、太い切りかぶの上に、平らな石をはめたテーブルがあった。テーブルはサクヤの背の二倍は高い。三人はテーブルの横にある石ざぶとんのまわりにすわり、おやつを食べた。

 今日のおやつはカオルが作ってくれたパンケーキだ。

 タロウが「ふわふわだ!」なんてびっくりした目をするから、サクヤとカオルはおかしくて大声で笑った。

「あ、そうだ! 明日はおれの村のまつりだぞ。お前たちも手伝ったんだから、お前たちも来い」

「ほんと? 行ってもいいの?」

 おやつを食べ終わってひと休みしていると、タロウがそう言ってきてくれた。カオルが目をきらきらかがやかせる。

「妖怪のおまつりってどんなおまつりなの?」

 サクヤがきくと、タロウがまたげらげら笑った。

「どうもこうもねえ。まつりってのはとにかくずっと楽しいんだ」

 サクヤはそれを聞いて、どんどん妖怪のまつりへの期待が高くなっていった。

 キョジンイセキのあと、三人はまただいだい樹を見にきた。

 サクヤが倒してしまった木からは、まだ新しい芽は生えてなかった。

「いつぐらいに生えるかな?」

「おお、きっと秋にはもう芽ぇ出てるはずだ」

 秋ならサクヤはもう帰っているから、芽が見られるのは来年になる。

 サクヤがそんな話をしたら、タロウがまゆ毛をハの字にした。

「サクヤ。帰っちまったら来らんねえのか?」

「うん。ぼくの家はここから四時間もかかるんだ」

 サクヤだってタロウやカオルと会えなくなるのはさびしかった。だけど仕方ないことだから、すなおに言った。

「サクヤくんはいつ帰るの?」

 カオルがきいてきた。

「お父さんが迎えに来たら帰るんだ。お父さんの仕事がどのくらいで終わるかは分かんないんだって。だからいつかは決まってないんだ。だけど、そんなに長くないって言ってたよ」

 サクヤが説明すると、タロウがさみしそうに笑った。

「そうか。そんなら仕方ねえな。また来るか?」

 サクヤはもちろんとうなずいた。

「そしたら私、サクヤくんに手紙書くね! タロウも書きなよ。私一緒に送ってあげる」

 タロウは手紙がなんだか分からなかったらしくて、カオルと二人で説明した。そしたらなんと、タロウは字も知らないのだという。

 だからタロウの手紙は絵で描くことに決まった。

 サクヤはタロウからどんな絵が送られてくるのか、とても楽しみだった。

 その日の夕方おばあちゃんちに帰ると、お母さんが「お父さんから電話あったよ」と教えてくれた。

 お父さんは明日の夜こっちに着いて、あさってには帰ることになった。

 お父さんとひさしぶりに会えるのは楽しみだったけど、やっぱりタロウたちと会えなくなるのはさみしかった。

 その日の夢には、お母さんもお父さんも、カオルも、ちょっと向こうにタロウもいた。おばあちゃんとおじいちゃんと大おばあちゃんと、もちろんミッケもいる。

 サクヤは眠る前にさみしいなんて思ってたことはすっかり忘れた。

 だってみんながいるんだ。さみしくなんかない。

「お父さん初めてだよ」

 お父さんがサクヤのとなりでそう言った。少し向こうにいるタロウもうなずいている。

「おれたちも人間来るのは初めてだ」

 何が初めてなのかと思っていたら、とつぜんまわりでちょうちんの火が灯った。それも一つじゃない。あたり一面見渡すかぎり、赤やみどりや黄色のちょうちんが、ぷかぷか浮いてる。

 そのちょうちんのむれが、みんなカタカタ口を開けて笑い始めた。

「わっ! サクヤくん、ちょうちんおばけだよ!」

 そうか。ぼくたち妖怪まつりに来てるんだ。

 お父さんも妖怪まつりは初めてだったんだ。

 ちょうちんおばけが口をカタカタするのが、いくつもいくつも重なって、たいこのふちを叩いたみたいな音になる。

 低い音のカタカタ。高い音のカタカタ。もっと高い音のカタカタ。

 とてもにぎやかだ。

「ぼくもちょうちんおばけ見るの初めてだよ!」

 あたりがあんまりにもにぎやかだから、サクヤは大きな声になった。

 せいいっぱい大声で言ってみたけど、それでもカオルは聞こえなかったみたいで、「えーっ?」なんて聞き返してくる。

「サクヤ、カオル! もうすぐ花火が上がるぞ!」

 タロウが両手をいっぱいに広げて、目をまん丸に開いて、大きな大きな花火のジェスチャーをしてくる。

 妖怪まつりの花火だから、きっと普通の花火じゃないんだ。

 サクヤはカオルと目があった。カオルもワクワクした顔だ。

 サクヤはミッケにもよく見えるように、だっこしてタロウのとなりまで走った。

 カオルも近くに来て、サクヤはカオルと一緒に空を見た。

 まっくらな空にきれいな星がいくつも見える。サクヤが今まで見たことないくらいたくさんの星だ。

 ミッケも二人につられて空を見ている。

「お前らどうした? 空になんかあんのか?」

「えっ? だって花火なんでしょ?」

 タロウの言葉にカオルがこたえた時、地面からばちばち音を立てて花火がふきあがった。

 赤い花火、みどりの花火、黄色い花火、青い花火、オレンジ色の花火。

 たくさんの花火におまつり会場がうめつくされた。

 サクヤの腕の中、ミッケの白い毛が、いろんな花火の色に染められる。

「お、ミッケおそろいだ」

 タロウが顔をくしゃくしゃにしてげらげら笑った。

 見てみたらタロウの毛も、絵の具をめちゃくちゃにまぜたみたいな色になってた。

「次は流れ星花火だぞ」

 カラフルタロウがにんまり笑った。それから夜空を見上げる。

 サクヤとカオルも一度目と目を合わせて、空を見る。

 まるでおとぎの道の滝みたいだ。

 真っ白な花火が空から流れ落ちてくる。

 白い花火は大こうずいになって、おまつり会場をみずうみにした。

 いつの間にか屋台もちょうちんもなくなって、サクヤはみんなとオオハス舟の上にいた。

 花火のみずうみは波うって、びゅんびゅん舟をはこんでくれた。もうあっという間に、四時間向こうのサクヤの家まで着いてしまった。

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