表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

ソーシャルゲーム第参話


定期的に訪れる災厄(テスト)


もうすぐ冬が終わり春を迎える。

その頃、春に向け、彼は穏やかな日常を送っていたのではなく、(むし)ろ、情緒不安定と言った方が正しかった。

「テストォォォァァァァ」

スマホを触り、暇潰しをする僕の隣で彼の絶叫が聞こえる。まあ彼の絶叫が聞こえるのは日常茶飯事なのだが。

今、二月下旬、高校生にとっては年度最後の期末テストなわけだ。当然、勉強も必要になってくる。ソーシャルゲームのランクを気にしている彼は無駄に多くの問題を抱えていた。

「今経験値イベントくるなよぉぉぉぉぉ」

ソーシャルゲームでは時々、ゲーム内イベントが行われる。その内容はレアなキャラが貰えたりゲーム内アイテムが貰えたりと多種多様なのだが、彼がやっているゲームではダンジョンクリア時の経験値が増えるイベントがよく行われる。経験値が増えればランク上げも速くなる。

だが、ゲームの運営はプレイヤー個人の都合に合わせてくれるわけでもなく、無慈悲に唐突(とうとつ)に開始しては即座(そくざ)に終えていく。ランクを気にしている彼にとっては一大イベントなのだが、今の彼には悠長(ゆうちょう)にゲームをプレイしている暇はない。

現級留置、所謂(いわゆる)留年というものがかかっている。

留年とは縁のない人が多いだろう。だが彼には一学期と二学期サボったつけがまわってくる。彼と僕が通う学校では三つの学期の平均点数が三十を下回る、つまり赤点となると留年の危機に晒される。

苦手な国語を一学期も二学期も放っておいた彼が悪いのだろうが少し気の毒になってくる。

「ていうか、何で今イベントきたら駄目なの?」

彼からすれば愚問かもしれないが、スマホから顔を上げ、隣で鬼の形相(ぎょうそう)で文法書に目を光らせる彼に少し面白がって(たず)ねてみた。

「あいつにランク抜かれるぅぅぅぅ」

――あいつ、か。

恐らくは彼との対話で度々出てくるSNSを通じて(つな)がった友達のことだろう。僕も少しくらいはSNSをするので、一度彼がその人と話していたのを見たことがある。

――すごい会話だった、うん。特筆しないがすごい会話だった。

以前見たことを思い出しながら考える。

「別に抜かれてもよくない?」

「今ちょっとの差でギリギリ勝っとんやん。抜かれたらあいつ調子に乗るし年下のくせに」

少し趣旨のずれた返答が返ってくる。

要するに彼の意味のない謎のプライドとイベントに乗り遅れて時代遅れになる感じが嫌なのだろう。

留年したときの方が下級生に混ざることになり嫌なのでは? と言おうとしたが、またわかりあえない押し問答が続くだけだろう。まあ彼も流石に留年まではない、と、思いたい、が……

これ以上彼の勉強の邪魔はしないようにし、口をつぐむ。

そして、スマホへと目を落とした。

勉強を邪魔しまいと一度は口をつぐんだ。だが、スマホを見た瞬間、どうしても言いたいことができてしまった。

「なあ」

「何? 今勉強しとんやっ……」

彼の文句を(さえぎ)り、無慈悲な報告をした。

「五周年イベントだって」

「あっ……」

それは彼の最後の言葉(ばくし)だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ